恋愛の相手は、最上位個体
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
当日の朝。
迎えに来た真田と、ヒロは小さく拳を合わせた。
「あと少しです」
「頑張りましょう」
「……はい」
これが最後の仕事。
恋愛バラエティ。
成功すれば借金完済。
失敗すれば――考えたくない。
一方その頃。
ノアはやけに早起きしていた。
「今日で終わる」
「借金、消える」
目が真剣すぎる。
動機がまっすぐ金。
番組スタート。
司会の軽快な前振りのあと、
デート相手が登場する。
画面に映った瞬間、ヒロが固まった。
「……え、強」
現れたのは、
人気急上昇中のモデル――
朝倉ミレイ。
透明感の暴力。
長い手足。
ナチュラルなのに完成された顔。
SNS総フォロワー百万人超え。
「……よりによって最上位個体」
ヒロが小声で呟く。
対面。
「ノアさん、ですよね」
「うん」
「写真集、見ました」
「立ってただけだよ」
「それがすごいんです」
ミレイ、笑う。
強い。
街歩きスタート。
並んで歩く二人。
絵面がすでにポスター。
だが会話は妙に淡々としていた。
「普段、何してるんですか?」
「返済」
「……え?」
「借金」
ヒロ、モニター前で頭を抱える。
「初手それ!?」
ミレイは一瞬きょとんとしたあと、
なぜか楽しそうに笑った。
「正直ですね」
「嫌いじゃないです」
(耐性ある!?)
カフェ。
ミレイがケーキをひと口。
「甘い」
ノアもコーヒーを飲む。
「甘い」
「語彙、共有してます?」
「効率的だから」
ミレイ、爆笑。
ヒロは気づく。
(あれ……?)
(相性、悪くない……?)
ショッピング。
ミレイが選んだジャケットを、
ノアに羽織らせる。
「やっぱり立ち姿きれい」
「何も考えてないだけ」
「それ、才能です」
ミレイはさらっと言う。
「炎上体質なのに静かって、珍しいですよね」
「自覚はない」
「そこも含めて面白い」
ヒロ、胃がざわつく。
(面白いって言った……)
(嫌な予感ワードだぞ……)
夕方。
海辺。
風が吹く。
「ノアさんって」
「恋愛、興味あります?」
直球。
ノアは少し考える。
「今は、完済の方が興味ある」
ヒロ、絶叫しかけて口を押さえる。
だがミレイは真顔で頷いた。
「目標ある人、好きです」
(強い……!)
夜。
告白タイム。
ライトの下、ミレイがまっすぐ言う。
「今日、一日楽しかったです」
「もっと知りたいと思いました」
一拍。
「よかったら、付き合ってください」
モニター室、静止。
ノアは少しだけ目を伏せる。
脳内――
(完済)
(ヤニ)
(酒)
(自由)
キラキラ。
顔を上げる。
「うん」
「今彼女はいないし」
一拍。
「あと、借金も今日で終わるし」
「言うなァァァ!!」
ヒロ、ついに叫ぶ。
だが。
ミレイは吹き出した。
「最高」
「そんな理由でOKされたの初めて」
「合理的だから」
「じゃあ私も合理的に好きになります」
――成立。
スタジオ拍手。
炎上なし。
事故なし。
借金完済、確定。
ヒロは椅子にもたれかかる。
「……終わった……」
だが画面の中。
マイクが切れたあと、
ミレイが小声で言う。
「借金なくなったら、どうします?」
「吸う」
「ダメです」
「……え?」
「禁煙、継続条件で付き合います」
ノア、初めて本気で動揺。
「それは想定外」
「契約です」
ヒロはゆっくり顔を覆った。
(終わってなかった……)
借金は消える。
だが。
自由は、消えたかもしれない。
ノアの新しい返済先は――
どうやら、恋愛らしかった。




