妹に見られてはいけない日常が、全部見られた
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
駅の改札前で、俺は落ち着かずにスマホを握っていた。
妹が来る。それだけで胃がきりきりと痛む。
「お兄ちゃーん!」
人混みの中から手を振ってきたのは、早瀬唯――俺の妹だ。
高校生。元気。観察眼が鋭い。兄に遠慮がない。
総じて、今の俺にとっては天敵である。
「久しぶり。元気そうだな」
「うん! オープンキャンパス楽しみ!」
ユイは周囲をきょろきょろ見回しながら続けた。
「ねえねえ、泊まる部屋ってどんな感じ?」
来た。
俺は即座に釘を刺す。
「いいか、ユイ。今日、家で見たことは絶対に親に言うな」
「え? なにそれ」
「約束だ」
俺の必死さを察したのか、ユイは目を輝かせた。
「えっ、なに? 犬? 猫? それともハムスター?」
全部違うし、全部説明するのは地獄だ。
「……とにかく、静かにしてろ」
「はいはい」
嫌な予感しかしないまま、俺たちはアパートに着いた。
――そして、運命の玄関。
俺が鍵を開ける。
「ただいま――」
扉の向こうにいたのは、パンツ一枚で歯磨きをしている金髪碧眼の男だった。
シャカシャカと規則的な音が響く。
無表情。
完全にノーガード。
「……おはよう」
ノアがそう言った瞬間、時間が止まった。
「……」
「……」
「……」
三秒後。
「……お兄ちゃん」
ユイの声はやけに冷静だった。
「なにこれ」
「違う! 説明させろ!」
俺が叫ぶより早く、ユイの脳内では何かが組み上がったらしい。
「え、なに? 同棲? 海外の人? え、半裸?」
「だから違う!!」
ノアは歯磨きを終え、首をかしげる。
「問題ある?」
「問題しかない!!」
そこへ、奥からサクラが顔を出した。
「あ、おかえりなさいませ、ヒロ様」
はい、詰み。
ユイは一瞬きょとんとしてから、ゆっくりとにっこり笑った。
「……なるほど」
「なるほどじゃない!!」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん」
ユイは俺の肩を叩いた。
「言わないから。親には」
「本当だな?」
「うん。その代わり」
嫌な予感しかしない。
「ここ、絶対合格して住む」
「住むな!!」
ノアが追撃する。
「部屋、余ってる」
「黙れ!!」
ユイは目を輝かせていた。
「やば……現実の資料多すぎ……」
「資料にするな!!」
俺は頭を抱えた。
こうして、俺の平穏だったはずの日常に、妹という最大級の爆弾が追加された。
――たぶん、これからもっと面倒なことになる。




