奴隷が連れてきた新人は、説明が足りない
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
その数日後だった。
店は文字通り、戦場のようになった。
平日でも満席、週末は整理券制。
厨房もフロアも、人手が全く足りていない。
「……正直、回ってない」
閉店後、強面のオーナーが頭を下げる。
「人、増やせないか?」
俺が答える前に、ノアが手を挙げた。
「提案がある」
嫌な予感しかしない。
「忙しくなる」
「人、増やしたほうがいい」
「それは分かるけど」
「あてはあるのか?」
ノアは少し考え込む素振りを見せ、首を傾げた。
「連れていき放題」
「意味が分からない」
「人材」
「まだ余ってる」
「どこに!?」
その答えは、翌日に判明する。
開店前の店内。
仕込み中のフロアに、ノアが一人の女の子を連れて入ってくる。
「おはよう」
「新しい人」
連れてこられた子は小柄で、フードを深く被っていた。
視線は落ち着かず、床ばかり見ている。
「……誰?」
ノアはあっさり答えた。
「ニコ」
「今日から」
「いやいやいや」
「面接は!?」
「済んでる」
「いつ!?」
「さっき」
ニコはびくっと肩を震わせ、慌てて頭を下げる。
「あ、あの……」
「よろしく、お願いします……」
声は小さいが、はっきり聞こえた。
フードの隙間から見えた顔は整っていて、目の下には薄い隈。
手首を隠すように長袖をぎゅっと握っていた。
「……ノア」
「この子、大丈夫なのか?」
ノアは少し目を細める。
「大丈夫」
「仕事はできる」
「根拠は?」
「生きてる」
「基準低すぎる」
ニコはさらに小さくなり、居心地悪そうに肩をすくめた。
「ご、ごめんなさい……」
「いや、君が謝る必要は――」
「ヒロ」
ノアが遮る。
「忙しい」
「説明は後」
「……後っていつだよ」
ノアは厨房へ歩きながら手を振った。
「今日」
「閉店後」
取り残された俺とニコ。
一瞬の沈黙。
「……えっと」
「ホール、いける?」
ニコは迷ってから、小さく頷いた。
「……は、はい」
「怒鳴られなければ」
「基準そこ!?」
その日、店は相変わらず満席。
ニコはぎこちないながらも黙々と動いた。
愛想はないが、ミスは少ない。
ただ――運が悪い。
ドリンクを取りに棚を開けた瞬間、指を扉に挟んで小さく「いたっ!」と叫ぶ。
注文票を拾おうとしてつまずく。
小さなトラブルは続くが、最後まで手を止めずに働いた。
ふと気づくと、ノアが遠くからこちらを見ている。
――まただ。
また何かを連れてきた。
また、俺の生活を少し変える。
嫌な予感と、不思議な納得。
多分これも、
ノアなりの「最適解」なのだろう。
問題は――
その説明がいつも後回しなことだけだ。




