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第30章 金冠月蝕の日の奇跡

5月の中旬パリのジャパンエキスポの担当者とアポが取れたので、和子と明子の2人は夜行バスで東京に向かった。早朝6時過ぎに着いて吉野家のモーニングを食べ、外に出たらみんな空を見上げていた。下敷のようなスライド越しに見ていたのが金環日食だった。何か奇跡が起こる予感。ところが担当者から急に東北への出張で会えないと連絡が入っていた。和子は落胆したが、ここまできたのだから黙って引き下がるわけにはいかない。長い嘆願にも似たメールを送った。誰でもいいから内容を説明してくれる人を紹介してほしいと。ダメもとで、こちらの事情も訴えた。そしてすぐ出来るだけ多くの方と会うために、紹介してもらった人のメールに片っ端から電話とメールをしてアポを取りまくった。スケジュールはいっぱい。何かを掴まなければ来た甲斐がない。1件目の訪問を終えた時、1時からなら時間が取れる担当者がいると連絡が入っていた。他の予定を入れてしまっていたがメインの要件を優先して、もともとの予定は時間をずらせてもらった。住所を頼りに行きついたら、「お茶のセレモニーもしてくれるなら日本舞踊の舞台を用意します」と。フェフェイスブックを読んでくれていたので話が早かった。何年かぶりに仕事をしてみて環境の変化に舌を巻く。会わなくてもネットを検索し、会った時には仕事がほぼ決まっている。

しかしネットで何でも検索できるのか?と言うと、そうでもない。

なかなか欲しい情報にはたどり着けない。やはり、キーマンに情報を聞く方が、鮮度のある有益な情報を得ることができる。担当者を見つけたら世界が一気に広がった。

舞台は、こうして決まったが、和子と明子の2人では、とてもパリまで行けそうにない。和子は目が不自由だし、明子はツアーでしか海外に行ったことがない。英語もできないし、一般常識も飽きれるくらいない。伝統芸能の世界にいる人は、世間離れをしていて、それを面白がっている間はいいのだけれど、ビジネスやお金が絡むと面倒くさい人種だと何年か世話をしていて痛感していた。



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