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第34章 トラブルを乗り越えパリでの意外なパフォーマンスが

長女はパリで買い物がしたいと普段着で出かけた。そこで和子は娘の晴着を着て明子と、ルーブルへ。5時前なのに、30分しかないからと、入館を断られてしまった。娘はオペラ座の近くでショッピングをすると言って別行動だった。6時に待ち合わせをしたので、動くことも出来ない。お金もかばんも娘が持ってくれていたので、ここではぐれたら和子と明子の2人ではホテルにも帰れない。仕方なくルーブルの外の広場に座って待っていたら、観光客が集まってきて写真を撮りまくられた。そのうち、警官が来て何か言っているが、フランス語なので、さっぱり分からない。つたない英語で話すが伝わらない。明子も日本語で外国人が話す真似をして「彼女の娘がここに来る」などと、ふざけているのか?本気なのか?そんな変な日本語がパリの警官に伝わるワケがないのに。ただ滑稽で、物事の大変さに泣きたいくらいなのに、笑ってしまいそうになる。警官たちは「日本語はわからない」と英語で答えているのに、伝わらない。英語のわからない明子はめげずに、先ほど一緒に写真を撮って仲良くなったルーブルの受付の男性を連れてきてあれこれやっているが、どんどん警官が増えてくる。そうしているうちに、30分遅れで娘が待ち合わせの場所にやって来た。明子が、それを見つけて「ヘーイ、ドーター」と手を振る。一瞬反対方向に逃げようとしていたが、思い直し観念して、こちらに来てくれた。英語で何やら話して、無罪放免。「ルーブル内ではパフォーマンス禁止になっているので出て行って欲しいと言っているのに聞いてくれないと困っていたよ」と娘に叱られる。和子たちは待っていただけで、パフォーマンスなんてしていない。勝手に写真を観光客が撮って、どこかでパフォーマンスした時とのために持っていた募金箱にコインを入れて行っただけ。と釈明しても「どう、見てもパフォーマーでしょ」と怒られた。有名になりたいのはわかるけど、牢獄に入れられて新聞沙汰になったらシャレにならない。疲れてカフェでお茶をしていたら、一度紹介されたきゃりーぱみゅぱみゅのプロデューサーが声をかけてくれた。さすがに晴着は目立つらしい。そして、南フランスでのイベントに出ないか?との嬉しいオファー。日本に帰国し、スケジュール調整をしたが、武庫川女子大学の日本舞踊部の公演日と重なっていて断わらざるを得なかった。パリに行くために尽力して頂いた方の恩があるから、約束は破れない。明子は、どうやっても行きたそうだった。他からも、サンペテグルスであるジャパンエキスポのようなイベントにもオファーがあった。オペラハウスで踊れるのは魅力的だった。しかし、それらを簡単に受け入れられない事情があった。それまで活動していて感じていた不安。パリはたまたま行くことが出来て、大好評だったが、明子の祖母の邪魔が入ったら、いきなり行けないというリスクがある。そもそもノーギャラで、むしろ費用持ちで1年に何回も海外公演できるはずもない。興味と欲求を抑えて、それらのありがたい申し入れを断るのは、本当に辛かった。こんなチャンスは滅多にない。しかも藤娘を演じ、裏方やツアコンをしてくれた娘がいないと何もできないのだから。その娘が、大学の卒論もあって、付き合ってくれそうもない。その上、破天荒でトラブルメーカーの明子のじゃじゃ馬ぶりを発揮し始めて和子のコントロールもきかなくなっていた。大盛況で注目を浴び、担当者からも感謝されたパリだったが、数多くの問題をかかえていた。次の年のジャパンエキスポでは大舞台を今回のお礼にご用意してくれると内諾も頂いている。用意不足で、欲を出してゲームエキスポだのロシアでの見本市だのと信頼関係を失くしている明子と行けるワケがない。リスクばかりが頭をもたげてくる。中途半端な事をして、せっかくの信頼を無くしては元も子もない。悩んだけれど、諦めて良かった。

和子の予想通り、2013年のジャパンエキスポの舞台には日本舞踊の祖母に阻止されて、明子は誰にも挨拶なしに6月1日のリハーサルの日に消えた。

「舞台人たるもの、舞台があれば肉親の訃報があっても死に目に合えないものだ」と偉そうに言っていたのに。リハーサルを兼ねて鳴尾でやった6月1日のチャリティイベントには明子が誘ったアーティストも観客も沢山来ていた。その方々にも何の連絡もなく、その日から消えた。実は怖い祖母にバレて、パリに行く日に和歌山で舞台を入れられダブルブッキングしていたらしい。祖母にちゃんと本当の話をして応援をお願いしていたら、こんなことにはならなかったのでは?と惜しまれるが、年末の南フランスのイベントでこんなことがあったら、謝罪だけでは許されない。ちゃんと経済産業省から予算を取ってくれると言っていた。相手はプロ。損害賠償だってしなくてはいけなかったかも知れない。昨年末の決断は正しかった。本来リスクなど考えず猛進するタイプの和子だったが、明子と組んで負わされるものが、どんどん増えてきて、さすがに学んで回避できたのはラッキーだった。最初は、誰もが騙される。明子の周辺には、そんな男性たちがひしめき合っていた。それを上手に使って、どこに行っても無料で人を使い、ご馳走になり、好意を利用してのし上がってきたのだろう。一緒に行動していた和子も、その恩恵を何度か受けて、居心地の悪さを感じながらも助かっていたが。一番こき使われたのは和子だったし、いつも明子の尻ぬぐいをさせられて、前には進めなくなっていた。突き放しても、何もなかったかのような無邪気な顔で甘えてくる。年頃の男だったら、みんなほっとけなくなって手伝ってしまうのは当然だと思う。でも、ちょっと踊りがうまくて見栄えのいい、お嬢様のお遊び。やる気もあって、行動も早い。何より歌舞伎や日本舞踊が大好きだったし、芸を磨くことには熱心だった。だから射止めることができたパリのジャパンエキスポの舞台だったと認めている。しかし、これ以上の高みに上がれる人材ではないと、ここ数年一緒に行動して気がついていた。でも、世界へ羽ばたきたかった夢が同じだった。だから出会い、成果を上げることができた。すでに和子の夢は明子を売り込むことではなく、日本の美しい伝統芸能を世界へ発信することに変わっていた。そして、次の年に頂いた大きなチャンスのために、精力的に東京や大阪の舞台を見に行っていた。同時にSNSを駆使して世界の舞台に通用しそうな若いアーティストを探した。

2013年のジャパンエキスポに出演希望のアーティストたちが20名ほど集まった。出し物のメインは歌舞伎と日本舞踊。出演者の他にもタペストリーの有名な作家さんや、日本の素材の可能性をぷれんぜーションするために和歌山の特産の山椒を使ったケーキを作ってきたぱてしぇとか。当時、出たての初音ミクを使ったオリジナル曲を売り出したい作詞作曲家などなど、ありとあらゆる可能性を感じた物を伝統芸能と絡ませて売り込もうとしていた。どれかがヒットすれば、今回の投資も無駄にはならないと信じて。みんな夢を抱きながらも、裕福ではなかったので渡航費まで1年以上前から手配して、通常よりも格安で行けるようにもしていた。和子自信も自分のプロデュースが世界に通用するのかどうかのチャレンジだったので、利益度外視の全くのボランティアでよかった。目も不自由なので負い目もあった。助けてもらわなければならない状況もある。しかし、「何でもしますよ」と言ってた人はアテにならないなんて知らなかった。みんなツアーで来たかのように、何もかもを頼ってきた。さすがに、自分で舞台を手がけていたキャリア組は、【以心伝心】言わなくても動いてくれたが、若いメンバーは経験も無いので仕方ないが、トラブルばかり引き起こした。すでに、準備段階で、一番頼りにしていた若手に裏切られた。やる気満々で、まあまあ踊れる。見た目も悪くない。まだ30代の二人には期待していたのに。さんざんかき回したあげくいなくなった。一人は明子だったが。もう一人は、日本舞踊の新派の家元の息子で歌舞伎役者と言っても大部屋で出演していた若手だった。最初は鼻息荒く熱心だったが、具体的な企画を立てさせると現実的ではなかった。舞台に出ていると言っても、助っ人で出演しているだけで、全体的な企画や収支などは皆目わからないようだった。しかも若い。美人の奥さんがマネージャーだったが、ご懐妊で表には出てこなくなっていた。プライドだけは高く、最初は「明子のようなセミプロと一緒に舞台に立ちたくない」と難色を示していたのに。明子と会わせると態度を豹変させて、猫撫で声で明子にアプローチして来るようになった。東京に来るようにと。家に泊めてくれると言われて行くことを明子から報告される。若い人たちが、プライベートで何をしようと関係ないのだが、明子から赤裸々に報告されるとチームワークが乱されるので口を出さずにはいられない。そもそも明子は、男性ファンからのメールや電話を全て和子に伝えていた。電話もかかってくるとイヤホンの片方を和子の耳に入れて、何を言うべきかアドバイスを求められるのだ。だから、好意的に手伝ってくれる男性が、恋愛感情を持って、ひつこく誘っているのも全部リアルに聞かされていた。皆の前では善人を装って、奇特な人だと思っていたのに、本省を知らされて落胆することはしばしばあった。しかし、和子の前では偉そうに侯爵をたれて、裏ではデレデレ奥さんがいながら言い寄るなんて、信じられなかった。そのうち、化けの皮がはがれて、パリのジャパンエキスポには来れなくなった。

トラブルは嫌なものだが、逆に真意がわかったり、本番までに手をうてるので恩恵のように感じられることが多かった。現実20人のアーティストをパリに渡航させて舞台を仕込むのは和子しかできないのだから。文句を言う奴。ワガママを通そうとする人。こちらの情報は全然読まないでトラブルを起こすヤカラ。子供じゃああるまいし、お金をもらっているワケでも無いのに、お礼どころか悪口三昧な人は振るいにかけられいなくなった。一番困ったのは、前年度の功労者である長女が仕事で来れなくなったことだ。仕方ないので大学生の次女を連れて行くことになった。日本舞踊にしても、歌舞伎にしても子供の頃から、その業界にいた娘たちは大きな戦力となった。加えて、若手歌舞伎役者は、さんざんかき回した挙句、資金不足もあって参加できなかったし、明子も消えて実質若手で踊れるのは次女だけ。花柳先生とやまとふみこ師匠に舞台の監修を、お任せして、歌舞伎の方は立花さんに一任した。舞台に必要な着物からカツラ、小道具などなど。少人数で、費用をかけずにする技は、あちこちで歌舞伎を教え舞台を作ってきたキャリアと知恵頼みだった。ギャラも出ない。タダ、日本の伝統芸能を見たいと言うフランスからの依頼に応えるべく、奮闘してくれた。劇団四季でライオンキングにも出ていた女性も日本舞踊を習って果敢にチャレンジしてくれていた。即興で踊れるものではないが、さすが舞台人だけあって華がある。美人だし、もしかしたら新たなファンができるかも知れないと仲間に入れた。もともと、明子の紹介で入ってきたのだが、中途で明子が連絡無しでいなくなってしまったので、ちょっと可哀そうだった。それでも、友達とレジャーで遊びに行くのではない。自分の将来のためのプレぜんテーションのために行くという覚悟は、さすがプロ根性があると感心した。着付けの先生も、踊りながら着物を着るなどというユニークな舞台をしてくれたし、もちろんみんなの着付けも助けて下さった。和子も日本舞踊と歌舞伎が、どれほど受け入れられるのかを知りたかったし、思いつく限りのチャレンジもしたくて様々な企画を立てた。パリに連れて行くのは15人だったが、準備段階で協力してくれた方々を含めると、どれだけの多くの人が関わってくれたことだろう。

舞台には神様が棲んでいると和子は信じている。影での努力も、見えない所でやっているズルい行いも舞台の上で裁かれているのを何度も見たことがある。どれだけ上手くても正念が腐っていたら、剥がされる。勧善懲悪とか正義をふりかざすつもりはない。和子は明子によって、パリの舞台もゲットできたし、トラブルが多かった分、今ではそれも笑い話。沢山の経験をたった2年の間に寝る間もない位させてくれた。まるで、台風のように。周囲の人はバカにするが、金銭的にはマイナスばかりで確かに損してばかりだったけど。それでも、和子は楽しかった。そこから何かが始まり、新しい扉が開いた。あの金環日食の日に。



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