それぞれの役割
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
店を閉めて、全員で家に戻る。
玄関を開けた瞬間、ふわりと酒の匂いがした。
「おかえり」
リビングでは、佐伯とノアがテーブルを挟んで向かい合い、グラスを傾けていた。
ノアはいつものジャージ姿で、完全に気を抜いた様子だ。
「……なんでお前ら、もう飲んでんだよ」
靴を脱ぎながら言うと、
「細かいことは気にしない主義でしょ」
佐伯が笑った。
「ヒロ様、お疲れさまでした」
サクラはすでにエプロンをつけていて、
「今からご飯、作りますね」
そう言って、迷いなくキッチンへ向かう。
この家は、切り替えが早すぎる。
「今日ね!」
ニコが猫耳パーカーを胸に抱えたまま、少し弾んだ声を出した。
「ヒロさんが……その……」
「すごく、頼もしくて……」
一瞬、言葉に詰まる。
「お客さんに、ちゃんと……」
「だめなことは、だめって言ってくれて……」
ノアがグラスを置いた。
「へえ」
口元を緩める。
「ヒロ、やるじゃん」
「おー」
佐伯も頷いた。
「今日は完全に前に出てたな」
「やめろ」
俺は視線を逸らす。
「たまたまだ」
「たまたまで出来ることじゃないよ」
ノアが、あっさり言った。
……さらっと刺してくるな。
「で」
話題を変える。
「そもそも、なんで二人で飲んでたんだよ」
「ああ、それな」
佐伯が言う。
「さっきまでFPSの大会」
「配信しながらな」
ノアが続ける。
「チーム戦」
「で、無事トップ通過」
佐伯がグラスを揺らした。
「次の大会への参加費と、機材費の予算が降りた」
俺は一瞬、言葉を失った。
「……こいつら」
思わず呟く。
俺が店で必死に空気を支えている間に、
この二人は別の場所で、きっちり結果を出していたらしい。
でも、不思議と腹は立たなかった。
それぞれ、やることをやっている。
役割が、違うだけだ。
俺はソファに腰を下ろす。
今日一日を思い返す。
ノアがいない店。
困った空気。
逃げられなかった自分。
――ああ。
少しずつだけど、
自分のやることが分かってきた気がした。
俺は、前に立つ人間じゃない。
でも、場を壊さない役なら出来る。
多分。
この場所での俺の役目は、それだ。
「もうすぐ出来ますよー!」
キッチンから、サクラの声が飛ぶ。
日常は、何事もなかったように続いていく。
それが、悪くなかった。




