妹は、兄の変化を見逃さない
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
夜。
緊張した面持ちで、ユイは店の前に立っていた。
「……ここがお兄ちゃんのコンカフェ……」
扉越しに、にぎやかな笑い声と音楽が漏れてくる。
意を決して、ベルを鳴らした。
カラン、と軽い音が響く。
カウンターの向こうでヒロが顔を上げた。
「……ユイ?」
「お兄ちゃん!」
一瞬だけ、店員の顔から兄の顔に戻る。
「お、おう。飯食ってくか?」
ぎこちなく言うヒロに、ユイの目がぱっと輝く。
「いいの!?」
「家族割はねえけどな」
「払う!」
即答だった。
ニコがにこにこしながら近づく。
「こちらへどうぞ」
「ニコちゃん可愛い!」
「えっ」
ストレートな称賛に、ニコが真っ赤になる。
「そ、そんな……」
サクラがキッチンから顔を出す。
「冷めないうちにどうぞ」
運ばれてきたプレートに、ユイは目を丸くした。
「わあ……!」
一口食べて、さらに目を輝かせる。
「美味しい! ここ最高!」
「だろ」
ヒロが少しだけ誇らしげに笑った。
そのとき。
カラン、と扉のベルが鳴った。
店内の空気が、少しだけ変わる。
入ってきたのは、長い髪の女性だった。
ミレイ。
背中に流れる長い髪が、静かに光を受けて揺れている。
整った横顔。
穏やかな目。
「ミレイ、来たんだ」
ノアが淡々と声をかける。
「うん。遅くなってごめん」
ミレイはヒロに向き直り、丁寧に頭を下げた。
「初めまして。ミレイです」
「ヒロです……」
ヒロは少し硬くなりながら頭を下げる。
ユイが小声でつぶやく。
「……お兄ちゃん、顔こわい」
「ほっとけ」
ミレイは店内を見渡したあと、カウンターにいるノアの前に座った。
「何飲む?」
ノアが聞く。
「ノアのおすすめ」
「了解」
カウンター越しにグラスが差し出される。
「はい、合理的に美味しいやつ」
「その言い方、ちょっと面白いね」
ミレイは一口飲み、静かに笑った。
「うん。美味しい」
ノアの目がわずかに柔らぐ。
だがミレイはグラスを少し傾けて、ノアを見る。
「スピード早いよ。飲ませたいの?」
ノアが一瞬だけ黙る。
「合理的に考えて、そういう意図はない」
「ふふ」
距離は近い。
でも押しつけがましくない。
空気が、自然に重なっている。
ユイはじっと二人を見る。
視線。
間。
呼吸。
そして、はっとしてヒロを見る。
ヒロは全力で目を逸らした。
「俺を見るな!」
「やっぱり……」
ユイが小さくつぶやく。
「何がやっぱりだ」
「お兄ちゃん、分かりやすすぎ」
「何もねえよ!」
カウンター越しに、ノアが淡々とグラスを拭く。
「はい、次」
ミレイが笑う。
「ありがとう」
そのやり取りを見ながら、
ユイは静かに確信した。
――やっぱり、感は鋭かった。




