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うちの奴隷は、彼女との未来が見えない

※本作はギャグ・コメディ中心の作品です。

※倫理・制度・恋愛要素などは深く考えず、ゆるくお楽しみください。

翌日夜。


ミレイの部屋は、間接照明だけが灯っている。

ローテーブルの上には、空になりかけたワインボトルと、グラスが二つ。


ソファに並んで座る二人の距離は近いのに、どこか遠い。


ミレイが先に口を開いた。

「ねえ、ノア」


「なに」

グラスを傾けたまま、淡々と答える。


「これからの話、しない?」


「これから?」


「そう……二人の将来」

静かな声。責めも怒りもない、ただ真面目な響き。


ノアはグラスをテーブルに置いた。

将来。

その言葉が胸の奥でひっかかる。


「……どういう意味」


「このまま付き合って、何年も一緒にいて、その先どうするのかって話」


ミレイはノアを見つめる。真っ直ぐな視線。


「ノアは、どうしたいの?」


即答できるはずだった。

好きだと言えるはずだった。


でも、言葉が出ない。

将来の自分。誰かと暮らす自分。

ミレイの隣で歳を取る自分。


想像しようとすると、映像がぼやける。

そこにあるのは、仕事。

ステージ。

店。

日々の忙しさ。


「……」

沈黙。


ミレイは小さく息を吐いた。

「やっぱり、だよね」


「違う」

反射的に否定する。


けれど、続く言葉はない。

「違う……けど」


「けど?」


「考えたこと、なかった」

淡々と、正直に。

嘘をつく方が楽だった。でもできなかった。


ミレイは数秒黙り、静かに笑う。

優しい笑み。

「うん。知ってた」


ノアの胸がわずかに軋む。

「ノアはね、今が全部なんだよ」

責める声ではない。


「悪い意味じゃないよ。すごいと思う。ちゃんと自分の世界を持ってる」


ミレイはグラスを持ち上げ、くるりと回す。

「でも私は……未来を一緒に考えてくれる人がいい」

静かに、はっきりと。


ノアは何も言えない。

引き止める言葉も、約束も、出てこない。


ミレイはゆっくり立ち上がった。

「別れよっか」

自然な言葉。


「……ミレイ」


「嫌いになったわけじゃないよ」

目は少し赤い。

「でも、好きだけじゃ足りないから」


その言葉が胸に深く刺さる。


ノアはしばらく動けなかった。

やがて静かに立ち上がる。

ここは、ミレイの部屋。

出ていくのは、自分。


ソファに置いたジャケットを手に取る。

「……ごめん」

それが精一杯だった。


ミレイは首を振る。

「謝らなくていいよ」


玄関までの距離が妙に長い。

靴を履きながら、ノアは一度だけ振り返る。

言葉を探す。

未来の約束を、今からでも差し出せないかと。

けれど、何も浮かばない。


「ノア」


「……なに」


「ちゃんと、誰かの未来を考えられる人になったらさ」

少し笑う。

「その時は、幸せになってね」


祝福であり、別れでもある。


ノアは小さく頷くことしかできない。

ドアを開ける。

夜の空気が冷たい。


背中越しに、部屋の灯りが細く伸びる。

扉が閉まる。カチリ。

温かかった空間が完全に切り離される。


廊下に一人立ち尽くし、ノアはゆっくり息を吐いた。

未来を答えられなかった代償は、

思ったよりも静かで、

そして重かった。

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