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奴隷とメニューと偉そうな男

※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。

※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。

共同経営者になったという実感は、まだない。


あるのは、やることの多さと胃の重さだけだった。


売上の数字を見てから、俺は少し本気になった。


大学に行って、帰って、店のことを考える。


その間、家のことはほぼサクラが完璧に回してくれている。


余裕ができた分、逃げ場がなくなったとも言える。


「……メニュー、私に考えさせてください」


サクラがそう言ったのは、夕食のあとだった。


控えめだが、逃げない目をしていた。


「資格も、経験もあります」

「役に立ちたいです」


命令されたからではない。


それが分かったから、俺は頷いた。


「頼む」

「佐伯、デザインを頼めるか?」


「おう」


こうして、店のリニューアルは動き出した。


仕入れ先の見直し。原価とクオリティのバランス。


やることは山ほどある。


そんな中で、ノアが言った。


「ヒロ」

「会わせたい人がいる」


嫌な予感しかしなかった。


店に行くと、そこにいたのは子高だった。


いつもの取り巻きもいないのに偉そうだ。


椅子に深く座り、顎を少し上げている。


「来たか」

「まあ、座れ」


この店の人間のような態度だった。


「話は早い」

「お前ら、仕入れに困ってるだろ?」


ノアが変えた仕入れ先。


安いが、不自然なほど安すぎる。


「特別に」

「うちのルートを使わせてやる」


――特別に。


その言い方が癇に障った。


「条件は?」


俺が聞くと、子高は鼻で笑った。


「簡単だ」

「ノアちゃんとデート」


一瞬、言葉が詰まった。


ノアは何も言わない。


いつも通り、表情すら変えなかった。


「安心しろ」

「色恋営業しろとは言ってない」


「俺が会いたいだけだ」

「それくらい安いもんだろ?」


俺は歯を噛みしめた。


視界の端で、サクラが立っている。


子高は一度も彼女を見なかった。


存在しないもののように。


俺は小さく息を吐き、ノアを見た。


「……どうする?」


一瞬だけ、ノアの目が揺れた。


ほんの一瞬だけ。


「一日だけなら」

「効率的」


子高が満足そうに笑う。


「さすがノアちゃん、話が分かるな」

「じゃあ、すぐ手配しておく」


立ち上がり、俺を見下ろす。


「感謝しろよ」

「これは投資だ」


去っていく背中は、最後まで偉そうだった。


店に残った空気は重かった。


佐伯は苦笑いを浮かべ、俺は頭を抱えた。


サクラは何も言わなかった。


ただ、静かにメモを取っていた。


新しいメニューの案を。


その背中を見て、俺は思う。


――今は、見えていないだけだ。


いつか。


きっと。


子高が「使えない」と切り捨てた価値を、思い知らされる日が来る。


その時まで、俺は目を逸らさない。


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