禁欲のその先……
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
借金返済が終わるまで――
ノアは、タバコと酒を禁止された。
絶望だった。
タバコは没収。
酒は厳禁。
コンカフェでも例外はなく、
客から差し出されるドリンクは酒ではなく――
「非常食になります」
いつの間にか、店の正式ルールになっていた。
銀色の包み。
プレーン。
チョコ。
抹茶。
ノアは無言でそれを受け取り、
無表情で噛み締める。
「……味、合理的」
「味を合理で評価するな」
結果。
ノアの食費はほぼゼロ。
ヒロの財布事情は、目に見えて改善した。
(助かる……)
(非常食、神か……)
娯楽を失ったノアは、
その分、労働に全振りした。
ロケ。
配信。
営業。
ストリートピアノ。
番組側が何を求めているのか。
どこで毒を吐けばウケるのか。
どこで黙れば神秘になるのか。
ノアは少しずつ理解し始めていた。
炎上と芸術の境界線を、
感覚ではなく“演算”で踏み分け始めている。
(……やっぱり)
(こいつ、天才なんじゃないか?)
ヒロがそう思い始めた、まさにその頃。
ついに――
例の写真集が完成した。
ヒロは恐る恐るページを開く。
言葉を失った。
写真家は、やはり凄かった。
指先まで整ったノア。
山奥の濃い緑。
自然光。
風に揺れる金髪。
人工物のような存在と、
生々しい自然のコントラスト。
「……誰だよ、これ」
そこに写っているのは、
知っているはずのノアなのに、
まるで別人のようだった。
ページをめくる。
ヌードはない。
確かに、完全な裸はない。
だが――
酒が入っているのが分かる、数枚の写真。
服が少し乱れ、
頬がほんのり赤く、
焦点の甘い目でこちらを見るノア。
無防備。
計算されていない表情。
ヒロの心臓が、不意に跳ねた。
「……おい」
慌ててページを閉じる。
(ダメだろこれ)
(色々ダメだろ……!)
本人はというと、
非常食をかじりながら淡々と一言。
「事故写真だね」
「合理的ではない」
「お前の存在が一番非合理的だよ!!」
禁煙。
禁酒。
非常食生活。
禁欲と労働の果てに生まれた写真集は、
売上ランキングを静かに駆け上がっていく。
そしてヒロの心臓には、
まったく別方向のダメージを与えたのだった。
なお当の本人は。
「次はもっと効率よく撮れると思う」
まったく反省していない。
合理的クズは今日も、
無自覚に周囲の情緒を破壊している。




