不運な新人と、改修されるメイド服の話
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
子高は、珍しく真剣な顔で語り始めた。
普段の偉そうな態度はそのままだが、目だけがやたらと輝いている。
「見ろ、この縫製」
「ステッチの幅、プリーツの間隔、スリットの位置……全部意味がある!」
……止まらない。
完全にスイッチが入っている。
俺は口を挟む隙もなく、ただ黙って話を聞くしかなかった。
やがて、分厚い資料の中から一枚のデザイン画を引き抜く。
「俺が、ノアちゃんに着てもらいたいメイド服は――これだ!」
描かれていたのは、落ち着いた色合いの、どこか上品なデザイン。
露骨な装飾は少なく、全体的にシンプルだ。
……正直、完成度は高い。
高いけど。
俺は少しだけ引いた。
ノアはじっと見つめ、短く頷く。
「なるほど」
……いや、なんでノア用まで用意してるんだよ。
俺は心の中で全力で突っ込んだ。
子高の熱弁は止まらない。
「このスリットの位置を変えれば、動きやすさが段違いだ」
「ラインも崩れないし、無駄な締め付けも出ない!」
専門用語が多すぎて、俺の頭は追いつかない。
そんな俺を見て、ノアがふと聞いてきた。
「ヒロは、どう思う?」
「え……?」
突然振られて、言葉に詰まる。
正直な感想しか浮かばなかった。
「……ノアのスウェットみたいなのが、一番楽じゃないか?」
「動きやすいし、苦しくないし」
一瞬、空気が止まった。
「ヒロ、ナイス」
ノアが即答した。
……え?
次の瞬間には、ノアと子高が顔を突き合わせて話し始めている。
「確かに、あのリラックス感は重要だ」
「だろ!? 可動域と圧迫感ゼロは正義なんだ!」
……俺、余計なスイッチ押したか?
話は一気に具体化していく。
トップスは薄手のニット混素材。
体に沿うが伸縮性があり、呼吸を邪魔しない設計。
「締め付けない」
「長時間でも問題なし」
子高は自信満々だ。
スカートは、動いたときに布が自然に流れるボリューム感。
作業の邪魔にならないことを最優先にしている。
「で、ニコの場合だ」
子高が資料をめくる。
「本人の希望を最大限尊重する」
追加されたのは、猫耳付きのフーディ。
必要なときにさっと羽織れて、体のラインも自然に隠せる仕様だ。
ニコは少し驚いた顔をしてから、小さく頷いた。
「……ありがとうございます……」
こうして、思った以上に本格的な制服改修案がまとまった。
後日、最終確認の場で、子高が腕を組んで言った。
「で、今回の報酬だが」
「新衣装でのチェキ一枚でいい」
……それだけ?
思わず聞き返す。
「当然だろ」
子高は鼻で笑った。
「貧乏でも形になる。俺の施しだ、感謝しろ。俺は天上人だからな」
……ほんと、一言多い。
だが、横を見ると、ニコは新しいフーディを胸元でぎゅっと握り、少しだけ安心したような表情をしていた。
それを見て、俺は何も言えなくなった。
――こうしてこの店は、今日もまた、俺の知らない方向へ進化していくのだった。




