お兄ちゃんは動じない
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
翌日。
チャイムが鳴った。
「宅配ですー」
ヒロは、嫌な予感しかしなかった。
「待て。誰が出る?」
「合理的に考えて、近い人が出るべきだね」
ノアが靴を履く。
「お前はやめろ!!」
だが遅い。
ガチャリ。
玄関の扉が開いた。
配達員の視線が、ゆっくりと横に流れる。
そして止まる。
――半裸のヒロ。
精密すぎる陰影。
妙に真剣な目線。
「あ、えっと……」
配達員はヒロとデッサンを交互に見比べ、気まずそうに荷物を差し出した。
背後からユイがひょこっと顔を出す。
「似てますよね? お兄ちゃんです」
「紹介するな!!」
ドアが閉まった瞬間、ヒロは頭を抱えた。
「撤去! 今すぐ撤去しろ!!」
「えー、防犯効果あるのに」
「もう証明されたよ! 別の意味で警戒されてるんだよ!」
ユイはスケッチブックを抱きしめたまま、少しだけ声を落とした。
「でも」
ヒロは、その一言に気づいた。
空気が、ほんの少し静かになる。
「ちゃんと描けたの、久しぶりなんだ」
ユイは指先を見つめた。
「前はね、途中で線が怖くなってた。間違えるのが嫌で」
言葉を選ぶように、ゆっくり続ける。
「でも、お兄ちゃん、動かなかったから」
「……モデルだからな」
「ううん。信じてくれたから」
ヒロは言葉に詰まった。
あの数十分。
茶化さなかった。
ふざけなかった。
ただ、静かに立っていた。
ユイの線を邪魔しないように。
「……まあ」
ヒロは咳払いを一つ。
「才能あるんだから、ちゃんと描けよ」
ユイの顔がぱっと明るくなる。
「うん!」
その瞬間。
「じゃあ次は全身いこう」
「待て」
「ポーズも変えて」
「待てって言ってるだろ!!」
ノアが静かに言った。
「合理的に考えて、次は僕が脱ぐべきだね」
「いらん!!」
サクラが慌てる。
「服は着てください!!」
ニコは真剣な顔で言った。
「次は集合デッサンがいいと思う」
ユイはもうスケッチブックのページをめくっていた。
新しい白紙。
迷いのない最初の一本線が走る。
ヒロはそれを見て、ふと思う。
――この騒がしい毎日も、悪くない。
そう思った矢先。
ユイがぽつりと言った。
「玄関の絵、週替わりにしようかな」
「やめろおおおお!!」
アパートに、再び絶叫が響いた。




