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【49章 目が見えなくなって失ったものより得られた宝物

 就労支援カラフル大阪に通所して、新たな世界が広がった。そもそも集団での活動が苦手な私が、自発的に毎日通所している。人間関係がいい。目が見えない人が大半なので、同じ状況下で言わなくてもわかり合える。情報の99パーセントを視覚に頼っている健常者にはわからない。あるいは、見えているから騙される。そして、聞くことを怠って、大切なことを見逃している。目が見えない分、気配や声で心が読めてしまう。健康状態だって、わかることがある。

 そして、音には敏感で、歌好きが、たまたま集っていた。最初は、生まれつき盲目なのにピアノでイントロから演奏できるドラミちゃんを中心に、好きな歌を歌っていた。彼女が生まれていない古い時代の曲までも弾いてくれるのに驚く。年齢や生まれ育った環境も性別も違うので、知らない曲や懐かしい歌に出会えて驚喜したものだ。懐かしさもこみ上げてくる。歌には、その時代の匂いがある。あの青春の日々を。告白もできずにいた初恋を。そして、恋愛、仕事、結婚、子育て。なんとたくさんの歌があるのだろう。

 みんなで声を合わせて歌っていた。そのうち、「器用に奏でるドラミちゃんならオリジナル作品を作れるのでは?」と思い、提案してみた。何曲か聴かせてもらったが、作詞ができない。昔、バンドを組んでいた時、作詞をしていたというリーダーのヒデが詞を提供してくれた。

 はじめての試みだったので、試行錯誤。遠慮もある。精一杯作っても、オッケーが出ない。どんどん煮詰まってくる。無茶な要望にキレそうになる。そして、その気持ちを歌にした【むちゃぶりタリラリラン】ができた。それを歌うと、乱れた心が収まるらしい。しかし、それをメンバーには聴かせられない。和子の心の中にしまっておく。楽しくなければ音楽ではない。

 だから冗談を言ったり、それぞれを認めて、やりたいように見守っていたら、全くタイプも年齢も違うせいか、終着点を見いだせないまま空中分解しそうになる。仕方ないので口を出す。

「とりあえず、詞も、これ以上長くなると覚えられないし、追加の歌詞は次の曲に使おう。曲も、リーダーがイメージしているパターンとドラミちゃんのオススメの両方を録って、みんなでいい方を選んでもらおう」と。

 不本意そうだったが、何度か歌っていたら、そこにいたスタッフが覚えて歌い始めた。和子も気に入っていたインパクトのある曲を歌っていた。それで、決まった。みんなの意見を聞くまでもなかった。覚えやすい。つい口ずさみたくなる。それは歌には一番必要なこと。第三者の意見やアドバイスは、それからの作品にも反映されるようになった。

 和子は、ずっと欲しかった曲があった。日本語には言霊があって、いい言葉を発すると幸運を呼び込むと信じていた。本を二千冊以上読んで、幸運を呼ぶキーワードを知っていた。「ツイてる」と良いことをイメージして言うと夢が現実になるという本を何冊も読んだ。試してみたかった。しかし、なかなかできなかった。

 二曲目は【ドンマイ】というワードを使ってと依頼した。そして、リーダーが、ブレストトークで出たワードに、その優しさやセンチメンタルな繊細な感性を塗布して作ってくれた。それを何回も歌って、少し変えて歌いやすくした。本人には気づかれないように。しかし、案外、素直に受け入れてくれたのは、きっと皆が覚えやすくなっていたからだと思う。

 この二曲ができて歌っていたら、スタッフの女性が大阪府の障害者文化芸術コンテストにノミネートしてくれた。予選通過して、泉佐野にあるビッグ・アイでの本選に。侮っていた。ミュージカルやダンス、一輪車を使ったパフォーマンスにオリジナルの絵本……。ピアノ演奏も歌もプロ顔負け。凄すぎた。

 リハーサルの時も、目の見えないメンバーは、マイクにぶつかったり、立ち位置がわからず、映像を見ると皆違う方向を向いていたらしい。誰もが受賞なんてあり得ないと諦めていた。ヘルパーが天使の羽や、花々をあしらったカチューシャを集めて帰り支度をしていた。

 和子も無理だと思っていたが、まだ発表もされていないのに、早々と舞台衣装を脱ぐのは嫌だった。【最後まであきらめない】という姿勢を崩したくなかった。ヘルパーの女性は大きなため息を吐いて、嘲笑しているのがわかる。悔しかった。結果が出るまでもなく、無理に決まっているだろうと言われているようで。きっと、そうなるのだろうと、わかっている。往生際が悪いと笑うなら笑えばいい。そうやって、諦める癖がついて、夢も希望も持たなくなるのは嫌だった。蓋をされて飛ぶことを諦め、飛ばなくなった蛙にはなりたくなかった。

 それでも、発表が終わるまでは廊下でメンバー全員待たされていた。みんな帰る気満々で、雑談に花を咲かせている。隣に座っているリーダーも、いつもより賑やかに話しかけてくる。発表の声が聞こえない。すると、反対側に座っているナオが、「カラフルとか聞こえてきた気がするんだけど」と言う。スタッフが確認してくれて、至急舞台に上がるように言われる。

 天使の格好をしているのは和子だけ。誰が表彰状を受け取る役なのか? トロフィーは誰が? 何も決めていなかったので、一番に舞台に上がったナオが表彰状を、二番目に舞台に上がった和子がトロフィーを受け取った。準グランプリだった。

 和子はトロフィーを高く持ち上げて「ありがとう」と観客に手を振った。が、反応がない? ヘルパーが「反対方向を向いていたから、観客には見えなかったから仕方ない」と笑った。「教えてよ」と赤面するしかなかった。

 審査員からは「コーラスはイマイチだったけれど、オリジナルの作詞が素晴らしかった」と言われた。「コーラスじゃないのに。それに、反響板がないので隣の声しか聞こえず、低音の声に合わせる術などなかったし」と不満はあったけれど、初出場で受賞できたのだから、奇跡には違いない。その受賞で、メンバーの意識がひとつになった。

 寄せ集めのメンバーだった。低音のヒロは、誘ったものの本当に出場してもらえるとは思ってもいなかった。IT企業に勤めていた天才で、日本が誇るオタクで、鬱だったらしい。目の手術を10回もして見えなくなって、逆に鬱は治ったらしい。しかし、入所したばかりで無口。嘉門達夫の歌で皆を笑わせ、なじんだばかり。一緒に来た母親も、舞台に立つ息子に驚き、喜んでくれた。

 リーダーも、バンドを組んでいたのは半世紀も前のこと。ミネコちゃんは、当時カラフル大阪の代表で、歌は苦手だと逃げていた。ドラミちゃんもナオも、サカサマヨ(和子)も、こんな大きなステージに立つのは初めてだ。ただ、皆、全盲だったので怖いもの知らずか? それほど上がることはなかったのが良かったのかもしれない。

 この受賞のおかげか、三作目の【朝の散歩】ができると、チャリティイベントのためにプロのスタジオでの音録りが。そして、次々に嬉しいことにステージが用意された。長年プロデュースしてきた和子には、信じられないラッキー続き。次の年こそは優秀賞をと目指し、サカサマヨ(和子)作詞の【新世界 僕の応援歌】で、手話やクラシックも入れ込んで挑もうとしていた。

 その頃には、ドラミちゃんが作った、実質作詞作曲一作目だった【むちゃぶりタリラリラン】も発表。自信がなくて不安な心境から、色々注文を受けて苛立ちキレたり、思い直して自分を励ましたりと、まるで一人芝居のようなドラミワールドは、受賞して結束が高まったメンバーにも笑顔で歓迎された。

 しかし、受賞者は二年続けての出場はできないとのルールがあると聞いて、意気消沈するメンバーたち。発表の場を求めて、ミネコちゃんがボランティア活動でもと、アイアイセンターとつないでくれた。そこで、アルツの方々が一日ランチでもてなすオレンジ食堂のイベントでゲスト出演を。アイアイサロンやアイアイ祭りなどに出演依頼があって、助成金もいただけるようになった。

 アイアイ祭りで「カラフルな天使たち」のステージを見た方からオファーがあって【社会を明るくする会】への出演も。はじめて、出演料と食事も用意していただいた。その会には議員さんや福島区長、中高生たちで満席だった。ノリも良くて、たまたま次の年に開催される大阪・関西万博への出場が決まったばかりだったので、応援の声もひときわ。終了後も、たくさんの方から感動の言葉や名刺などをいただく。

 ユニバーサルイベントやクリスマスイベント、毎月のようにオファーがあって、舞台のシナリオを書いたり、練習に追われて小説を書く暇がなくなってしまった。でも、反応を直接感じられる舞台は、やはり楽しい。歌に感動して涙してくれる人がいる。喜んでくれて、また出演を依頼してくれる方々がいる。

 歌を歌って聴いて、運が良くなった。ギャラがもらえなくても、喜んでくれるなら、どこにでも行く。舞台はメンバーのスキルも上げてくれる。観客の応援が、アンコールが、次への創作意欲のエネルギーになる。「仲がいいのが映像を見ても伝わってくる」と、ユーチューブを見て遠くにいる友人たちも言ってくれる。「歌詞がいい。胸に刺さる」と多くの人に言われる。

 みんな、夢を見ることすら自信がなくて怖いのだ。だから、そんな気持ちに寄り添って、ちょっと元気が出る、不思議と運が良くなる歌を発信していきたいと思う。そして、大阪人ならではの笑いも入れて、歌と(笑)で元気にしたい。ドリフターズみたいに。




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