数字は正直で、料理は嘘をつかない
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
ノアは、その日も配信をしていた。
店の奥に作った配信スペース。
ライト、マイク、カメラ。
画面の向こうには数千人の視聴者がいる。
「今日は短めでいくよ」
「店の準備もあるし」
そう言って始めた配信は、気づけばいつも通りの時間になっていた。
「もうちょっと!」
「今来た!」
コメントが流れ、スパチャの音が鳴る。
数字が増えていく。
ノアにとって配信は分かりやすい世界だった。
受ければ伸びる。
受けなければ伸びない。
努力が結果に直結する。
一方、厨房は静かだった。
サクラは試作品を並べていた。
オムライス、パンケーキ、ドリンク。
見た目は悪くない。
俺は「売れる可能性はある」と思った。
「……今日、出してみます」
小さな声だが、逃げはなかった。
「常連さんが多いので」
「反応を見たいです」
俺は頷き、常連客に試作品であることを伝えた。
「お、かわいいな」
「写真撮っていい?」
スマホが向けられ、シャッター音が鳴る。
嫌な予感がした。
「味は?」
一口食べる。
「うん、普通においしい」
「でも、いつもの方が落ち着くかな」
その言葉で察した。
「これ、いくら?」
「……ちょっと高くない?」
空気が変わる。
追加注文はほとんど入らなかった。
厨房に戻ると、サクラは黙ってメモを取っていた。
残った量。
客の反応。
注文数。
俺は言葉を探して、結局失敗した。
「……ごめん」
サクラは首を横に振る。
「想定内です」
一瞬だけ言葉が止まる。
「改善点は分かりました」
その様子を見て、胸が少し痛んだ。
そこへ、配信を終えたノアが戻ってきた。
「で、どうだった?」
真っ先に数字を聞く。
「動きは鈍かった」
「味は褒められた」
ノアは少し考えてから言った。
「じゃあ再検討だね」
「利益率も低い」
その瞬間、サクラの手が止まった。
「……切る、ということですか?」
「可能性としては」
「効率が悪い」
正論だった。
経営としては間違っていない。
「……私」
サクラが小さく言う。
「向いていないのでしょうか」
一瞬、言葉に詰まった。
だが、このまま黙れば終わると分かっていた。
「違う」
俺は即座に言った。
「一回で判断する話じゃない」
ノアがこちらを見る。
「でも数字は――」
「次もやる」
被せるように続けた。
「やり直す」
自分でも驚くほど、はっきりした声だった。
その夜、試作品はまかないになった。
「……普通にうまいな」
「売れなかった理由が分からないな」
誰も否定しない。
それが余計に腹立たしかった。
片付けのあと、厨房に残ったのは俺とサクラだけだった。
「……次はどうしますか」
前を向いたまま聞いてくる。
「改善して、もう一度」
「今度は俺も一緒に考える」
サクラは小さく息を吐いた。
「……はい」
一方ノアは、配信のアーカイブを見ていた。
「今日、数字は悪くない」
効率は圧倒的だった。
それでも、手が止まる。
「あのオムライス……」
誰に言うでもなく、つぶやく。
「写真だけは、めちゃくちゃ撮られてた……」
数字にならない光景が、なぜか頭から離れなかった。




