真理、芸術は儲かる
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
写真家の仕事を終えたノアは、ひとつの真理に辿り着いた。
「……芸術、儲かる」
ヒロは反射的に胃を押さえた。
「やめろ」
「その目はろくでもない最適化を思いついた目だ」
ノアは真顔だった。
「写真は、立ってるだけでお金になった」
「なら、音楽はもっと効率がいい」
「理屈が飛躍してる!!」
「楽器は喋らなくていい」
「感情説明もしなくていい」
「炎上しても“表現です”で処理できる」
ヒロは確信する。
(こいつ……芸術を免罪符にする気だ)
「まずは作曲配信」
「次に路上演奏」
「最終的にアルバム」
「段階を踏むな!!」
「借金返済計画、アップデートしただけ」
ノアはどこか楽しそうだった。
新しい効率化ルートを発見したプレイヤーの顔である。
こうして――
芸術が金になると学習した合理的クズは、
音楽という新ダンジョンへ足を踏み入れようとした。
が。
金がなかった。
正確に言うと、
楽器を買う金も、
スタジオを借りる金も、
交通費すら怪しかった。
ノアはしばらく天井を見つめる。
そして、思い出す。
「……ストリートピアノ」
以前、商店街で弾いたあの一台。
人は集まり、
動画は回り、
数字は伸びた。
「無料」
「電源不要」
「炎上しても“即興”で逃げられる」
ヒロは嫌な顔をした。
「それもう音楽じゃなくて戦術だろ」
「合理的芸術」
ノアは即答した。
数時間後。
配信が始まる。
タイトルはシンプル。
『借金持ちが無料ピアノで生き延びる配信』
昼下がりの商店街。
人通りはまばら。
ノアは無言で椅子に座り、
一音、鍵盤を叩いた。
澄んだ音が、空気を揺らす。
コメント欄がざわつく。
『え、普通に上手くね?』
『ヤニカス封印モード』
『禁煙バフかかってる?』
ノアは淡々と弾き続ける。
顔は無表情。
演出もない。
語りもない。
だが、音だけは不思議と人を引き寄せた。
足を止める通行人。
スマホを向ける学生。
なぜか拍手するおばあちゃん。
同接が、じわじわ伸びる。
投げ銭が、ぽつり、ぽつりと落ちる。
ヒロは遠くで画面を見ながら呟く。
「……伸びてる」
ノアは弾きながら、ぽつりと言う。
「割と、効率いいな」
その一言で、
ヒロは悟った。
(こいつ……)
(音楽でも生き残る気だ)
無料の鍵盤から、
合理的クズは次のステージへ進もうとしていた。
なお、借金はまだ重い。
だが。
商店街に流れる音だけは、
妙に自由だった。




