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4/12

EP3 穀潰しだと思っていた奴隷が、友人のPC環境を五分で破壊した

※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。

※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。


 結論から言うと、俺は笑われた。

 それも、心配とか同情とか一切なしで。


「はははははは!」

「無理無理、腹いてぇ」

「……いや、普通に引くわ」


 大学近くの喫茶店。

 向かいの席で腹を抱えているのは、友人の佐伯だ。

 講義より配信環境の最適化を優先する、筋金入りのオタク。

 ゲーム配信で小遣いを稼ぎ、機材だけは一丁前に揃えている。


「だから酔ってて……」

「それ免罪符にならねぇから」


 俺はコーヒーを啜りながら、昨日から今朝までの流れを全部話した。

 奴隷契約。

 市役所。

 解除不可。

 違約金三千万。


 金持ちの世界では珍しくもないらしい制度だが、

 少なくとも俺の人生には、一ミリも関係ないはずだった代物だ。


「いやー……マジで都市伝説だと思ってたわ」

「俺もだよ……」

「で?」


 佐伯がニヤつきながら身を乗り出す。


「その奴隷、今どこ?」

「……家」

「会いたい」

「即答すんな」


 当然のように押し切られた。


 問題は服だった。

「着替え、これしかない」

 差し出したのは、使い古したジャージ。

 俺サイズ。


 あいつ――奴隷は、それを見ても文句一つ言わず受け取った。

「問題ありません」


 数分後。

 袖は余り、裾は床を擦り、

 全体的に“借り物感”がひどい。


「……まあ、いいか」

「ありがとうございます、ご主人様」

「その呼び方やめろ」


 佐伯の部屋に入った瞬間、空気が変わった。


「……エルフ」


 佐伯がぼそっと呟く。

 視線が完全にノアに釘付けだ。


「……存在感が反則」

「僕のことですか?」


 声を聞いて、佐伯が我に返る。


「えっと……名前は?」

 そこで俺は気づいた。

 ――名前、知らない。


「お前、名前は?」

 少し考えてから、あっさり。

「ノアです」

「即答だな」

「偽名っぽい」

「たぶん偽名です」


 認めるんだ。

 その瞬間から、俺の中で“奴隷”は“ノア”になった。


 佐伯は落ち着きがなくなっていた。

 視線が机の上のPCに吸い寄せられている。


「なあヒロ、ちょっと配信コメントだけ見ていい?」

「……まあ」


 電源が入り、画面が立ち上がる。

 その背後から、ノアの声。


「ログイン情報、そのままですね」

「え?」

「通知が溜まりすぎです。あと――」


 気づいた時には、ノアがマウスを握っていた。


「ちょ、勝手に――」

「設定が非効率です」


 画面が次々と切り替わる。

 専門用語が飛び交うが、俺には半分も分からない。


「……あれ?」


 佐伯の声が変わった。


「配信、さっきまでカクついてたよな」

「……直ってる」

「画質上がってるし」

「遅延、消えてるし」


「何した?」

「設定を少し」

「半年かけたんだけど」

「僕は五分です」


 沈黙。


 佐伯が、ゆっくり俺を見る。

「なあヒロ」

「……それ、普通じゃねぇ」


 俺もノアを見る。

 ブカブカのジャージ。

 薄く浮かべた満足げな表情。

 タバコの匂い。


「……いや、穀潰しだろ」

「僕、役に立っていませんか?」


 佐伯は何も言わず、頭を抱えた。


 この時の俺は、まだ分かっていなかった。

 契約した相手が、

 どれほど有能で、

 どれほど面倒で、

 どれほど厄介か。


 この生活が、

 思っていたよりずっと静かに、

 そして確実に、

 俺の首を絞め始めていることを。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

気に入っていただけましたら、評価やブックマークなどしていただけると励みになります。


作者:しけもく

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