借金奴隷の成り上がり
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
写真集は、有名写真家が手がけた――その一点だけで扱いが別格だった。
書店の平台のど真ん中。
入口すぐの特設コーナー。
大型モニターで流れ続けるメイキング映像。
無名に近いタレントとは思えない扱いだった。
「無名タレント×自然×静寂」
「偶然生まれた、奇跡の被写体」
大げさな言葉とともに、
ノアの写真は世に放たれた。
結果――
売れた。
本当に、よく売れた。
初版完売。
すぐに重版。
気づけば三刷。
出版社も書店も、嬉しい悲鳴をあげる。
SNSでは、静かなざわめきが広がっていた。
『この人、誰……?』
『目が離せない』
『空気がきれい』
『タバコ吸ってないノア初めて見た』
なぜか禁煙中であることまで話題になり、
写真と一緒に拡散されていく。
コンカフェには、
写真集を抱えた客が並び始めた。
「非常食の人でしょ?」
「ピアノ弾く人だよね?」
「写真集の……」
ノアに、いくつも肩書きがついていく。
ヒロはレジの裏で、遠い目をしていた。
(ブームって……)
(こんな静かに来るんだな……)
騒がしい炎上ではなく、
じわじわと広がる波のような人気。
一方、当の本人。
ノアは非常食の銀色の包みを開けながら、
スマホの売上速報を眺めていた。
「……思ったより伸びてる」
「思ったよりじゃねえよ!!」
ヒロが思わず声を荒げる。
「お前、今すごいんだぞ!」
「自覚持て!!」
ノアは首を傾げた。
「立ってただけだし」
「写真撮られてただけ」
「それが怖いんだよ……」
努力を積み重ねた実感も、
狙って仕掛けた感覚もない。
ただ、そこにいただけ。
それなのに、
“芸術的”だとか“唯一無二”だとか、
本人の知らない言葉がひとり歩きしている。
事務所には追加の仕事依頼。
雑誌の表紙。
対談企画。
借金も、ようやく目に見えて減り始めた。
だが、まだ完済には届かない。
こうして――
禁煙と禁酒の副作用なのか、
偶然なのか、
気づけばブームの中心に立たされていたノアは、
状況を理解しきれないまま、
今日も静かに非常食をかじっている。
「……で、喫煙は?」
「だからまだダメだって言ってるだろ!!」
ヒロの声だけが、
いつも通り元気に響いていた。




