解禁するか、継続するか、
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
恋愛バラエティの収録を見守ったヒロは、
帰りの車内でも落ち着かなかった。
(借金、消える……!)
(でもノアに彼女……)
隣のノアは、いつも通り静かだ。
「番組だから」
「これから、ちゃんと考える」
その言い方が妙に真面目で、
ヒロは余計に複雑になる。
アパートに戻ると、
佐伯とサクラ、そしてニコが待っていた。
「おかえり、ノア君」
ニコはいつも通り、柔らかく笑う。
幼馴染の距離感。
変わらない声。
「完済、なんだよね?」
「うん」
「そっかぁ……よかったね」
本当に嬉しそうなのに、
ほんの少しだけ寂しそうにも見える。
そしてニコは、そっと差し出した。
「はい、ノア君」
タバコ。
ヒロが即座に反応する。
「ちょっと待て!!」
「彼女できたんだぞ!?」
「禁煙継続が条件だろ!?」
ノアの手が止まる。
ニコはきょとんとする。
「そうなの?」
「じゃあ……だめだね」
あっさり引っ込めようとする。
その仕草がやけに優しい。
ノアは箱を見つめたまま、動かない。
「……吸えば、うまい」
「当たり前だろ!」
「でも」
一瞬だけ、ニコを見る。
ニコは変わらず、ふわっと笑っている。
責めない。
止めない。
ただ、見ている。
「約束あるし」
ぽつり。
「怒られる」
「そこかよ」
「あと」
少しだけ間を置く。
「嫌われるの、効率悪い」
ヒロは呆れながらも、どこか安堵する。
ノアはタバコを一本抜き取り――
数秒、見つめて。
ゆっくり、箱に戻した。
「今日は、やめる」
ニコが、少し目を丸くする。
「えらいね、ノア君」
「別に」
窓を開ける。
夜風が入る。
ノアは深く息を吸う。
煙の代わりに、冷たい空気。
「……まあ、悪くない」
ニコはその横顔を見つめたまま、小さく呟く。
「ノア君、変わったね」
「合理的になった」
「ううん」
ニコは首を振る。
「前より、ちゃんと我慢するようになった」
その声はやわらかい。
少しだけ、寂しさが混ざっている。
ヒロはそれに気づいて、
視線を逸らした。
(……ああ)
(これ、静かな三角だ)
放送日の夜。
ノアはいつも通り非常食をかじり、
いつも通り配信をつける。
『吸った?』
『禁煙続いてる?』
「続行」
「契約あるし」
『彼女つよw』
「合理的な人」
コメントが流れる横で、
ニコはソファに座って、
ノアの背中を見ていた。
幼馴染の距離。
手を伸ばせば届くのに、
今は少しだけ遠い。
借金は消えた。
タバコも吸わなかった。
けれど――
消えていないものもある。
ヒロのアパートは今日も騒がしい。
笑いと、
少しの気まずさと、
言葉にしない想いを抱えながら。




