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借金返済まであと一歩

※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。

※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。

事務所の社長に、ヒロは呼び出された。


応接室。

やけに香りのいい茶。

やけに機嫌のいい社長。


嫌な予感しかしない。


「単刀直入に言おう」

「あと少しで、借金は返済できる」


ヒロの喉が小さく鳴った。


「……本当ですか?」


「この仕事が終われば」

「一回で、全部だ」


一瞬、視界が明るくなる。


終わる。

ようやく終わる。


だが社長は、そこで言葉を切らなかった。


「内容は――恋愛バラエティだ」


ヒロの表情が、凍る。


「当日、相手を知らされる」

「一日デート」

「最後に告白」


部屋がやけに静かになる。


ヒロはゆっくりと椅子に深く座り直した。


(ああ……)

(確信した)


この社長は、やり手だ。


流れが来ている今。

評価が上がりきった今。


あえて――不安定な場所に放り込む。


(モデルでいけた)

(写真集で空気は掴んでた)

(なのに、ここで恋愛……?)


ヒロは頭を抱えたくなる衝動を、どうにか押し込める。


「……ノアは」


「もちろん、もう了承している」


「いつの間に!?」


「“借金が消える”とだけ伝えた」


ヒロは天井を見た。


(ああ)

(あいつ、今ごろ頭の中――)


返済完了。

解放。

そして。


(ヤニと酒でいっぱいだな……)


社長は、穏やかに微笑む。


「大丈夫だよ」

「今のノアなら、面白い画が撮れる」


ヒロは、どうしても笑えなかった。


(その“面白い”って言葉)

(だいたい誰かの胃を犠牲にして成立するんだよな……)


恋愛。


ノアが、最も不得意とする分野。


感情を求められ、

言葉を求められ、

空気を読まされる舞台。


こうして――


借金完済まで、あと一仕事。


最後に用意されたのは、

いちばん向いていない場所だった。


ヒロは静かに立ち上がる。


(頼むから……)

(何も起きるな)


その祈りが、

だいたい叶わないことを、

彼はもう知っていた。

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