幼馴染が不運すぎる件について
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
ノアは事務所で配信中だったため、店内にはいなかった。
ニコはいつもの大きめのパーカーを着て、少し縮こまりながら立っている。
「……あのさ、ニコ」
「はい?」
俺は、なるべく軽い調子で言った。
「今日はさ」
「パーカーじゃなくて、店のメイド服、着てみないか?」
ニコは目を丸くし、少し怯えたように、それでも小さく頷いた。
「……わ、わかりました……」
服を手渡すとき、ふとニコの腕が視界に入った。
袖口からのぞいた肌に、細い線のような痕が一瞬だけ見えた気がして、俺は反射的にカーディガンを取った。
「これ、着てていい」
「……はい」
ニコは素直に従ったが、メイド服の胸元が少しきついらしく、呼吸が浅くなっているのが分かった。
「やっぱり、今日は前のパーカーで――」
そう言いかけた瞬間、開店のベルが鳴った。
客が一気に流れ込み、店内が慌ただしくなる。
「悪い、ヘルプ入る!」
俺が動いた拍子に、足元がふらついたニコと軽くぶつかった。
ガシャン、と大きな音が響く。
次の瞬間、ニコの体がぐらりと揺れ、そのまま息を詰めるようにしゃがみ込んだ。
「ニコ!」
すぐにノアが配信を中断して店内に駆け込んできた。
「どいて」
短く言い、ノアは迷いなく対応に入る。
服の一部を緩め、ニコの呼吸を整えさせる。
ニコは大きく息を吸い込み、咳き込んだ。
その拍子に、自分が人前で無防備な状態になっていることに気づいたのだろう。
顔を真っ赤にして、目に涙を溜めた。
俺は慌ててニコを抱え、事務所へ運ぶ。
パーカーを着せ、椅子に座らせた。
「……大丈夫か?」
ニコは小さく頷いたが、声は震えていた。
「私の……せい……」
俺はその言葉を聞き取れないふりをして、店に戻るしかなかった。
事務所で一人になったニコは、椅子に座り込んだまま、小さく震えていた。
しばらくして、ドアが静かに開いた。
ノアだった。
ノアの視線は、自然とニコの腕に向かう。
ニコは何も言えず、顔を伏せて、さらに体を縮こませた。
「……ニコ」
ノアの声は低く、感情を抑えているようだった。
それでも、目は静かに何かを測るようにニコを見ている。
ニコは涙をこぼしながら、か細い声を絞り出した。
「ご、ごめんなさい……」
ノアはすぐには答えず、しばらく沈黙したまま腕を見ていた。
やがて、静かに息を吐く。
「……なるほど」
それだけを言い残し、ノアは事務所を出ていった。
残されたのは、ニコの小さなすすり泣きだけだった。
――俺はその場で立ち尽くし、何もできなかった自分を噛みしめた。
この日の出来事が、これから何を引き起こすのか。
まだ、誰も知らない。
ただ、不穏な空気だけが、静かに漂っていた。




