もらって、つけない理由はない
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
しばらく、誰もが料理に手を伸ばすふりをしていた。
けれど視線は、どうしても手元に集まってしまう。
正確には――ニコが渡した、小さな箱に。
「……開けないのか?」
ヒロが耐えきれずに言った。
「今?」
ノアは箱を指で軽く叩く。
「今だろ」
「この空気で後回しにする勇気、ある?」
周囲の無言の圧に押され、ノアは小さく息を吐いた。
「はいはい」
そう言って、箱のふたを開ける。
中に入っていたのは、シンプルなブレスレットだった。
細めのチェーンに、小さな石が一つ。
派手ではないが、普段使いしやすそうなデザイン。
「……これ」
ノアの視線がブレスレットからニコへ移る。
ニコは背筋を伸ばし、ぎこちなく説明し始めた。
「アクセサリーショップで……」
「ノア君、配信のとき、手元よく映るから……」
「邪魔にならないのが、いいかなって……」
途中で、声が小さくなる。
「……こういうの、嫌だったら……」
「嫌なわけないでしょ」
ノアは即答した。
ニコが、はっと顔を上げる。
「え……?」
「むしろ一番助かる」
ノアはブレスレットを手に取る。
「自分じゃ、絶対選ばないし」
「それ、褒めてる?」
ヒロが横から突っ込む。
「褒めてる」
ノアは真顔で返した。
そのまま、左手首にブレスレットを通す。
金具を留める、かすかな音がした。
「……似合いますね」
サクラが素直に言った。
「え、今つけるの?」
ヒロが目を丸くする。
「今」
ノアは当然のように言う。
「もらって、つけない理由ある?」
ニコの目が、じわっと潤んだ。
「……よかった……」
胸の奥に溜まっていた緊張が、一気にほどけていく。
「配信でも使うわ」
ノアが何気なく続けた。
「手元、映るし」
「それ、視聴者ざわつくやつだろ」
ヒロが即座に言う。
「ざわつけば、数字になる」
ノアは平然としている。
だが、無意識にブレスレットを指でなぞっていた。
その仕草を見て、ニコは胸の奥が静かに温かくなるのを感じた。
――勇気を出して、選んでよかった。
テーブルの上には、いつも通りの夕食。
それなのに、この夜だけは、少しだけ特別に思えた。




