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その名は『ストアマネージャー』

結論から言おう。

シャクテンでの調味料の流通は大成功だった……

 メリッサとブロンソンの店での販売は好評で宿とは別に食堂専用のスタッフを雇用することになった。

アンジェリカとリリシーが口コミを広めた事もあるが、エリックとキャサリンが至る所で話を広げてくれたらしい。

 お陰で翌日は朝から長蛇の列で宿の経営に支障をきたすレベルだった。

むしろ、メリッサとブロンソンの宿以外にも近隣の店に迷惑をかけてしまっている…


 なので、アンジェリカと相談して、調味料の流通を始めると同時にリカの作ったレシピを商業ギルドで格安で販売することにした。

それにより、周囲の飲食店でも、同様の味付けの食品が店頭に並ぶようになり、徐々に混雑は緩和されていった.


 今では、ブロンソンがリカの一番弟子となり、様々な料理に挑戦している…もともと料理を作ることが好きだった彼はメキメキと実力をつけており『本家』の店の看板を背負って立つにふさわしい料理人となっていた。


 レシピを公開していないシュガードーナツとオムレツは、類似品が出回ってはいるが、まだ味の再現には至っていないらしい。






「今はこの二つの商品がこの店の看板メニューですが、その優位性が失われるのも時間の問題でしょう…エリックさんの店がだいぶ再現度が高くなっていました」

「エリックか……あいつならば納得だ」


 そう言って、ゴンザレスさんは嬉しそうに笑った。

聞けば、2人は幼なじみで、昔から何かにかけて競いやってきたライバルのような存在だったらしい

青春だなぁ


「なので、そろそろ次の段階に入りたいと思います」


 今、この場にいるのは、ハルトとリカ、メリッサとゴンザレス、先日フロアリーダーに昇格したメリーと新たにハルトが雇用した部下の三姉妹のが居た。

赤い髪のアカメ、青い髪のアオリ、黄色い髪のキーラのシグナル家の三姉妹である。

この三人は先日、ハルトがギルドで就活をしていた三人に偶然出会ってのがきっかけでハルトが雇用する事にした。

 三人娘を雇用した事で食堂の運営が捗り、メリッサは本業である宿の方をメインで動く事が出来る様になり、宿泊客だけの特別メニューやルームサービスなどを活用した新たな取り組みが大成功を収めており、宿のスタッフも先日、新たに新人を雇用したばかりだった。


「今度は何をしようとしておるんじゃ?」

 

 ハルトの正面には、もぐもぐとシュガードーナツを食べるアンジェリカとリリシーの姿もあった……まぁギルド長を巻き込んだほうが話が早いからね。



「アンジェ?何かアンタこの前より太ってない?」

「!!なっ、何を馬鹿なっ!どこから見ても完璧なワシのこのグラマラスボディに問題などあるはずがなかろうが!」

「…つるぺたの間違いでしょ?」  

「ぐぬぬ?!おい、リカ!貴様こそまた大きくなってるんじゃないか!!」

「ちょっと!アンジェどこを触ってるのよ!』

「くそっ!ハルトか?ハルトの仕業なのか?!」

「真面目な会議の途中なので止めてもらえませんかね?!」


 周囲の人間から生暖かい視線を向けられる……

君達も人の身体的特徴をあれこれ言うのは良くないと思います…えーそうですよ!俺のせいですよ!!


「おほん…話を戻します」

「照れてるな」

「照れてるわね」

「昨夜もお楽しみだったにゃ」

「あうっ……」


本日も皆んな仲良しだった。





「気を取り直して……新しくモーニングのメニューを始めます……『サンドイッチ』です」

「サンド…?聞いたことが無い名前だな」


 とりあえず試作品をみんなの前に取り出す。


「コレは…パンを使って野菜を挟んでいるのか?!」

「ふむ…女性に人気が出そうだな」

「…野菜とソースのバランスが絶妙ですね〜」

「おかわりにゃ!!」


 概ね好印象だ…メリーさんもっと味わって食べろよ……

切り落としたパンの耳は格安のシュガードーナツとして利用できるのでお得だ。


「コレは店のメニューに追加は勿論…テイクアウトする事も可能です」

「テイクアウト?」

「購入して持ち帰って貰うんだよ」


 この世界にはお惣菜屋もコンビニも無い…

食材を買って帰り自宅で作るか、食堂で食べるかである。


「成程…この紙で包んで販売するのか?…」

「ええ…でもこの紙が今後、道に散乱するゴミになる事だけは阻止しなければなりません……なのでこの用紙は枚数を集めると商品と交換出来る様にします」


 スーパーダイコクではトレーやペットボトルなどの様々なリサイクル活動にも力を入れてましたので……


「!!考えたな!素晴らしいではないか…」


 アンジェリカ様からお褒めの言葉を頂いた……口の横にソースがついて無ければ頼もしい限りなのだが……


「…目玉はこちらです……リカ」

「はい…こちらをどうぞ……スプーンで食べてくださいね」


 全員の前の前に置かれたのは、小さなカップに入ったプリンであった。


「なんだコレは……弾力があるな……スライムか?」

「何かしら…色からして卵を使ってると思うんだけど……!!!」

「なんじゃ…ドーナツじゃないのか……?!?!!!」


 スプーンで掬って口に入れた瞬間、全員が再び固まった。

メリッサなどは涙を流していた。

コレもリカがこちらの世界の原料から作り出したプリンだった。


「…戦争じゃ!戦争が起きるぞ!」

「アンジェ…大袈裟だなぁ…冗談でもそんなことを言うもんじゃないぞ?」

「お前は自分がどれだけのものを生み出しているか理解しておるのか?」


 事実、既にアンジェリカの元には領主を始めとする近隣の有力、貴族や地方都市のギルドから問い合わせが殺到している。

 一番最初に相談された身として自分の持てる全てで守ってやろうとは思っているのだが…王都にまでこの話が伝わるのは時間の問題である……王族に対して自分がどこまでハルト達を守ることが出来るか……


「まぁ……アンジェには格段に世話になっているからね…特別にこれをあげるよ」

「……お前、ワシに食べ物を与えておけば、ちょろいとか思ってるんじゃないぞ?全くこれだから男は……うきゅうぅぅ!!」


 目の前に置かれたひと口、サイズのサンドイッチを口に含んだアンジェリカは、謎の奇声を上げて幸せそうな顔で昇天した。


「え?どうしたのですか?アンジェリカ様」

「あーこの破壊力は凄いからね…食べてみたらわかるよ」


 リカに勧められた女性陣も次々と同様の状態に陥った。


「これはジャムか?」

「正解…中に挟む物次第では立派なスイーツになるからね」


 実際、この食パンの製造ができるのは、今のところゴンザレスの厨房のみである……ハルトの能力でベーカリーコーナーで使用しているパン生地を召喚し、リカの能力でこちらの世界でも酵母やイースト菌の再現に成功したものである。

サンドイッチに関しては、しばらくはレシピを公表する気がないので、コレも強力な武器になるだろう。


「しばらくはここのメニューとして売り出して……ゆくゆくは屋台とかでも……」

「待ってくれハルト…お前個人で店を立ち上げろ」

「え?」


 突然、ゴンザレスがそんな提案をしてきた。


「お前にはいろいろ世話になった…調味料もそうだが、リカのレシピも本来であれば、とんでもなく価値があるものだ…それにこれ以上お前に頼る事は俺のプライドが許さねぇ」

「…ゴンザレスさん…」

「だから、お前が個人の店として立ち上がれば…俺とお前の取引は対等な契約だ…会ってまだ数日だが、お前の真面目な性格はわかってるつもりだ……だからお前とは常に成立に対等でありたい…これは俺の我儘なんだ」


 ハルトは今までのように目の前にある仕事を闇雲にただやっているだけだった……どこまでも社畜根性の抜けないハルトにとって、初めて自分のことを認めてもらえた気がした。


「わかりました。ゴンザレスさん…僕は店を立ち上げて、貴方と対等な商売がしたいです」

「よし、そういうことなら話が早い…このままここで手続きをしてしまおう」



 それを聞いていたアンジェリカが収納の中から契約書を取り出し手続きを始めることを提案した。  

さすがに仕事が早い。その口の横にジャムがついていなければ尊敬できるのに…






 手続きは簡単に終わり、商会の名前で悩んだが、馴染みのある『ダイコク』にした。


「よし、申請は完了だ…コレで今からお前は『ダイコク商会』の会長じゃ!様々な利権や義務はリリシーから聞いておくれ」

「こちらは、ゴンザレスさんとの契約書になります『原料の購入は『商談』…レシピの使用については、売り上げの2割を『ダイコク商会』に月末締めでの支払い…新規契約については、代表同士の交渉により決定し、ギルドへの登録となります」

「問題ありません…ゴンザレスさんこれでどうですか?」

「…ハルトの取り分が少ないんじゃないのか?…」

「まぁ確かに通常であれば3割から4割が妥当なところだからな…お前は本当にお人好しじゃのぅ……」

「お金を儲けたいわけではないので……それにゴンザレスさん達にはよくしてもらいましたから…今後も良い関係が続けられたらと思います」

「ハルトくん…ありがとう…貴方には感謝しかないわね……ついでにうちの娘も貰ってくれないかしら?」

「……メリッサさん…ダメです」


 メリッサの冗談にリカが氷点下の視線で返した……

冗談だよね?









冗談を終えて部屋に戻るとベットに倒れ込んだ……


「あぁ…こんな時間に休憩できるなんて……」


 あの後、手伝おうとしたのだが厨房は既にリカの管轄でありやる事は既に無かった。


『ハルトさんは働きすぎなんですからちょっと休憩してください』


 そんなことを言われて、追い出されてしまったのだ。

今はそんな気遣いに感謝しながらも、部屋で休憩することにした。


「…ならせめて…理科の好きなスイーツでも召喚してみようかな……召喚『例のメーカーの高めのアイスクリーム抹茶味』」


 その瞬間、ハルトの脳内にアナウンスが流れた。


『スキル使用者の新たな権限の発生を確認しました…役職情報を確認中……異世界間での認識齟齬発生中、緊急措置の実行を推奨』


「?んん…何かトラブルかな…?困ったぞ?スキルなんて詳しくないし……サポートセンターでもあれば別だけど……」


『はいはーい!アリステラちゃんですよー!どうしました?ハルトさん』

「えぇ?!女神様?!なんで?!」


 突然ハルトの脳内に女神アリステラの声が響いた。


『ん?何かお困りでしたよね?』

「ええ…先程スキルを使用したらアナウンスが流れて…何かトラブルみたいです」

『なるほど、なるほど……少々お待ちくださいね〜』


 すると頭の中に保留中によく流れる音楽が聞こえてきた……芸の細かさに思わず吹き出してしまうハルトだった。






『どうなってるのかしら?…『異世界間の役職情報の齟齬?』あー日本では副店長だったのがイシュトリアでは商会長だからかぁ……?あれ?日本でも『ストアマネージャー(店長)』の扱いになってる???んん??『賢者』の方は隠蔽中だから影響していないから大丈夫よね?』


 色々と複雑な状況に頭を悩ませるアリステラ……


『日本で副店長…こちらでは社長…おそらくこの役職の境界が障害なのよね……せめてハルトさんが店長だったら『個店のトップ』扱いで認識させられるのに!!』


 頭を掻きむしるアリステラの元に新たなポップアップが表示されてる……


『役職改定を確認、『ダイコク北新町店店長』と『ダイコク商会会長』を『個店代表』としての緩和認識により統合します』

『?!?!何事?!スキルが進化…?どうなってるの?!』









その頃、日本ではスーパーダイコク本社にて緊急の会議が開催されていた。


『…事故現場より生中継でお知らせいたします…依然として崩落の危険性があるため、救助活動は難航しております…

救助活動の際に崩落に巻き込まれたと見られる隣のスーパー『ダイコク新北町店』の佐々木晴人店長と従業員の山野梨花さんの安否は依然とわかっておらず、親しい人たちの無事を祈る声が毎日寄せられております…』

「あの店長さんはすごくいい人でね…私たちも会いに行くのが楽しみだったんです」

「あの店長さんにはいつもよくしてもらっていたからどうか無事見つかって欲しいねぇ」


「これはどういうことなのかしら??」


 事件の報道番組の流れているテレビの電源を切ると、その女性は椅子をこちらに向けた

メガネの似合う、知的な美人さんである。


「我々も困惑しておりますが、今、事実確認を……」

「事実も、何も佐々木晴人さんは副店長ですよね?私の手元にある資料ではそのようになっています」

「はい……」

「しかし、北新町店の従業員やお客様からは店長と呼ばれているのよ…本当の店長は何してるの?」

「そ、それが…」


 会社の重役である人たちもタジタジである…この女性は、現在の大黒取締役社長である『大黒 皐月(だいこく さつき)』である。


「言いにくいのなら、私が言ってあげましょう…」


 そう言うと、皐月は机の引き出しから一冊のファイルを取り出した…タイトルは『ダイコク新北町店 店長 「大黒 宗次郎(だいこく そうじろう)」についての調査結果』である。


「当日は体調不良で休むと連絡があったそうね…でも、それは真っ赤な嘘!取引先の担当の人達と朝まで飲みふけっていたらしいわね…しかもその飲み代を会社の経費で請求しようとするとか……頭沸いてるんじゃないの?!過去の経費についても調査が必要ですね!」

「…は、はい」

「さらには遅刻は当たり前、無断欠勤も数回、その代わりを全て副店長である佐々木さんがオペレーションを代行していたのよね?しかもその労働時間を改善!会議や報告書等もほとんど佐々木さん!なのに営業成績が自分の手柄とか……貴方達は一体何を見ていたの?」

「!!申し訳…!!」

「はぁ…アレでも叔父上も大黒の一族だものね…貴方達が強く言えないのも理解できるわ……でもね、これはないでしょう!!」


 叩きつけた机のファイルの上には、1枚の写真が添付されていた。

地震が発生した当日、宗次郎は晴人に電話をした後、女性を伴ってホテル街へと姿を消した……店が災害に見舞われている間も連絡がつかず所在が確認取れたのは全てが終わった後であった。

おまけにその女性は、ライバル会社の重役の奥さんだったりする。


「懲戒免職よ!ついでに従業員への日常的なハラスメント!社会的な倫理違反!店舗の機密事項の漏洩疑惑!その他横領疑惑!社会的にも、個人的にも徹底的に追い込んで抹殺してやるわ!!よりによってハル君を!!!」


 皐月が手にしていた分厚いファイルがギチギチと音を立てて破れた……

それを見ていた重役達から『嘘だろ?!』と驚きの声が上がった。


「…まずは人事部!今月の1日まで遡り佐々木晴人さんを店長への昇進とする人事異動を発令します」

「はいっ!」

「大黒宗次郎は先ほど述べた理由により同じく今月の1日より保留対象とし、事故前日をもって懲戒解雇!今から警察に被害届を出します…叔母様には弁護士を手配して進めていた離婚の処理を…損害賠償の請求は大黒宗次郎本人にのみ行い、血縁関係のある家族には行いません……それとアレを店長に推薦した役員達にも責任を取って貰います」

「ま、待ってくれ!皐月ちゃん!私は…」

「あぁ?馴れ馴れしく名前を呼ぶな!私が社長就任前からアレはダメだと警告していただろう?それを役職の力でゴリ押ししたのはお前達だろう?!大黒の名に誇りを持っているなら責任を取れ!佐々木店長を見習え!!彼の方がよほど大黒の名に相応しい存在ではないか?!」

「!!…うう…」


 数人の役員が項垂れた……


「会議は終わりだ!お前達の処分は追って伝える!今はやるべき事をやれ!!」


 役員を追い出すと皐月は椅子に深く腰掛けた。


「お疲れ様です社長……」

「葉月……」


 皐月の横からお茶を差し出したのは彼女の秘書であり実の妹である『大黒 葉月(だいこく はづき)』である。

先程までの鬼の様な気迫は薄れて涙目になって葉月にしがみついた。


「う〜もう社長なんてやだぁ〜!!」

「はいはい…そんなこと言わないで?さっちゃんはよく頑張ってるわ」

「うぅ〜はーちゃん……」


 姉の皐月が苛烈な性格なら葉月はおっとりとした温和な性格だった……むしろ今の姿を見れば姉妹の立場が逆転しているとしか思えない。


「しかもハルくんが……ぐすっ」

「あらあら…さっちゃん泣かないで…」


 二人は先代社長の娘の為、晴人とも面識があった。

父が初めて彼を家に連れてきた時には隠し子を疑ってお母様が慌てたのは良い思い出だ。


「もうすぐハルくんの店に臨店する予定だったのに……」

「…さっちゃん…ハルくんの店に臨店しすぎよ?毎月行ってるじゃない」

「だって…お父様が亡くなってハルくんと会う機会が減ったんだから私が会いに行くしかないじゃないか!」

「…社長が来るからプレッシャーしかないわよ?」

「うう…もうやだあ〜」

「困ったわね…」


 皐月は有能な経営者である一方で重度の晴人愛好家であった。

普段は北新町店のパートさん達のガードが硬い為、臨店として権力を使って会いに行くしか無かったのだ。


「…今のハルくんが困ってるかもしれないのに……こんな事しかしてあげられないなんで……」

「あら?さっちゃんのしてくれる事を喜ばない子だったかしら?ハルくんは……」

「ハルくんはそんな事ない!私があげるものならボールペンから使用済みのティッシュまで喜んで受け取ってくれるわ!!」

「……なら今回の事もきっと何か彼の役に立つはずよ」

「……うん……」


 落ち着きを取り戻した姉を見て葉月は安堵の溜息をつく……でもティッシュは受け取らないわね。

 あの事故から数日が経過しており……二人共理解しているのだ……

きっと彼等は助からないと……

それでも希望を捨てたくはなかった……今更店長にしたところで晴人が帰ってくるわけでもなし……

 これは父から教わった『感謝の気持ちを伝える』……それを忠実に行動した結果であった。




この事が異世界でのハルトのスキルに大きな影響を与える事を姉妹は知る術を知らない。










『えーと…ハルトくんお待たせ…』

「あ、女神様どうでしたか?」

『う、うん…いまアップデートしているから…少し時間がかかるかも……』

「そうなのですね…わかりましたありがとうございます」


 少し女神様の歯切れの悪い返答が気になった……やはり大変な作業だったのだろうか…


「女神様…お疲れ様です…お仕事大変そうですね…何か差し入れでもできればいいのですが……」

『ふぇ?!ええっ?!差し入れしてくれるの?』


 ハルトの目の前に突然銀色の郵便ポストのような扉が流れ。


『ここに入れてくれると私の所に届くからね』

「なるほど…では」


 ハルトはこんな時は甘いものだな……

と新作のフルーツサンドイッチとシュガードーナツ、なんとなく旗を立てたオムレツを入れておいた。


『ふわぁ!!こんなに!!ハルトくんありがとう!!』

「いえ…女神様にはお世話になってますから…」

『ありがとう!ハルトくん…一度食べてみたかったの!』

 女神様が元気が出たようなので、ホッとするハルトだった……


『また困ったことがあったら何時でも呼んでね!何時も見てるから!!』

「あははは…はーい……えっ?いつも?!」


 既に通信は途切れており確認する方法は無かった……気のせいだよね?





さて、『召喚。』はしばらく時間がかかりそうなのでどうしようかと思っていると、そのまま瞼が降りてきて、眠りについてしまった。

 知らず知らずのうちに、今までと同じ様なルーティーンで働いており、体が休息を欲していたのだろう……

その辺りをリカがちゃんと見てくれている事に喜びを感じながらもハルトは意識を手放した。







『最適化の完了まであと1分………スキル『賢者(隠蔽中)』より申請、最適化統合される『召喚。』スキルに『賢者(隠蔽中)』の統合を提案……受理されました、隠蔽効果は継続されます……統合開始……役職は競合せず……最適化が完了しました』

「?!んあ?……ああ……眠ってた………」


 ハルトは起き上がると『召喚。』の最適化が終了していることに気がついた。


「ああ…もう夕方か……さてと…リカにアイスクリームを用意しようか……召喚!『例のメーカーの高めのアイスクリーム抹茶味』」

『召喚を受諾 『カップ』『クリスピー』『大型パック』どれにいたしますか?』

「……ん?なんか流暢になってない?凄いなー女神様……」

『いいえこれは私『ダイコク』をより安全に、より最適に使用いただくためのインターフェースシステム『ストアマネージャー』ですマスター以後、お見知りおきを……』

「うえ?え?会話?!…はい、よろしくお願いします」

『はい、どのアイスクリームにしますか?』


 とりあえず 彼女がよく食べているカップを召喚し収納しておく……

それよりも確認しなくてはいけない事がある………



「……ステータス……」





ーーーーーー



佐々木 晴人ハルト


年齢 20


種族 人間

レベル 6

生命力 420/420

魔力 2899500/2900000

精神力 2800/2800

スキル 『言語翻訳』『病気耐性』 『収納。』

ギフトスキル 『召喚ダイコク。』『ストアマネージャー(召喚連動中)。』



ーーーーーー





「なんか増えとる!!」


 新たに現れたストアマネージャーに触れてみる。




『ストアマネージャー。』

召喚と連動するユーザインターフェイス4システム


・魔導思考体『----』を核とした時空連結思考体、

・『召喚。』により召喚した物品を管理する。

・契約した従業員 取引先の情報、状態の管理。

・帳簿の管理、資金運用、売り上げ予測、データ参照

・様々なサポートが可能


⚪︎取引先一覧

・アンジェリカ。

・ゴンザレス。


⚪︎契約者一覧


・山野 梨花リカ

・アカメ・シグナル。

・アオリ・シグナル。

・キーラ・シグナル。


------



 聞き慣れない単語が数多く並んでおり…何かとんでもないものではないかと連想させられてしまう……

とりあえずは契約者の欄にあるリカの名前をタップしてみる。




-------


山野 梨花リカ

(ハルトの恋人)

年齢 20

状態 健康

種族 人間

レベル 5

生命力 380/380

魔力 890/890

精神力 2500/2500

スキル 『言語翻訳』 『病気耐性』 『収納』 『清潔』 『消臭』

ギフトスキル 『料理。』『工作。』



『小春亭にて勤務中』

『ハルトが好き』

-------



「個人情報じゃんか!!…好きって…!!」


 残り人の部分を見ることが怖くてそこで諦めた。


「スキルって増えるの?いや、この場合『召喚』から派生したのかな?」


 どちらにせよ店舗運営には心強い能力だと思われる。

どちらにしても、今後も検証は必要だが……慎重に進めていかないととんでもないことになりそうな予感がある。


「ハルトさん?」


 控えめなノックの後にリカが顔を覗かせた。


「あぁ…リカ…お疲れ様」

「少し眠れたみたいだね…顔色良くなってる」

「…リカには敵わないなぁ」


 そんなリカの目の前にアイスクリームを取り出す。


「わぁ!」

「お疲れ様…リカこれ好きだったでしょ?」

「う、うん…」

「あれ?もしかして違ってた?」


 何か急に頬を赤くして、もじもじとし始めるリカを見て自信満々に出しておいて失敗したのかと焦るハルトだったが……


「これハルトさんがよく食べていたから…私も同じ物を食べてたら……好きになっちゃったの……」

「!!…そ、そうなんだ…」


 突然のリカのカミングアウトに、自分の顔も熱くなるのを感じるハルトだった。







「にゅふふ…今夜もお楽しみなのにゃ」


 ドアの隙間から中を伺っていたメリーがそっとドアを閉じた。


「さぁ、みんな…今夜はリカとハルトは休ませてあげたほうがいいかもしれないにゃ…私たちだけで頑張るのにゃ」

「はーい…て事は?!」

「「きゃー」」


 シグナル三人娘は何かを察した様に黄色い声を上げる。


「じゃあ私達も仕事を始めるのにゃ」


 メリーはハルト達のドアノブに『就寝中 起こさないで!』の札を下げるのだった。




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