男だとバレたので楽になりました
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
この日の配信はコラボだった。
相手は男性アイドルグループASTER♯9。ノアとは同じダンススタジオで顔を合わせていた顔馴染みだ。
テーマは――「おつまみ&非常食で乾杯!」
「そのテーマ誰が決めたんだよ」
「僕」
「帰れ」
ノアは当然のように非常食をつまみに酒を飲み、ASTER♯9の面々は普通に市販のおつまみを広げている。
『非常食で酒飲むなw』
『てかそれ賞味期限いつだよ』
『今日のノア静かすぎて逆に怖い』
リクはスタジオ時代の距離感のままなのか、やけにノアに近い。
『距離バグってるw』
『それ以上近づくと非常食にされるぞ』
そして――やらかした。
「ねえノア」
「なんで女装してるの?」
――配信が止まった。
「おい今なんて言った!?」
『……え?』
『女装?』
『男??????』
『今の幻聴であってくれ』
ヒロは頭を抱え、隣で佐伯が机を叩いて笑っている。
「リク!!それは配信外で確認しろ!!」
『課金返せ案件?』
『むしろ得した気分なんだが』
『新属性追加で草』
空気が一瞬で凍り、そして一瞬で燃えた。
だがノアは変わらない。
グラスを傾け、非常食を一口。
もぐ。
「合理的だから」
「説明しろ!!」
『説明になってねえw』
『逆に好きになった』
『情報量が渋滞してる』
「女装の理由を三文字で片付けるな!!」
「八文字だよ」
「そこじゃねえ!!」
コメント欄は荒れ、擁護が湧き、なぜか同接は伸びた。
『男でも推せる』
『むしろアリ』
『非常食の人(男)で確定』
「属性が増えてるだけなんだよなあ……」
結局、炎上しかけて――鎮火した。
「なんでだよ」
「合理的に考えて、需要があった」
「そんな合理性あるか」
配信はそのまま、笑いと混沌のまま終わった。
「……顔見知りと配信するのは非合理的だったかもしれない」
「今さらだろ」
ヒロは即答した。
「性別より非常食で酒飲む方が問題だわ」
「偏見だね」
「事実」
――後日。
ノアは私服でソファに沈んでいた。珍しく何もしていない。
ヒロがふと思い出したように言う。
「そういやさ、最近外で女装しなくなったよな」
「うん」
即答。
「コンカフェ以外では、もうしない」
「炎上の影響?」
「違う」
一拍。
「男だってバレたから。合理的に隠す意味がなくなった」
「最初からそうしろよ」
「結果論」
ヒロは少し考えてから肩をすくめた。
「で?俺は今も奴隷の主人でいいのか?」
「契約上は」
「そこはブレねえんだな……」
非常食の人。
元・女装配信者。
男バレ済みアイドル(仮)。
肩書きだけが増えていく。
「……合理的には」
ノアは小さく息を吐いた。
「今が一番楽だ」
その後、ノアは「男でも推せる枠」で仕事が増えた。
そして――
「なんで俺のバイト代が消えてるんだ」
「非常食の補充」
「自分で買え!!」
世界は相変わらず騒がしい。
だが一つだけ確かなことがある。
――一番割を食っているのは、今日も主人だった。




