奴隷から経営向いてないと言われた日
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
売れなかった翌日も、店はいつも通り開いた。
客足も平常通りで、常連が来て、いつものメニューを頼んでいく。
――平常運転だった。
だからこそ、昨日の失敗だけが妙に浮いて見えた。
厨房では、サクラが黙々と仕込みをしている。
新メニュー用の材料は、端に寄せられたままだった。
俺はノアを呼び止めた。
「昨日の件だけど」
「新メニュー、どうする?」
ノアは少し考えてから即答した。
「一旦止める」
「数字が出てない」
想定していた答えだった。
それでも、胸の奥がざわつく。
「一回で判断するのか?」
「一回で十分」
「初動が弱いのは効率が悪い」
感情の入り込まない、淡々とした声だった。
「でも、味は良かった」
「評価もゼロじゃなかった」
「評価と売上は別」
「経営は感想文じゃない」
その言葉に、俺は思わず言い返していた。
「分かってる」
「でも、この店は数字だけじゃないだろ」
ノアが初めて俺を見た。
「じゃあ、何?」
「理由だ」
「また来たいと思わせる理由」
一瞬、沈黙が落ちた。
厨房の奥で、サクラが手を止めた気配がした。
「……感情論」
ノアは小さく息を吐いた。
「ヒロ」
「君、経営に向いてない」
その言葉は、刃物みたいに正確だった。
俺は一拍置いて答える。
「かもな」
「でも、切り捨てるのは簡単だ」
「簡単なことをやらないと潰れる」
「潰れるのは、全部同じ店になったときだろ」
ノアの眉がわずかに動いた。
「この店はノアの配信みたいに伸びない」
「でも、ここにしかないものがある」
「それが数字に出ないなら意味がない」
「意味はある」
「今は見えてないだけだ」
その瞬間、ノアが立ち上がった。
「……非効率」
「記録にも残らない」
そう言いながら、足は厨房の方を向いていた。
サクラが顔を上げる。
「私の料理、ですか」
ノアは一瞬言葉に詰まった。
「……個人の問題じゃない」
「構造の話」
「でも」
サクラは静かに続けた。
「私が作ったものです」
逃げない目だった。
責めない声だった。
ノアは視線を逸らした。
「……検証期間を設ける」
「試食会まで」
それは譲歩だった。
「それでダメなら切る」
俺は頷いた。
「それでいい」
完全な勝利ではない。
それでも、すべてを失う未来は避けられた。
その夜。
ノアは配信を始めた。
いつも通り、淡々と。
コメントが流れ、数字が伸びていく。
効率的で、完璧だった。
それでも、ふと口に出た。
「……料理って、面倒だな」
コメント欄がざわつく。
ノアは苦笑いを浮かべて話題を変えた。
配信終了後、アーカイブを閉じる。
画面が暗くなった部屋で、昼間のサクラの目が脳裏に残った。
効率が悪い。
それでも。
切るには、少しだけ重かった。




