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第38章パリの大舞台の成功までのストーリー

ジャパンエキスポでは日本舞踊も歌舞伎も、それぞれ毎日公演して欲しいとオファーが正式に来た。歌舞伎は同じ演目でかまわないが、日本舞踊は毎日違う演目をして欲しいとリクエストがあった。歌舞伎は持って行くことの出来る小道具とか衣装や鬘のことがあるので、内容については歌舞伎役者に任せるしかない。ギャラ無しで、むしろ渡航費などを費やしての参加。パリに行っている間は仕事も入れられない。何件か仕事も断って参加してくれたのも、日本の伝統芸能【歌舞伎】のため。最小メンバー3人での参加となった。この3人は、子供歌舞伎を教えている先生でもある。なので、逆に何でも出来る。本来、衣装は松竹衣装から借りているので、こういう公演の時には1人はプロの衣装さんが同行する。ちゃんと、衣装を毎日管理できる人がいないと貸し出してはくれないらしい。予算のない地方で歌舞伎を教えているので、その中で自然と、予算カットするために衣装さんの仕事もマスターした人を使うようになる。後見も兼ねて舞台に関わる大抵のことは出来るらしい。舞台をちゃんと勤め上げるためには彼の力が必要。歌舞伎も日本舞踊も演目のことをよく理解してくれている後見がいなければ出来ない。後見とは、黒子とも言われるが、後ろで小道具を渡したり、着物が変わる時に手伝ったり、髪型を変える必要がある時、演者の代わりにやってくれる。それも、全て舞台上でやるので、大切な演者の一人だ。今回、着替えも彼がしなければならないので、その間舞台の後見は、花柳先生に手助けしてもらう。やまとふみこ師匠の歌舞伎舞で、時間を埋めなければならないからだ。海外公演なので、衣装替えに思った以上の時間がかかってしまう。これも、現場に来て、初めてわかることだ。最初5分ほどの着替えの時間を、師匠の踊りで埋める予定だった。しかし、楽屋が遠いのか?待ってもなかなか現れないので、20分近くも踊って頂くことになる。2日目からは、花柳先生が即興で、歌舞伎の説明をして、フランス語訳して着替えを待った。臨機黄変、様々なアクシデントを当日乗り越えて来た。お2人のおかげだと感謝した。一人3役はこなさなければ、海外公演など務まらない。人数を増やせば、楽なのだが、費用がかかる。

そもそも「歌舞伎をやってもらいたい」と最初に主催者は松竹に話を持って行ったらしいが、断られたそうだ。松竹がやるとなると大掛かりになるし、予算も無いのに持ち出しではお金がかかり過ぎて、できないだろう。鬘や小道具だって安くはない。歌舞伎チームが凄いのは、朝パリまで行って、布を買って来てミシンで衣装を作っていたことだ。手作りで賄えるものを工夫して、知恵と体力を使って涙ぐましい努力をしてくれていた。多分、日本のあちこちでも、このメンバーで歌舞伎の復興に尽力されているのだろう。なかなかプロのプライドがあるようで、こちらの意向は聞いてはもらえないことが多かったが、言う事だけは言っておこうと思っていた。例えば、ワビサビステージで、歌舞伎のメイクをしている所をワークショップみたいな感じでやれないだろうか?」と言ったら、「無理だ」と言う答えだったが、現地で急遽やってくれることになった。「前もって、快諾してくれていたら、台本を書いてフランス語訳してもらえたのに」と少し残念だった。瓶付け油を顔に塗っている時、多分何をしているのか?誰にもわからなかったと思う。それでもフランス人は興味深く、観てくれていた。フランス人は、すぐ理解できるものより、なかなかわからない物事の方が好きらしい。なので、派手な歌舞伎より能を好む。ワビサビや禅の世界が人気だというところからも、それは伺える。徐々に出来上がって来る歌舞伎らしい顔にフラッシュがたかれる。メイクが終わると衣装を着けられ、準備万端。そこで、大舞台の演目が始まる寸法。近くで、歌舞伎のワンシーンが見られるので観客も沸いている。ジャパンエキスポの舞台は周辺のブースの音がうるさくて、生の声が聞こえにくいという難点がある。歌舞伎は元来マイクなどつけないが、大舞台では、雑音に生声はかき消されてしまうので、苦肉の策。マイクを2日目からつけてもらったのだ。なので、小さい舞台では生の声での本来の歌舞伎を見てもらえるので嬉しい。今回、連れて行ったメンバー15人には、細かい連絡事項も依頼したいことも、パリに行く前に伝えておいた。しかし、実際パリに行ったら舞い上がってしまい、誰も必死で作ったスケジュール表など見ていなかった。持って来てもいなかった。それでも、舞台だけは穴を空けないのはプロだ。初めてのお手合わせなので、誰がどれだけ動いてくれるのか?「何でも協力します」と言っていた人ほど、アテにはならなかった。それぞれ安くはしてあげていたけれど、自費で来ているので、「パリ観光もしたい」とか、ワガママを言う。和子はツアコンではない。一銭も頂いていないし、むしろ持ち出し金額はいくらかかっているのか?想像すらしたくない感じだ。パリでの注意事項も内容も、スケジュールも全てメールで送っている。全員が見えるようにヤフーでグループも作ってもらっていた。なのに、それすら読んでいない。挙句に「あんなに長い文章を読む人はいない」と言う始末。若い子は3行以上のメッセージは読まないらしい。プロ意識のない子が混ざると、舞台に集中できなくなる。その上、お荷物になる。トラブルばかりを起こす。パリまで着物を着たままで出かけたら、狙われパスポートもお財布もすられ、落ち込んでいた。もう一人が励まして、お金を貸していたのだが、その子もホテルに帰り際、スリに合ったらしい。あれほど、パスポートはコピーしたものを持って行くよう、パスポートや貴重品は、持ち歩かないよう注意したのに。日本大使館で、処理する羽目になった。可哀想だが、お金は保険に入っていても返っては来ない。好き勝手に動くので、和子は面倒見れない。和子の役目は、舞台を無事やり遂げることだ。皆がそれ以外で何をしようと、興味もない。相談には乗るが、手配を全てやるのが当たり前だと叱責してくる思い違いの男には閉口するしかない。元々、目が不自由な和子に付いてもらうために連れて行った子も、お金をその分出して上げているにもかかわらず、自分が遊ぶのに夢中で、いつもどこかに行って役には立たなかった。写真も撮ってもらった筈なのに、帰国して何度言っても、送ってもらえない。明子をプロデュースした時に、さんざんアマチュアは役に立たないと思い知った筈なのに、やる気がありそうだったので学生を使ったのがいけなかった。少々お金が高くても、プロを連れて行くべきだった。おかげで、行きたい所には行くことも出来ず、皆の荷物の見張り番のように、席に座らされてトイレにも困った。昨年、明子と娘の3人で行った時の方が、楽しかった。皆が舞台で忙し過ぎるのもあるが、非常に孤独だった。

しかしシナリオ通り、大きな舞台では4日間、歌舞伎と日本舞踊が披露され、毎回超満員で観客のウケも良かった。

やまとふみこ師匠には大舞台のみで踊って頂いた。それというのも、リハーサルの時、ワビサビステージの演目を小さな会場でやらせて頂いたのだが、その時、はじめて師匠の踊りには周囲2メートル以上の空間が必要なのだと気が付いたのだ。近くで見ても素晴らしいのだが、元々歌舞伎舞のせいか、動きが大きい。踊る周囲にオーラというか、エネルギーが満ちているのがわかる。

「師匠には大きなステージしか似つかわない」と、気が付いのだ。本番急な変更に、「師匠もワビサビステージで踊りたいのでは?」と言う声もあったが、1日2回のステージは、着替えだけでも大変なので、本人も納得していた。だいたい8ステージで踊ってもらったら、普通、師匠にギャラをどれだけ払わなければならないのだろう?昔を知っている鬘の第一人者が「ふみこ師匠は高いよ。」と教えてくれたことがある。あの歌舞伎座を超満員にした実力は健在。今回は皆ノーギャラで渡航費も自分持ちで来て踊ってくれているから。フランス人もこんな本格的な舞踊を見ることが出来て、大満足だったはずだ。ワビサビゾーンでは4日間で12ステージを連れて行ったメンバーでやらせて頂いた。どれがヒットするのか?和子のプロデュースのチャレンジでもあった。この時、若いとか文化の違いとか関係なく芸術は国や世代を越えて人々を感動させるのだと確信した。 

藤娘や俄獅子、連獅子はもちろん、珍しい化け猫や子守の演目もある。芸達者な花柳先生の踊りに観客の笑顔が弾ける。指笛まで聞こえて来る。やまとふみこ師匠はさすが、何を踊っても会場を深閑とさせ、終わると拍手の渦。本物は言葉を越え、民族を越え、心に迫って来るものだと改めて感動した。次女も20歳という若さで、飛び跳ねる男舞いも、【藤娘】や【京の四季】などの若い女性ならではの演目で目を魅いた。劇団四季のミュージカルで活躍していた、女性も日本舞踊は習いたてなのに舞台映えはさすがプロ。ビジュアル重視の若い男の子たちには、この2人がやはり人気がある。今回、年齢もキャリアも違う5人で結成したのも理由があった。現代と古典、大御所と若手。どちらも日本の芸能を彩る大切な才能だ。その幅広さと、日本舞踊にはパントマイムやバレエのような洒脱で面白いものから、威風堂々とした芸術的なものまであることを。日本舞踊の芸の深さと幅広さを見せてあげたかった。そして和子ならではの、こだわりの演出は。フィナーレをフランス人でも馴染みのあるカルメンの【ボレロ】の曲で踊ること。振り付けは日本舞踊で。

一人ひと舞いして舞台袖に下がり、最後は皆で一緒に踊る。なかなか忙しく、集まれないメンバーなので、この企画を発表したのも、日本のリハーサルの時だった。パリのリハーサルで合わせた時は、『企画倒れだったかも?』と危ぶまれ少し後悔したものだた。しかし、さすがプロ。本番になると、ふみこ師匠のノリノリの様子に出演者も影響されて、観客席から盛大な拍手が。その盛り上がり様に、全員楽しんで踊るようになった。やっぱり、舞台は観客と呼吸をしながら成長するものだと実感した。アンコールや、指笛やかけ声。舞台と観客が一体化して、皆の心に親愛が生まれる。心と心が触れ合うことが出来たと思う瞬間だった。そもそも人が興味を持って見ることが出来るのは5分までと言われている。なので、頂いた30分枠で、前座の太神楽を入れて6人の出演者が、違う演目を次々踊ることで、メリハリをつけ、日本舞踊の魅力に気がついてもらえるよう演出したのだ。ここで発表する踊りを全て、日本でリハーサルしたのだが、そのバラエティの富んだ内容に日本人でも驚いていた。多分、踊りの会に行っても、みんなが躍りたい演目が決まって来る。だから、どこに行っても、派手な獅子の出る物とか藤娘や鷺娘のような衣装も美しい者ばかりになるのは仕方ない。これが師匠クラスになると、オリジナル作品や珍しい出し物を踊ってくれる。歌舞伎役者も最初は主役に憧れるのだが、キャリアを積むと悪役やユニークな役がしたくなる。主役は、どんな演目をしても、あまり変わらないから演じていて面白くないのかも知れない。主役級が脇役を演じていたら、贅沢極まりない。その存在感で主役よりも印象に残ることもあるから芸の道は厳しい。とはいえ、パリに持って行くには有名な演目も外せない。「4日間、毎日違う演目をして欲しい」とのリクエストを頂いたので、こんな贅沢な舞台が実現できたのだが、影での舞踊家の苦労は、大変なものがあった。5分といえど、衣装も髪型も小道具も全て違う物を持って行かなければならない。特に師匠たちは、歌舞伎の舞台にも出演しなければならない。歌舞伎チームの衣装替えの間、十八番の【道成寺】を踊ってくれることになったからだ。その上、連れて行く弟子の着物も道具も全て用意しなくてはいけない。なので、サムソナイト2つ以外に手持ちで小道具や鬘など、大荷物だ。その重量も30キロ以内に収まるかどうか。体力だって、半端ない。国内なら買いに走ることも出来るが、海外ともなると、細々としたもの全てを用意しなければならない。パリに行くまでに、花柳先生は髪結の練習をして、出来るようになった。海外公演は、何でも自分で出来ることはしなければならない。自費の参加なのに、果敢にチャレンジしてくれる人は探してもなかなか見つからないものだ。なのに、よくこれだけの人が集められたと思う。決して業界に人脈があったわけではない。今回、このためだけに紹介され出会った人ばかりだ。以前からの付き合いがあったのは花柳先生と次女だけ。あとは、パリで初めての顔合わせをした人も多い。舞台ごとの中心人物とは打ち合わせはしているが、あとは、それぞれのチームで、その舞台がつつがなく出来るようスタッフや協力者に声をかけて集まったメンバー。これだけの多彩な舞台が仕掛けられるなんて思いも寄らなかった。



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