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第九章 堂々と輝く

それから、私の生活は大きく変わった。


いや、正確には「変わらなかった」。


私は相変わらず、大学では地味な「紬」として過ごし、店では華やかな「るる」として働いている。


でも、一つだけ大きく変わったことがある。


もう、隠す必要がなくなった。


「星野さん、今日もバイト?」


ゼミの友達が聞いてくる。


「うん。今日は夜シフト」


「大変だね。どこでバイトしてるの?」


以前なら、誤魔化していた質問。


でも、今は違う。


「コンカフェ」


「え!? マジで!?」


友達の目が、驚きで丸くなる。


「うん。猫コンカフェで働いてる」


「全然想像できないんだけど! 星野さん、そんなキャラだっけ?」


「そうでもないよ。メイクしたら、結構変わるし」


「見てみたい! 今度、店行っていい?」


「もちろん。待ってるね」


こんな会話が、自然にできるようになった。


全員が理解してくれるわけじゃない。


中には、「え、コンカフェ……」と引く人もいる。


でも、それでいい。


私は私のままでいいんだから。


金曜日の夜、いつものように店で接客をしていた。


「るるちゃん、今日も可愛いね〜」


常連のお客さんが言う。


「ありがとうございますにゃん♡」


そのとき、店のドアが開いた。


「いらっしゃいませにゃん♡」


入ってきたのは――和也だった。


「あ、和也くん! 来てくれたんですかにゃ?」


「うん。今日、時間できたから」


和也は、もう常連客の一人になっていた。


週に一度は来てくれる。


もちろん、他のお客さんと同じように接客する。


特別扱いはしない。


でも、和也の視線が、いつも温かい。


「るる、今日の衣装、新しい?」


「そうなんですにゃ! 気づいてくれて嬉しいにゃん♡」


今日の衣装は、ピンクと白のフリルがたっぷりついた新作。


「似合ってるよ」


「ありがとうございますにゃ〜ん☆」


営業トークのように聞こえるかもしれないけれど、和也には本心が伝わっている。


それが、嬉しい。


一時間ほど接客して、和也は帰っていった。


「るるちゃん、あのお客さん、毎週来てるよね」


みゅう先輩が言う。


「はいにゃん」


「もしかして、彼氏?」


「……はいにゃん♡」


「やっぱり! 良かったね、るるちゃん」


みゅう先輩が、嬉しそうに笑う。


「全部話せて、受け入れてもらえて。それって、本当に幸せなことだよ」


「はい。すごく幸せですにゃん」


心から、そう思う。


閉店後、和也が外で待っていてくれた。


「お疲れ様」


「ただいま」


いつもの挨拶。


「今日、これ」


和也が小さな箱を差し出した。


「何?」


開けると、中には小さな猫のチャームがついたブレスレットが入っていた。


「前に、プレゼントしたいって言ってたやつ。『るる』の証として」


胸が熱くなる。


「ありがとう」


ブレスレットを手首につける。


小さな猫のチャームが、キラリと光る。


「似合ってるよ」


「本当?」


「うん」


二人で笑い合う。


「あのね、篠崎くん」


「ん?」


「私、この仕事、ずっと続けたいと思ってる」


和也の表情が、優しくなる。


「うん。それがいいと思う」


「だって、私にとって『るる』は、もう私の一部だから。これを失ったら、私じゃなくなる気がする」


「分かるよ」


「でも、大学卒業したら、就職もしなきゃいけない。そうなったら、店に出られる日は減るかもしれない」


「それでもいいんじゃない? 週に一回でも、月に一回でも。星野さんが『るる』でいたいなら、それを続ければいい」


その言葉に、涙が出そうになる。


「ありがとう。そう言ってくれて」


「俺、星野さんの『るる』としての顔も、大好きだから」


「私も、篠崎くんの前では、どっちの自分でいても安心できる」


手を繋いで、夜道を歩く。


もう、何も隠すものはない。


もう、何も恐れるものはない。


二つの顔を持つ私を、丸ごと愛してくれる人がいる。


それだけで、世界が輝いて見える。

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