借金奴隷、全てを失う。
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
朝。
ノアはフラフラとキッチンを横切り、
そのまま壁に手をついた。
ゴン。
「……おい、大丈夫か?」
ヒロが思わず声をかける。
顔色が悪い。
目が虚無。
というか、魂のログイン状態が怪しい。
「体調悪いのか?」
近づいた瞬間――
「……酒くさっ!!」
ヒロは反射的に一歩引いた。
「お前、朝だぞ!?」
ノアは目を逸らし、ぼそっと言う。
「現金は没収されるから」
「ストリートピアノで、酒もらってた」
「換金できない方向に進化するな!!」
どうやら。
通行人からの差し入れが、
いつの間にか“瓶”中心になっていたらしい。
「借金返す気あるのか!!」
「あるよ」
「でも現金化されないからノーカウント」
「カウントしろ!!」
そこへ、ちょうど真田が迎えに来た。
玄関を開けた瞬間、
状況を一瞬で把握する。
「……ヒロさん」
「一つ、提案があります」
声が低い。
目が仕事モードだ。
「酒も……やめさせましょう」
その言葉に、
ノアの顔色が一気に変わる。
HP1の顔。
「ま、待って……」
「それだけは……」
ノアは情けない声でヒロの服に縋りつく。
「タバコもない」
「酒もないと……」
「何も残らない……」
「残るだろ!!」
「借金が!!」
ヒロのクリティカルヒット。
ノアは床に崩れ落ちた。
「……頑張るから」
「働くから」
「だから、それだけは……」
完全にダメ人間のセリフである。
ヒロと真田は顔を見合わせた。
(こいつ……)
(娯楽で精神バランス保ってたタイプだな……)
真田が静かに告げる。
「契約更新時に、生活管理条項を追加します」
「健康管理も事務所管轄で」
「保護観察か!?」
「芸能人です」
ノアは絶望した顔で天井を見上げた。
《禁煙》継続中。
《禁酒》付与予定。
残るのは――
仕事と、借金と、ヒロの胃痛。
「……芸術は自由だったのに」
「自由の代償が契約書だ」
ヒロの冷静な一言が、部屋に響く。
こうして。
ノアの世界から、
タバコが消え、
酒も消えようとしていた。
このアパートは、
今日も静かに修羅場である。
なお一番ダメージを受けているのは、
間違いなくヒロの胃である。




