第1話「神谷蓮の契約書①」
-プロローグ-
煤けた古書が山積みされた書斎の一角。
少女は背伸びをして、高く積まれた本に置かれている黒革の手帳を取り出した。
表紙にはタイトルすらなかった。
少女は埃を険しい顔で払い、嫌々手帳を開いた。
「何これ、ボロボロだし滲んでて読みづらい」
ページを開いた瞬間、空気が変わった。
書斎の静寂がひび割れ、冷たい風がどこからともなく吹き抜けた。
眼前に、記憶も感情も運命も霞む一人の若者の「記録」が浮かび上がってきた。
第1話「神谷蓮の契約書①」
「いらっしゃいませ」
黒髪のエクステ、不揃いなピアス、無精髭。
しわが付いた制服に、青のカラコン。
26歳、名前は神谷蓮、夜勤コンビニ店員でありながら、夢を追っている。
昼に起き、夜に働き、帰宅後はギターを抱え動画投稿、生放送を重ねる日常。
バンド活動歴は8年、登録者は2000人ほどであるが再生数は一桁から数百。
バンドのライブには2、3人の観客がぼちぼち見に来るが知り合いである。
「くっだらねぇ……」
薄暗い帰路、自らの靴を見る蓮。
泥に染まったボロスニーカーを見つめながら呟く。
「いつまでこんなこと続けるんだよ。……売れてぇよ……金持ちになって、女と遊んで、名声を全身に浴びて……全部、手に入れてぇ……」
追い詰められる孤独と絶望。
家族からは音楽をやめろと迫られ、バンド仲間には裏切られる。
だが、ギターとマイクの前では唯一、自分でいられる。
その瞬間だった。
「――契約書にサインを。夢はすぐに叶います」
奇妙な路地裏。街灯も少ない朽ちた空間に、ひとりの男が立っていた。黒いスーツ。顔は影に飲まれ、表情は見えない。
「は? お前、宗教勧誘か?」
男は微動だにせず、差し出された手には一枚の紙。
それが、契約書だった。
「夢を叶えたいのなら、正直に書きなさい。ただし、代償があります――ほんの少し、大切なものを」
蓮は笑った。
カモにされていると思ったはずなのに。
「何言ってんだよおっさん」
青年は契約書を荒々しく突き返した。
一瞬真顔になったが元の険しい表情に戻り捨て台詞を吐いて青年は帰宅する。
帰宅後いつもの生配信を開始し、生配信の切り抜き動画も青年が作成していた。
みな寝静まった深い夜、静寂の中タイピングの音だけが聞こえる
「これで今日もアイーチューブに動画up完了。明日も夜勤あるし寝るか」
「今日の生配信も同接20人、ここ最近はなかなか人が集まらないな。しかも配信中に歌もギターも下手だの、うるさいだの、どうせAIで曲作ってるとか言われるし散々だわ」
青年の脳裏に帰路の出来事がよぎった。
「契約書,,,あれが本当だったら。いやいや何を考えてんだよ俺は。紙切れ一枚にサインしただけで売れるなら俺より才能無い奴がゴロゴロ売れてるだろうが。くだらんこと考えてないで早く寝よ。」
次の日、スマートフォンのアラームがけたたましく鳴る
外はもう日が落ちようとしていた
「あれ,,,今何時」
「やば!遅刻しそう!」
青年はシャワーも浴びずに制服をの上からパーカーを着て即座に家を飛び出した。
「これなら間に合うか?スマホ忘れたから時間が分からん」
熱帯夜のもわっとした空気の中、青年は走っていた。
脇に路地裏が見えるところで青年は故意であるかのように走るのをやめた。
「ふう、だいぶ走ったし、ちょっと休憩。あそこ宗教勧誘されたところだ。さすがにあのおっさんはいねぇよな...」
青年は淡い期待を抱いていたが路地裏を通り超そうとした時
「――契約書にサインを。夢はすぐに叶います」
青年は急いでるのにも関わらず、すぐに声の聞こえた方角へ振り向いた。
ひとりの男が立っていた。黒いスーツ。顔は影に飲まれ、表情は見えない。
青年は何かにとり憑かれたように喰いついた
「売れるなら宗教でも占いでも何でもサインしてやるよ!」
昨夜とは打って変わってペンを取りささっとサインをする
「急いでるからじゃあなおっさん!騙したら殴りに行くからな!」
「ご契約ありがとうございます」
黒いスーツの男は不敵な笑みを見せていた。
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書き溜めはしてないので投稿頻度には期待に応えられないです...