第22章 シャーマンが教えてくれたこと
娘の本意を知ることができたのは、信じられないかも知れないけれど多くの人々の命も救っていたシャーマン、川本ルリ子先生のおかげだった。実を言うと、和子は精神世界系の方方に救われていた。目が見えなくなる病気だと知って、多くの人が出会わせてくれたからだ。新興宗教のように思われがちだが、救われ奇跡を見せられた者にとっては神以上の存在になる。結婚する前にも貴島先生という「宇宙エネルギーのパルボアアンテナみたいなもの」と本人が言うが、様々な病気や悩みから人々を救っていた。最初はオペラ歌手で音大の教授の安則先生が顔面神経痛になって、歌が歌えなくなった時、貴島先生によって、たった5回の治療で治してもらったことから口コミで広がった。あれから40年、目の進行を抑えてくれていたから、失明まで随分長かったのかも知れないと思っている。他にも、奇跡を起こすという人々に会い、様々なパワーを頂け不思議な世界を体験できたのは目の病気のおかげかも知れない。医療や化学では解明できない不思議な世界を目の当たりにしてきた。でも、和子の目は悪化していたし、それはカルマのようなものだと諦めてもいた。だから、川本先生との出会いは、目に奇跡を起こすかもしれないと紹介して下さった知人には悪いけれど、和子の悩みは他に合って、子供の未来も切実な問題だった。子育てに悩んでいた友人が子供の大学選びの時に先生の霊力に頼って良い成果を上げていた。それならばと、歌舞伎役者に憧れても女性に生まれてなれない次女の行く末をご先祖様に聞いてもらったのだ。
大学は国語の先生になるために、絞っていた。「志望の3校の中で、どこに行ったら才能を輝かせることが出来ますか?」と聞いたら、いきなり神がかられて、「娘よ。舞台に立ちなさい」と言われた。聞くと、次女には小家主のような男性がついていて、舞台に立てば精一杯の力を貸すと言っているのだと。「前世は歌舞伎役者で、ママがその大ファンだったみたい。だから、ママのところに産まれて来たら、また歌舞伎が出来ると思って来たのね。」と言われた。大学進学の話など、吹っ飛んでしまった。その話が、根拠のない作り話と笑えないのは、2人とも心あたりがあるからだ。和子は頑張っている娘をどうにかしてあげたかった。しかし、日本舞踊を習わせてあげれる金銭的な余裕がなかった。情報を色々調べたが、娘がやりたいのは歌舞伎。歌舞伎の踊りは、日本舞踊とも少し違う。お座敷芸の舞踊とも違う。大きな舞台で踊らなければならないので、所作も大きく、見栄えがするのが特徴。特に、次女の憧れの【連獅子】などは、毛振りがあるので、体力もいる。【道成寺】の着物は片方の振袖だけで10キロあるという。アクロバティックな踊りは、むしろアスリートの粋だ。1か月毎日2回の公演をこなしている歌舞伎役者の精神力と体力は、とても女性がこなせるものではない。あの猿之助も、スーパー歌舞伎で宙吊や早替りなどの見せ場で観客を沸かせたが、毎日やるのだから、タイミングひとつで大変な事故になる。歌舞伎役者の体は、ケガや骨折で、気力だけで立っている人もいるくらいボロボロ。ギックリ腰で動けないはずなのに、「舞台に穴を空けるくらいなら死んだ方がまし」などと無理して動くものだから取り返しのきかないことになるようだ。男だけの世界なので、イジメや嫌がらせも凄いらしい。そんな過酷な環境下でも、大部屋で決して主役は出来なくとも歌舞伎の舞台に立ち続ける人たちがいる。そこで、身につけた歌舞伎を地方で教え、地道に歌舞伎の復興に貢献している人がいる。松竹に入り、毎日大歌舞伎に出ている人でも充分なギャランティをもらえるわけでもない。出演している人より、裏方の方が多いというのも理由のひとつ。2万円近くするチケット代でも賄えない。ニューヨークやフランスでの公演も超満員なのに赤字なのは、舞台にお金が掛かるためだ。この事業に、果敢に取り組んでいる松竹は凄いと思う。亀次郎や染五郎などの若手が、新しい試みをしてファン層を広げたが。勘三郎などのスターが消え、国宝や実力のある方々も老齢化して、引き継ぐ人も、観客も減っている。歌舞伎など、見たことのない若者が大半。そんな業界に憧れる女性に、どんな道があるのだろうか?方法を色々模索した。




