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小さな勇気は、誰かのために

※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。

※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。

給料袋を受け取った瞬間、ニコの表情がぱっと明るくなった。


「……これが」

「初任給……」


「そう」

ノアが頷く。


「おめでとう、ニコ」


「おめでとー」

佐伯が軽く手を叩いた。


ニコは何度も給料袋を見下ろし、嬉しそうに息を吐く。

まるで宝物を確かめるみたいな仕草だった。


その様子を見て、ノアはふと思い出したように手を打つ。


「あ、そうだ」

「ニコも一応、必要経費あるよね」


「……え?」


ニコがきょとんとする。


嫌な予感に、ヒロが眉をひそめた。


「おい、やめとけよ」


「何言ってるの」

ノアは当然の顔だ。


「労働には経費がつきものだよ」


「え、えっと……?」

ニコは給料袋を胸に抱いたまま固まる。


「まず制服のクリーニング代」

「あと食事補助費」

「それから教育指導料」


「最後おかしくないか?」


「社会勉強」


ノアはさらっと言いながら、ニコの給料袋を指差した。


「じゃ、ここから少しだけね」


「す、少し……?」


ヒロは視線を逸らした。

見慣れた光景だ。


数分後。


ニコは、少し軽くなった給料袋を恐る恐る覗き込む。


「……あ」

「……まだ、あります……」


思わず漏れた声。


思っていたより、ちゃんと残っている。


「すごい……」

「自分で、使っていいお金……」


その声は、少し震えていた。


「よかったな」

ヒロが苦笑しながら言う。


「全部持っていかれなくて」


「失礼だな」

ノアはむっとしつつも、


「僕だって節度はあるよ」


「どの口が言う」


ニコは給料袋を胸に抱きしめて、小さく息を吐いた。


それだけで、世界が少し広がった気がした。


「何か欲しいもの、あるのか?」

ヒロが穏やかに聞く。


一瞬、ニコは言葉に詰まってから、

ふわっと笑った。


「……秘密、です」

「まだ」


「そっか」


ノアは横目でそれを見たが、何も言わなかった。


――その日の午後。


ニコは一人、街に出ていた。


目的は、もう決まっている。


「……ノア君」

「もうすぐ、誕生日だし……」


アクセサリーショップの前で足を止める。


ガラスのショーケースの中。

柔らかな照明に照らされて、シンプルなブレスレットが並んでいた。


「……似合いそう……」


派手じゃない。

でも、ノアの手首にはきっと合う。


初めてのお給料。

必要経費を引かれても、ちゃんと残ったお金。


誰かのために使うのも、悪くないと思った。


――その時。


足元が、つるっと滑る。


「あっ――」


体勢を崩した拍子に、ショーケース横の小物ラックに肩がぶつかった。


ラックが揺れ、

いくつかの商品が床に落ちる。


カラン、と乾いた音。


「だ、大丈夫ですか!?」

店員が慌てて駆け寄ってくる。


「す、すみません……!」


屈んだ瞬間、

バッグの口が開いた。


給料袋が、床に落ちる。


中身が、見えた。


胸の奥が、ひやりとする。


――ああ。


大事な時に限って、

少しだけ、運が悪い。


それでもニコは給料袋を拾い上げた。

手の中の重みを、確かめる。


「……買います」

「これ、ください」


ショーケースの中のブレスレットを指差す。


不幸体質でも。

怖くても。


これは、自分で決めたこと。


ノア君に、

ちゃんと渡したい。


その気持ちだけは、

運なんかに、負けたくなかった。

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