社長、枕営業ありませんか?
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
借金は増えた。
だが、不思議なことに――仕事も増えていた。
普通なら詰みである。
だがノアという男は、なぜか「詰み状態からの周回プレイ」に入っていた。
朝五時、早朝収録。
昼は地方ロケ。
夕方は生配信。
夜はそのままコンカフェで接客。
もはや人間というより、労働自動化スキル持ちNPCである。
睡眠時間は削られ、
タバコはヒロに没収されたまま。
それでもノアは、なぜか元気だった。
「忙しいのは合理的だよ」
「考える暇がないからね」
借金というデバフを、
物理で殴っている男。
空き時間は即配信。
コメント欄が流れる。
『寝てる?』
『目の下どうした』
『禁煙いつまで?』
「寝てない」
「クマは標準装備」
「禁煙は強制イベント」
淡々と毒を吐く。
炎上ギリギリのワードを放り込みながら、
なぜか登録者は増えていく。
炎上耐性が、今日も仕事をしていた。
そんなある日。
ノアは事務所の社長室に単身突撃した。
「もっと仕事ください」
「借金、効率よく返したいので」
社長は書類から目を上げる。
「内容は選ばない?」
「選びません」
一拍。
ノアは真顔で続けた。
「枕営業とか」
「体でどうにかする系でも」
社長の思考が三秒ほどフリーズした。
――その瞬間。
バァン!!
ドアが勢いよく開いた。
「回収に来ました!!」
ヒロだった。
借金の取り立て人ではない。
倫理の取り立て人である。
ノアの襟首を掴み、
社長に深々と頭を下げる。
「すみません!!」
「こいつ、過労と禁煙で倫理観が死んでます!!」
「え、合理的だと思ったんだけど」
「思うな!!」
「合理性で人生の地雷原を走るな!!」
ずるずると引きずられていくノア。
「ヒロ、首しまる」
「しまれ!! 少し反省しろ!!」
静まり返った社長室。
社長はしばらく天井を見つめ――ぽつりと呟いた。
「……でも、仕事は増やそう」
炎上しない。
数字は取れる。
なぜか好感度も下がらない。
使わない理由がない。
こうして。
借金は相変わらず減らず、
仕事だけが順調に増え続け、
ヒロの胃だけが静かに壊れていく。
なおノア本人は今日も元気である。
《禁煙》継続中。
《多忙ハイ》発動中。
この物語で一番HPが低いのは、
間違いなくヒロだった。




