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第31章支援を受けれない舞台人は消えていく?

現実問題明子の衣装替えのことなどなど考えると、もう一人踊れる人がいなければ30分の舞台は難しかった。

そこで、長女に【藤娘】を踊ってくれるよう頼んだ。無茶振りだった。7月最初の週末が本番。もう五月。歌舞伎は子供の頃からやっていたが、【藤娘】は習ったことがない。武庫川女子大学の日本舞踊部の顧問の先生の力をお借りして、お稽古をつけてもらった。明子が卒業生だったのもあるけれど、ひと月千円の部費で日本舞踊を学生たちに教えているのは凄い。お金持ちしかできない日本舞踊を、何も知らない貧乏学生に教えるという試みは、かなりの人間力と奉仕の精神がなければ出来ない。しかも、30年以上続けているのだから、驚いてしまう。今回のイベントも先生方に、長年の知識や経験をご教授して頂きながらでなければ、この無謀なパリ公演は成功しなかっただろう。渡航するまで、教えて頂いたのは踊りだけではない。化粧や髪結、着付けなどなど。娘も舞台人だっただけあって、必死に練習をし、小道具も手作り、大変だった。しかも、明子は祖母のちいさな流派を手伝っていたにもかかわらず、内緒で渡航しようとしていた。途中でバレて、和子の方にもの凄いクレームが来た。和子は明子の依頼でボランティアで動いていたのに。嘘を塗り固めてパリに行こうとしていたのを、その時初めて知った。

それから祖母の邪魔これだけ苦労して得たパリの舞台だったのに、身内に阻まれるとは。嘘で塗り固められた明子のストーリーは、どこをどう修正したら良いのか?聞けば聞くほど混乱してきて、もはや誤解を解くような段階を遥か遠く、手のつけようもなかった。踊りをしている祖母の強烈な性格も、周辺の人の顰蹙を買っていたし、頭を抱えて事が静まるのを待つしか方法がなかった。祖母からは、着物も出してもらえず、費用も色々な人のカンパで行こうとしていた。強烈な祖母を出し抜いて、本当にパリの舞台は大丈夫なのだろうか?ただ、救いは明子の母方の祖母の協力が得られたこと。表千家のお茶の師範をしている方で、で、パリに行くまであまり熱心でなかった孫に必死で茶の作法を厳しく教えてくれた。ワビサビゾーンで踊らせて頂くには、お茶のセレモニーをすることが条件だったから。祖母は手作りの籠にお茶の道具をセットし、抹茶とお干菓子を用意し、孫の渡航の手助けをしてくれた。多分日本舞踊をしている祖母の方も話せばわかる筈なのだが、いくら言っても明子は逃げてばかりで、本当の話をしようとしなかった。よほど怖いらしい。一緒に動いていてわかったことは、この祖母が衣装もメイクも着付けも全部していたから舞台はできたのだと。なのに、一人でパリに行って、舞台に立てる支度はできるのだろうか?祖母がしていたことを和子に求めているのではないのだろうか?化粧も、しない方が可愛いと思うのだが、やり過ぎて滑稽なことの方が多い。dvdは、薄化粧にしたから、まだいい。それでも、プロに見せたら、着付けがなっていないと言われた。あの時には、祖母がついていたのに。まるで日本の代表みたいな顔をして、いい加減なことをやって叱られたりはしないのだろうか?日本舞踊や詩吟などのスキルを活かした、全く新しい舞踊だと位置づけて、逃げようか?などと、最近はクレームや思いも寄らない叱責を受けて、前向きな発想ができなくなっている気がする。破天荒なのはいい。驚くような突飛な行動も笑えているうちはいい。母親のようだと甘えて頼ってきたのも、和子をタダで使うための芝居だったと思うと情けなくなって、ここまで来たのに力が入らない。あちこちに出没して、様々な人の好意を利用して、本性がバレたら、とっとと逃げる。そして、二度と姿を見せない。そんな状況に何度も出くわしていたので、明子のことを信じられなくなっていた。祖母も、そうやって何度も騙され、それでも可愛い孫なので放ることもできずに、つい期待してしまうのだろう。

明子は、今までの経験でしたいことは嘘をついて、その場しのぎでやり過ごす。それが、彼女の成功パターン。話をしたら、まず邪魔をされる。それは、家族の長い歴史の中で育まれたもので、他人は入れない。あれこれ安易にアドバイスできるものではなさそうだった。和子のことも、事実と異なる様々な嘘で、祖母が一体何を言ってるのか?随分前から、理解できなくなっていた。ただ「ガンの末期の母親が大変な時に海外に連れ出すなんて、非常識な」と騒いでいた。しかし、母親を卑下していた明子は、「たとえ日本にいたって病院に行かない」と言っていたのをなだめすかしてお見舞いに行かせたことがあるくらいだ。多分、日本にいてもお見舞いどころか葬式があっても行きそうにもない感じだった。家族とは、他人にはわからない、それぞれ深い闇を持っているのだろう。自分の尺度で簡単にアドバイスするべきではないし、明子くらい破天荒で家族の汚点とでも言いたそうだった家族親戚の人の言葉を聞いても、どんどん絶望してしまいそうなのを感じていた。


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