振り回される側の人間が、また一人増えました
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
ノアの事務所で、ヒロは一人の人物と向かい合っていた。
「初めまして。ノアのマネージャーを担当します、真田ミツキです」
「ヒロさん、一緒に頑張りましょう」
にこやか。
丁寧。
完璧な社会人スマイル。
だがヒロは直感した。
(……この人)
(俺と同じ“被害者属性”だ)
振り回される側の人間特有の、
うっすらとした覚悟の影が見える。
横ではノアがヘラヘラしている。
「ミツキちゃん、真面目だなー」
ヒロ、即ツッコミ。
「お前はまず礼儀を覚えろ」
真田は苦笑しつつ、分厚いスケジュール表を差し出した。
「こちらが今月の予定です」
ヒロがちらりと覗く。
……びっしり。
朝から晩まで、
バラエティ、配信、イベント、打ち合わせ。
隙間ゼロ。
「逃げないように、基本は私が付き添いますね」
ノアの眉がピクリと動く。
「逃げないよ」
「僕、合理的だから」
「合理的な人は爆発させないの」
ヒロの即答。
真田は微笑みを崩さないまま追撃。
「では、明日朝七時にお迎えに行きますね」
ノアの顔が、わずかに引きつった。
その変化をヒロは見逃さなかった。
(効いてる)
――翌朝。
七時。
ノア、爆睡。
ヒロは無言で布団をひっぺがした。
「うわ、非合理的……」
「起きろ、借金一千万」
最強ワード。
ノア、即覚醒。
そのまま寝ぼけたまま玄関へ。
外には、すでに真田が待機していた。
「おはようございます」
完璧な笑顔。
だが目の下に、ほんのりクマ。
(始まってる……消耗が始まってる……)
ノアは小声で言う。
「朝は思考効率が落ちる」
「落ちる前に現場入りです」
真田、即封殺。
ヒロはその光景を見て、静かに敬礼したくなった。
(強い……この人、強いぞ……)
車が走り去る。
ヒロはしばらく玄関で立ち尽くす。
(これ……毎日か)
だがふと考える。
(いや……)
(俺よりマネージャーの方が確実にHP削れてるな)
ヒロは鞄を肩にかける。
「……頑張れ、真田さん」
大学へ向かいながら、心の中でそっとエールを送った。
こうして、
ノアの借金返済ロードと、
合理主義者を更生(?)させるプロジェクトと、
周囲の人間の胃痛耐久テストは、
静かに、しかし確実に幕を開けたのだった。




