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第23章 破天荒な先輩をプロデュースして

松尾宿子供歌舞伎の先輩たちが集まる同窓会で、初めて出会った明子は綺麗に和服を着こなしていて、大和なでしこのようだった。娘たちが入塾した時には、すでに卒塾していて会ったことがなかった。ただ、次女が【蔵前】のお染役で人形ぶりをすることになり、先輩のビデオを見せてもらったのだが、その時のお染役をやっていたのが明子だった。踊りも上手で素顔も可愛かった。歌舞伎の化粧映えがする子は、現代的な目の大きな子よりも一重の切れ長の目の方が映える。明子の祖母が、小さな踊りの流派を立ち上げていて、明子は、そのお手伝いをしていた。祖母は明子を師弟関係にある女性のところに入門させて、名取りにもなっている。しかし、お稽古も1か月に1回で時間も少ない。それでもメゲずに卒業した大学の日本舞踊部の先生に頼んで、お稽古をつけてもらったり、芸を磨くのには余念がない。和子も、伝統文化や伝統芸能のしきたりなどは知らない。松尾塾に在塾していた頃は、お金のかかるつき和いは塾長が請け負ってくれていたからだ。なので、卒塾した子が、その世界に羽ばたくと、「お行儀が悪い」と言われるようだ。何につけても、お礼や先生の交通費まで出さなければならない流派もあるようだ。一般家庭で、松尾塾と縁があって習い続けたいと思っても破格値なので続けられないのが実情だ。明子のように、好きで好きで踊りを学ぶためには流派も関係ないと動ける人はなかなかいない。まず、師匠が許すわけがない。それでも、若くてそこそこ踊れる子がいないので、厳しい祖母も師匠も許すしかない。

若くて綺麗で、踊りにもキレがある。しかし、やってはいけない事ばかりをするので、お小言を言うのだが聞いてはいない。したいことは、誰が邪魔をしても絶対にやる。出会った頃は、それが頼もしいとも、凄いとも思って感心したものだった。若いので、メールを駆使して、どんどん依頼が増えてくる。「できることはするけれど、仕事じゃあないので費用のかかることは無理。付き合えない」と言ってあったが和歌山で踊りを披露しているらしく、いきなりメールで問い合わせが来る。「今、近くに和歌山の県知事や議員の方がいるんですが。何て言って喋りかけたらいいですか?」と。明子は決まったセリフなら上手に言えるのだが、自分で考えて話すと、何を言っているのかわからない。それを指摘したものだから、事ある毎に、こんなメールをしてくるようになったのだ。「自分の自己紹介をして、日本の美しさを舞踊で届けたいと精進しているので、何かそのようなイベントがあれば馳せ参じるので使ってください」と言うセリフをメールしてあげる。すると、上手くいくものだから、その後も家にいきなり来て、フェイスブックを作る手伝いをさせられる。文章を書くのは好きなものだから、つい力を貸してしまう。

視野は狭くなっていたけれど、携帯電話の文字入力ならば自由に書くことが出来た。見えにくいけれど、写真もセレクトすることが出来た。明子はとにかく何事もスピーディなので気持ちがいい。破天荒な性格も面白かった。和子のプレゼンテーション能力を知ってから、よく色々な人と会う時に連れて行かれた。あまり深く考えないで、カンだけで動くので、振り回されるようになった。

急に電話があって「今、マンションの下にいるんだけど、音楽を作るのにできる友達を呼んでいるので付き合ってもらいたいんです。」と言う。「時間が遅いので出かけられない」と断っても「帰りも、家まで車で送るので、お願いします。」とYESが取れるまで引き下がらない。そして、嫌々同行して、その友人とカラオケボックスで音源を取ろうとするのだが、何時間経っても曲は出来ない。その上、曲を作るために必要な機材のお金をワリカンにしようとする。カラオケのお金も出す予定がなかったのに、お願いされて無理矢理連れて来られて、関係のない備品の費用を出さされるなんて理不尽だと怒った。やっているうちに、どちらが依頼したのかが、わからなくなるタイプらしい。何度も、こんなことがあった。明子の友人たちは若くて何かしら明子に興味を持っているので、無料で手伝ってくれる。しかし、プロではないので、何度会っても時間を使っても出来上がらない。アマチュアとプロの違いはそこにある。

お金を貰えるようになりたいなら、プロを目指さなければならない。趣味で【踊りの会】を仲間内でやっているなら、師匠も舞踊界の重鎮も文句は言わないかも知れないが。表に出て来て、レベルの低いことをしていたら、師匠が恥をかく。自由奔放に、好きなことを自由にやっているように見えるので、その辺はちゃんと理解してもらっているものだと思っていた。しかし、和子の人脈を生かして、講師の仕事を作ってあげたのだが、その案内が新聞に掲載された途端「詩吟の師匠が、勝手に新聞に掲載して怒って陳謝を求めている。」と連絡があった。「何故、謝りに行かなければならないわけ?無料で広報してくれたのだから、お礼をするならわかるけど。」と返事をしても「使うなら、師匠に挨拶があるべきだと怒っている。」と言って、「新聞社の人と一緒に来て欲しい」と言って聞かない。「私は、あなたがスクールの先生の仕事をしたいと言うから、紹介しただけで、師匠との話し合いには関係ない。それは、あなたと師匠の問題でしょう?」と叱る。マネージャーでも何でもないんだから、いちいち師匠に断わりを入れて使わなければならないなんて、面倒過ぎる。その上、振り付けなどの、知的財産などを言うようなら、オリジナルの振り付けで仕事をするくらいの臨機応変が出来なかったのか?この要領の加減さが、ビジネスラインに乗せられない要因だと思った。至れり尽くせりすると、甘えるので、放置する。こちらも紹介しただけで、中間マージンひとつ取っていない。むしろ、ボランティアで、移動費まで自費負担。しかし頼まれると、つい、やってしまう。やればやるほど、リスクを受け持たされるというのは納得がいかない。

それでも、見た目がいいのか、男性たちが集まり甘やかす。ボランティアでも、明子と一緒にいたい男子がいるよううで、アッシー君もメッシー君も後を絶たない。写真のモデルもやっているらしく、イベントの時は遠路遥々カメラを持って来てくれる。mixiやフェイスブックで次々に色々な人と繋がっている。ある時、フェイスブックが使えないと言ってきた。理由を聞くと、知らない人にアクセスし過ぎて、警告が来て何日か使えないのだとか。和子も、知らなかったが、明子のことだ。多分、片っ端から友達申請したのだろう。和子が紹介した人は、返って危ないと思って友達から抜けていた。SNSなど無い時代に仕事をしていたので、ネット内で何が起こっているのか?全然理解できなかった。ただ、この情報を求めている人の所には、届きやすいこと。そして、売り出す手伝いをすると決めた時に、ビジネスシーンにSNSが必要不可欠となっていることを知った。とんだ浦島太郎だ。

若い世代と仕事を組む意味を、痛感しながら明子のプロデュースは、新たな扉を開くこととなった。



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