【番外編】山に行った常連は、だいたい戻ってくる
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
子高は、山に籠もっていた。
焚き火を起こし、
ただじっと、炎を見つめている。
揺れる火。
弾ける薪。
そのすべてが、ノアだった。
「……ノアちゃん……」
呟くたびに、
焚き火が少し強くなる気がした。
腹が鳴った。
子高はザックを漁り、
最後に残っていた非常食を取り出す。
かつて、ノアが配信で食べていたものと同じ。
木屑みたいな味がすると笑っていたやつだ。
「……ノアちゃんが……」
袋を開け、
噛み、
顔を歪める。
「……不味い……」
それでも吐き出さない。
無理矢理、飲み込む。
子高の生活は、
いつの間にか、
すべてがノアだった。
配信。
来店日。
ノアちゃんの機嫌。
それ以外の予定は、
すべて空白だった。
非常食は、すぐになくなった。
子高は山を彷徨い、
木の根元に生えているきのこを見つける。
「……焼けば……いける……」
焚き火で炙り、
匂いを嗅ぎ、
口に入れた。
――次の瞬間。
「……あ、は」
子高の口角が引きつる。
「あは、あはははははははは!!」
笑いが止まらない。
意味もなく、楽しい。
「ノアちゃんはノアちゃんだー!!」
子高は立ち上がり、
山に向かって叫ぶ。
「男でも女でも関係ない!!」
「ノアちゃんは!!」
「ノアちゃんだー!!!」
焚き火を蹴散らし、
子高は山を下り始めた。
――一方、その頃。
店のカウンターで、
ヒロは突然、ぶるっと身震いした。
「……今、誰か俺のこと見てなかった?」
「被害妄想」
ノアは即答し、
カウンターから立ち上がる。
「少し、席を外す」
「トイレ?」
「換気」
「喫煙だろ」
ノアは何も答えず、
そのままバックヤードへ消えた。
ヒロは肩をすくめる。
「……やっぱ寒気するんだけどな」
――その頃。
店の裏口。
夜気の中で、
ノアはライターを鳴らした。
火がつき、
タバコの先が赤く光る。
深く吸い、
ゆっくり吐く。
「……うま」
煙が夜に溶けていく。
なぜか、
背中に、ぞわりとした感覚が走った。
ノアは一瞬だけ振り返るが、
そこには何もない。
「気のせいか」
合理的にそう判断し、
非常食の補充リストを思い浮かべた。
山から、
何かが、
こちらに向かっていることなど、
知る由もなく。




