今日からファッションモデル
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
ブームは、次の形へと移っていった。
ノアは――
個性派ファッションブランドのモデルに抜擢された。
「喋らなくていい」
「立ってるだけでいい」
「表情も作らなくていい」
説明を受けたノアは、即答した。
「合理的だね」
担当者が一瞬だけ固まったが、
すぐに満足そうにうなずいた。
もともと細い体は、
服の線をきれいに浮かび上がらせるらしい。
中性的な顔立ち。
温度の低い目。
感情が薄いのに、なぜか視線を奪う。
ノアは淡々と衣装を着こなし、
言われた場所に立つ。
それだけ。
それだけなのに、空気が締まる。
カメラマンが息を止める。
スタッフが小声になる。
「……強いな」
「黙ってる方が、圧がある」
派手なポーズも、
わかりやすい笑顔もない。
ただ、そこに立っているだけ。
ヒロは現場の隅で腕を組み、
その様子を眺めていた。
(……最初から)
(モデルが一番向いてたんじゃ……?)
一瞬、事務所への疑念がよぎる。
(なんで恋愛バラエティ行かせた……?)
(なんで禁煙企画なんてやらせた……?)
すぐに首を振る。
(やめろ)
(これ以上考えると胃が終わる)
一方、当の本人。
ノアは撮影の合間、
非常食のバーをかじりながら、
スマホで返済額を確認していた。
残りは、あとわずか。
(あと少し……)
(全部返せば……)
頭に浮かぶのは、
未来の自分。
(ヤニ)
(酒)
二文字が、やけに輝いている。
ヒロはその横顔を見て、深くため息をついた。
(……)
(こいつ、ゴールが見えた瞬間が一番危ないんだよな)
我慢が終わる直前。
気が緩む、その一瞬。
ノアはそういうときに、
必ず何かをやらかす。
だが今は、
静かだ。
ライトの下で、
無言のまま立つ。
感情はない。
表情もない。
それでも、
なぜか目が離せない。
まるで、
人間の形をした“何か”みたいに。
衣装の布が揺れ、
シャッター音が響く。
黙って立っているだけの男が、
なぜか業界で評価されていく。
本人は、
禁欲の終わりだけを希望に。
今日も静かに、
服を着ていた。




