味は不要(※また炎上)
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
次の配信は、ノアにしては珍しく、最初から警戒していた。
「……はい、こんばんは」
コメント欄は、もう荒れている。
『味覚音痴来た』
『木屑食配信者』
『人間用の飯食え』
だが、ノアは黙っていた。
珍しく、言い返さない。
水を一口飲み、淡々と話す。
「今日は、普通に雑談」
「食事は、しない」
『逃げた?』
『反省した?』
『効率落ちた?』
それでも、ノアは耐えた。
眉一つ動かさず、話を続ける。
――この日は、それで終わった。
だが。
翌日、一本のメールが届く。
件名:
【レビュー依頼のご相談】
送り主は、例の非常食メーカーだった。
『御社製品を日常的に召し上がっている点に注目し』
『他フレーバーのレビューをご依頼できればと存じます』
ノアは画面を見つめ、数秒考え、
「……合理的だな」
了承した。
そして、問題の配信。
机の上には、銀色の包みがずらりと並んでいた。
「今日は、依頼レビュー」
『案件!?』
『木屑案件草』
『終わった』
「誤解ないように言うけど」
ノアは淡々と続ける。
「味の良さは期待してない」
「あくまで効率と再現性の評価」
――この前置きが、すでに火種だった。
まず一つ目。
「プレーン」
もぐもぐ。
「……うん」
「前より粉っぽさが減ってる」
『粉っぽさで比較すな』
『人間の感想じゃない』
二つ目。
「チョコ風味」
咀嚼。
「甘味料が入った分、脳が混乱する」
「これはこれで、逆に集中力が落ちる」
『褒めてないw』
『チョコに失礼』
三つ目。
「抹茶味」
一口。
一瞬、間が空く。
「……これは」
「抹茶を期待すると、精神にダメージが来る」
「だが、慣れれば――」
『慣れるな』
『擁護が雑』
ノアは真剣だった。
本気で分析していた。
「総評としては」
指を折る。
「咀嚼時間」
「腹持ち」
「作業効率」
『味は?』
『一番大事なとこ抜けてる』
「味は」
ノアは少し考えてから言った。
「不要」
――終わった。
コメント欄が、爆発した。
『名言出ました』
『味不要は人間やめてる』
『公式が言うな』
ノアは画面を見て、固まった。
「……あ」
ようやく、気づいた。
これは、企業が求めていたレビューではない。
そして、視聴者が聞きたかった言葉でもない。
『炎上商法?』
『メーカー可哀想』
『逆に天才』
ノアは珍しく言葉に詰まった。
「……悪意は、ないんだけど」
それが、火に油だった。
『悪意ないのが一番怖い』
『効率厨の末路』
配信終了後。
ノアは椅子にもたれ、天井を見上げた。
「……」
「レビュー、向いてなかったかも」
机の端で、未開封の非常食が静かに光っていた。
効率は、完璧だった。
評価も、正直だった。
――でも。
世界は、それを求めていなかった。
その夜。
ノアは、久しぶりに非常食を開けず、ただ、ため息をついた。




