炎上で沁みる、別枠
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
ノアの配信は、安全面への配慮という名目で、アイドル事務所の近くにあるスタジオになった。
結果として――
家であまり配信しなくなった。
夜、窓辺が静かだ。
煙を吐きながら外を眺める姿も、最近は見ない。
別に。
気にしているわけじゃない。
……ただ、生活のリズムが少し変わっただけだ。
「……布団、干すか」
自分でも理由が分からないまま、布団を干した。
天気は悪くない。予定もない。
取り込んで、叩いて、ふかふかにする。
使うかどうかは、分からないけど。
数日後。
大学で佐伯が、いつもの軽い調子でスマホを突き出してきた。
「ヒロ」
「ノア、また燃えてる」
「……今度は何だ」
嫌な予感を抱えたまま動画を再生する。
食事配信だった。
ノアがテーブルに、銀色の包みを置く。
見慣れすぎていて、ため息が出る。
「……それ非常食だろ」
ノアは当然のように開封し、
笑顔のまま、普通に食べ始めた。
コメント欄が、一瞬で荒れる。
《それ一番まずいやつ》
《木屑の味って有名》
《味覚どうなってんの》
《可愛い顔でやるな》
「だから言っただろ……!」
思わず声が出る。
画面越しのノアは、淡々としていた。
「効率がいい」
「調理時間ゼロ」
「栄養は十分」
――言い返しが、全部正論なのが一番まずい。
《味覚音痴確定》
《ロボット説》
《人間やめてて草》
その日の夜。
ノアは配信を切り、珍しく家にいた。
窓も開けず、煙も吸っていない。
「……配信」
「少し、控える」
「炎上したからか」
「味覚の話」
「思ったより、刺さった」
そこ、気にするんだなと思う。
少し考えてから、俺は言った。
「……でもさ」
「俺の飯は、ちゃんと食うだろ」
ノアは一瞬だけ考えて、
真面目な顔で答えた。
「それは、別」
「別?」
「ヒロの飯は」
「美味しい」
「非常食は?」
「効率」
「同じ“食べる”だろ!」
本気で不思議そうに首を傾げる。
「だから」
「比べてない」
視線が、部屋の奥に向く。
「……布団」
「今日、ふかふか」
「……干しただけだ」
ノアは何も言わず、
当たり前みたいに布団に潜り込んだ。
特別な言葉はない。
理由の説明もない。
それでも分かる。
この家は、ノアにとって“戻る場所”になっている。
炎上も、配信も、非常食も続く。
ノアは相変わらず効率で生きていて、
俺は相変わらず振り回されている。
それでも――
飯と布団だけは、
いつの間にか“別枠”として守られていた。




