奴隷の薄っぺらいプライド
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
「ちなみに」
ノアが何気なく言った。
「僕、ファッションモデルやったことあるんだけど」
空気が一瞬止まる。
「……は?」
ヒロがゆっくり振り向いた。
「ガリガリすぎるだろ」
即答だった。
沈黙。
ノアの目が、わずかに細くなる。
「合理的な体型と言ってほしい」
「風で飛びそうなんだよ」
ユイがじっとノアを見る。
「確かに、線はきれい」
ニコが小声で続ける。
「でも筋肉は……」
サクラが気まずそうに視線を逸らした。
その瞬間。
ノアの中で、何かが静かに折れた。
「……証明しよう」
ぽつりと呟く。
「僕が、最も合理的で完成された身体であることを」
「何と戦ってるんだお前は」
翌朝。
まだ薄暗い時間帯。
ノアは一人で走っていた。
アパートの周囲を淡々と周回する。
昼は腕立て伏せ。
夜は腹筋。
回数はきっちり記録している。
「努力は裏切らない」
珍しく、汗を流しながら呟いた。
三日後。
「……痩せた?」
ニコが首を傾げる。
「締まった、の間違いでは?」
ノアは鏡の前に立った。
肋骨の線が、以前よりはっきりしている。
「食事は?」
ヒロが尋ねた。
「非常食」
「は?」
「効率的だからね。保存性も高い」
「カロリー足りてねえよ!!」
机の上には、銀色の包装と水だけが置かれていた。
「タンパク質どこ行った」
「合理的に削減した」
「削るな!!」
一週間後。
ノアはさらに細くなっていた。
走る距離は伸び、
腕立ての回数も増えている。
だが――
筋肉は、つかなかった。
ノアは無言で鏡を見る。
腹筋は割れている。
しかし薄い。
とにかく薄い。
「……不合理だ」
珍しく、悔しそうな声が漏れた。
その姿を見て。
「羨ましいです」
ニコが真顔で言った。
「なんで?」
「腹筋、きれい」
サクラもうなずく。
「スタイルは本当に……憧れます」
ノアが顔を上げた。
「……本気で言ってる?」
「はい」
「うん」
ヒロは腕を組む。
「ただし筋肉はない」
「言わなくていい」
ノアは小さく息を吐いた。
悔しさはある。
だが、どこか少しだけ、救われた気もした。
「……では」
静かに宣言する。
「次は食事から見直す」
「やっとか」
ユイがスケッチブックを開く。
「筋トレ中のノアも描いていい?」
「どうぞ」
「やめろ!!」
数分後。
腹筋ローラーに震えながら向き合うノアの隣で、
ユイの鉛筆が、また静かに紙の上を走り始めていた。




