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第47章 自分のプロデュースのはじまり

還暦を迎えた和子は自分のために赤いドレスを買っていた。エステのコンテストでは全国で4位になった。おかげ様で何十年ぶりにウエストが61センちになった。買っておいた7号のドレスが楽々入った。若返った姿を、どこかで披露したくなった。そこで、視覚障害者のカラオケ大会に出場することにした。小さな舞台だと侮っていたら、200人以上入るホールだったので足が竦んだ。でも目が見えないので、それほど上がらなかった。大阪西区であった予選は通過した。優勝候補だと主催者のホームページで紹介された。「真っ赤なドレスも赤い靴も似合っていますね。ご自分で選ばれたんですか?」との司会者のインタビューに「還暦のお祝いに自分で買いました」と答えると会場から驚きの声が。主催者から「言わなかったら30代かと思っていた」と言われた。本選でも新たに真っ赤なロングドレスで出場した。資生堂でメイクアップアーティストをしていた友人がはりきって髪とメイクをしてくれた。おかげで、「小林幸子みたいだ」とヘルパーさんに言われた。きっと凄いことになっているのだろうと思った。見えないので任せるしかない。歌は【栄光の架け橋】を選んだ。いつの頃からか和子のテーマソングになっている曲だった【誰にも見せない涙があった】で始まる歌に涙で声を詰まらせて、様々な苦境を乗り越えて来た日々を思い出す。高い目標を目指すから、受ける打撃も挫折も多かった。ポジティブにいくら解釈しようとしても、解決できない悲しい現実が行く手を阻んでいる。裏切られ、利用され、誤解されて布団の中で泣き声を殺していたことも。そんな悔しくて怖くて仕方ない時、この歌をいつも歌っていた。【もう駄目だと全てが嫌になって、逃げだそうとした時。思い出せばこうして沢山の人の支え中で歩いて来た。悲しみや苦しみの先にそれぞれのひかりがある。】と言うフレーズに、どれだけ力付けてもらったことだろう。大きな舞台で、本選に出られただけでも光栄だった。視覚障害者の人にぜひ言いたかったメッセージがあった。障害なんて、確かに大変なことだけど、みんな誰でも同じやりきれない思いを抱いて生きているのだと知って欲しかった。支えてくれる仲間さえいれば、どんな困難も乗り越えられるということを。

今まで、プロデューサーとかコピーライターとして、他人の成功のためにあれこれ頑張って来たけれど、こうやって自分が舞台に立って脚光を受けることなど考えもしなかった。足も震え、昨晩も一睡もしていない。でも、全盲だから怖くない。光を失ったからこそ、こんな無謀なチャレンジが出来たのだ。誰も気がついてはいないが、実は自分の番が来るまで赤ワインを飲んで景気づけをしていたのだ。本当は不安でいっぱいだったのだが、やって良かった。これで還暦の厄落としはできた筈。きっと、この日の拍手を胸に。大丈夫。これからも頑張れる。受賞はできなかったけれど、沢山の仲間が残念会を用意してくれていた。もちろん優勝を疑わなかった仲間たちが打ち上げに用意してくれたものだ。飲み放題だったので、久しぶりに飲み過ぎて家まで車で送ってもらった。後日、店主が「女優さんですか?」と聞いていたと教えられた。友人の化粧がうまかったのか?エステの効果なのか?ただ、世の男性たちが、一気に優しくなった。食事や飲みに誘う割れることが多くなった。ずっと会っていなかった男友達からも連絡が来るようになった。見えないので、自分の豹変ぶりはわからないが、見た目が変わると男性たちの扱いが、こんなに変化するのだと、初めて知った。見えていた時には気づかなかった。見えなくなって、見た目、美しくあることは、悪くないと素直に思えるようになった。中身とか性格とかを磨くことは確かに大切なことだけれど、与えられた体を健康に美しく保つこともないがしろにしてはいけないことだと気づいただけでもありがたい。自分の美意識で服も髪形もメイクも決めていた。今は、見えないので、周囲の人の意見を聞いて選んでいる。黒づくめの洋服もカラフルになった。メイクも性格も年齢を気にせず選ぶと好評だった。我を捨て、みんなの意見を聞けるようになったおかげで、新たな世界が開かれた。

夢を見ることも恐れない。失敗なんて、成功するための肥やしだと信じられる。怖いことは何もない。イメージどおり人生は創り上げられていることを実感しているから。

年齢も障害も、これからの快進撃のための布石だった。見えないおかげで、未来への妄想を止めるものは何もない。

ここからが、生まれてきた使命を遂げるための新たなチャレンジ。




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