まさかのキスマークが仕事した。
※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。
※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。
ノアの昼の仕事は、個性派ファッション誌の撮影だった。
なお本人は、首にがっつりキスマーク(複数)を付けたまま現場入りしている。
「……ノア」
メイクルームで腕を組んでいるのはマネージャーの真田。
「なに、ミツキちゃん」
「これは何ですか」
鏡をくいっと向けられる。
白い首筋に、くっきり赤い痕。
しかも歯型付き。サービス精神旺盛。
「……模様?」
「違います」
「芸術?」
「違います」
「昨日の僕の記憶が消えているだけです」
「そこが一番問題です」
真田は額を押さえる。
「消しますか? コンシーラーで」
「任せる」
「任せるって便利な言葉ですね」
そこへカメラマン登場。
「おはようございまーす……お?」
ノアの首元を見て、三秒沈黙。
「……これ、消さないでいこう」
「は?」
真田の目が据わる。
「炎上しますよ?」
「いや、むしろバズる」
ノアは会話を聞きながらも、興味なさそうに水を飲んでいた。
撮影開始。
奇抜なジャケット。左右非対称のパンツ。
そして白い肌に赤いキスマーク。
情報量が多い。
「ノア、色っぽい目線ちょうだい」
「色っぽいってどうするの?」
現場が静まる。
カメラマンが吹き出す。
「そのままでいいよ」
ノアはいつも通り、何も考えない。
立つ。
壁にもたれる。
椅子に座る。
ぼんやりカメラを見る。
パシャ。
パシャパシャ。
モニターを見たスタッフがざわつく。
「やば……」
「なんであの顔で無自覚なの」
「キスマークがストーリーになってる」
真田、冷静に腕組み。
(……なんで成立するんですかね)
「いいよ! そのまま!」
「目線そのまま!」
ノアは特に色気を出そうとしていない。
ただ立っているだけ。
なのに――
白い肌、赤い痕、無機質な瞳。
“昨夜何があったのか想像させる男”みたいな画が完成する。
「これ表紙候補で」
編集が即決する。
撮影終了。
「ノア」
「なに、ミツキちゃん」
「次から首に歯型を付ける場合は事前申告」
「つけた覚えない」
「覚えてください」
「難易度高い」
真田は深くため息をつく。
帰り際、カメラマンが笑いながら言う。
「いやー今日のテーマ“破滅系美青年”でいけるわ」
ノア、首を傾げる。
「僕、破滅してる?」
真田、即答。
「現在進行形です」
こうして、
失恋の傷とキスマークを武器に、
本人無自覚のまま
ノアはまた一つ、仕事をバズらせたのだった。




