その名は『アリステリア』
「…塩だ」
「塩ですね」
今、二人の目の前には、日本人なら割と目にしたことがある青いキャップのガラス瓶に入ったポピュラーな塩が置いてある。
「これはつまり…ハルトさんが召喚したって事ですよね?」
「多分そうだと思う…」
先程、直前に脳内に響いたアナウンスについての説明を行った。
「どういう原理なのかな?確かに塩が欲しいと思っていたんだけど…」
「何にしても人目のある所では控えた方がいいかもしれませんね…とりあえずご飯を食べて部屋に帰って検証しましょう……」
「そうだね…せっかくだしとりあえず塩……使う?」
「それについては異論はありません」
塩を振りかけた料理は格段にも美味しさが増して満足でした。
「…そもそも…召喚ってどうやって使うんだろう?」
「えっ?…塩はどうやって召喚したんですか?」
「うーん…リカと塩の話をしながら…ここにあったらいいなぁって……」
そう言って手のひらを広げた。
『『塩』を召喚しますか?』
「えっ?いや、はい」
再び脳内に声が聞こえたかと思うと、再び手のひらには、青いキャップの瓶入りの塩が握られていた。
「…出来た……」
「召喚できるのは塩だけですか?何か他の物が召喚出来ないか試してみましょうよ」
「じゃあ…『ポテチ』!」
『『ポテトチップス(袋)』を召喚しますか?』
「はい!」
すると手のひらには、あの赤っぽいパッケージのうすしお味が載っていた。
「すごいです!!他には他には??」
「じゃあスマホ!」
『…召喚権限がありません』
「…権限が無いって…」
「…自分の使用しているものとか所持品とかですかね?」
「でも…この塩新品だよ?家に買い置きはなかった筈だけど…」
「…そうですね…ハルトさんの家の買い置きはカップ麺とエナジードリンクだけでしたね……」
「…なんで知ってるの?」
「じゃあ…ハルトさんがいつも飲んでるコーヒーとか…いつも使ってるコップとか気に入ってる赤の下着とか召喚できないんですかね?」
「だから……なんでそんなに詳しいんだよ……」
リカが意外に僕の事をよく見ている事実に照れながらも様々な召喚を行った。
その結果わかった事は
・一般的な調味料や食材は確認のアナウンスが出るので、召喚が出来そうである。(先程のポテチは二人で食べました)
・召喚の際には魔力を消費して行う。
・家電製品や娯楽商品など大型の物や所持したことがない物は権限なしのアナウンスが出る…
また、ハルトが自宅で使っていた愛用品なども、取り寄せることはできなかった。
「どうにも召喚のルールが理解に苦しむ…『召喚不可』と『権限無し』の違いはなんなんだろう?」
「…これ…『ダイコク』のお店で扱っている商品じゃないですかね?」
「!!なるほどそれは確かに…ダイコク印の砂糖を召喚!」
『大黒印の砂糖(500グラム」を召喚しますか?」
「はい」
次の瞬間、ハルトの手の上には、自身が勤めていたスーパーダイコクのプライベートブランドの砂糖が載っていた。
その後も様々な召喚を試みる……『ダイコク牛乳』『ダイコク食パン』『ダイコク洗剤』『ダイコク醤油』…
思いつく限りのダイコクブランドは全て召喚可能だった。
商品はダイコク商品に限らず市販のメーカー品や生鮮食品も可能だった……
ふと気になってステータス画面を表示する……
ーーーーーーー
ハルト
年齢 20
種族 人間
レベル 4
生命力 250/250
魔力 2450000/2500000
精神力 2000/2000
スキル 『言語翻訳』 『病気耐性』 『収納。』
ギフトスキル 『召喚。』
ーーーーーーー
前にも感じたこの違和感……再び『召喚。』をタップしてみる。
新たなウインドウが展開し……
『召喚(暫定)店長権限)。』
使用者が在籍していた『ダイコク新北町店』の敷地内にある全ての『商品』『機材』『設備』の召喚、及び使用許可の一部権限を保有する。
『使用者:佐々木 晴人』
「間違いない…これは僕が勤めていたスーパーダイコクの商品を取り寄せられる能力だ!」
「え?凄くないですか?!」
「…でもこれって冒険者向けの能力じゃないよね?」
「…そうですね…武器とか、そんな商品は取り扱ってはいなかったですものね…」
「せめて隣のモールなら、サバゲーの店とか源さんのお店には刃物とか猟銃とかあるのに…」
一応、頭の中で原さんのお店の商品を思い浮かべたが、権限がありませんとのアナウンスが流れた。
(店長権限?…でも(暫定)ってどゆこと?…俺店長だったの?……今までの評価誤魔化されてたのかな?…あの店長の事だ…自分の評価査定を改ざんしたのかも……)
ふとそんな考えがよぎった時、何か胸の奥にザワザワとした感情が蠢くのを感じた。
「ハルトさん?どうでしました?」
リカの声に現実に引き戻された。
「なんでもないよ……でもどうしよう…これじゃあ魔物と戦うのは正直自信がない…」
お店に売っている、ホウキとチリトリで戦いに挑む姿を想像してしまった。
「……ハルトさん、冒険は諦めて商売を始めませんか?」
「商売…?」
「私のスキルがなんだか忘れてないですか?」
「あっ!…「料理」!」
「そうです!ハルトさんが食材を召喚して、私が調理する……もはや飯テロですよ!!」
「な、成程…ははは…それは凄い…!」
「ふっふふふふふ」
お互い向かい合ったまま笑いがこぼれてきた。
今日の宿の食事でも思ったが、この世界には調味料がまだあまり普及していない…基本的には焼く、煮る、揚げるである。
まだマーケットを調査していないが、一般市民の間ではそこまで凝った商品がないのではないかと推測する。
「唐揚げ、たこ焼き、フライドポテト」
「いずれは店を構えるのもいいね…和食に洋食、中華…最高だ!!」
一時はどうなるかと思ったが、この先の未来がバラ色に思えてきたハルトはリカを抱えるとその場でぐるぐると回り始めた!
「ありがとう!リカちゃん!君が一緒にいてくれたおかげでどうにかなりそうだ!!」
「きゃっ!ハ、ハルトしゃん…」
一緒に笑っていた梨花が急に何かに気づいたように、ハルトを押しのけて距離を取った…
「え?…リカちゃん…」
「いや…あの…今日はいろいろあったので、その汗とか…」
「こ、ごめんね!気がつかなくて!」
そのタイミングで、ドアがノックされた…一瞬驚いた二人だったが返事をすると、ドアの向こう顔を覗かせたのは受付で会った猫獣人のメリーさんだった。
「伝え忘れたけど……お湯の準備ができますがどうしますかにゃ?」
「お湯…お風呂とか公衆浴場とかそういったものはないんですか?」
そんなハルトに、メリーはキョトンとした目を向けた。
「お風呂なんてのは貴族様のお屋敷にでも行かないとあるわけないのにゃ」
彼女の説明によると、一般市民は水やお湯で体を拭くのが一般であり、暑い日は、川や湖で水浴びをする事うが普通であった。
この街の最高級な宿であれば、お風呂付きの部屋があるらしいが、ものすごく高いらしい……これはお風呂大好き日本人としては死活問題であった。
お金を支払うとしばらくすると大きめの木製のタライと陶磁器の様なポットを持ってくると部屋の中でそのポットについた石を操作すると桶の中にお湯が注がれた。
「凄い…何ですかコレ?」
「給湯の魔道具にゃ……見たことないのにゃ?」
「噂には聞いたことがある……かな?」
「どんなど田舎からきたのにゃ?」
メリーが『ごゆっくり〜にゃふふふ』と意味ありげな言葉を残して退出するとお互い突然何かを思い出した様に挙動不審になった…二人きりの今の状況をお互い色々と考えてしまった様だ。
「…本当にお湯だけなんだ……」
「…ハルトさん…石鹸とか召喚できますかね?」
「あっ!そうだね…」
こちらの世界の文化レベルを考慮して定番の牛さんのマークの香りを抑えた石鹸にしておいた。
「と……とりあえず僕は部屋の外に出ているから、リカちゃんお先にどうぞ…ちゃんと鍵をかけてね」
「は、はいお気遣いありがとうございます……私は一緒でもいいですけど?」
「いや大丈夫!!下に行ってるからゆっくりどうぞ!」
ハルトは耳まで真っ赤にして、慌てて外に出て行った。
思い返せば、仕事ばかりの人生で年上のお姉さま方との免疫はあるものの、年頃の若い女性との免疫は皆無である。
ハルトには刺激が強すぎたようだ。
「下で何か飲み物でも……」
ハルトは雑念を払う様に階下へと向かった。
リカとのやり取りで先程感じた不快感はすでに消え去ったていた。
下の食堂に降りてくると、ちょうど最後の客が出て行った様で、今から片付けが始まる所で女将さんが申し訳なさそうに話しかけて来た。
「すまないね…もう食事は終わりなんだ…飲み物ぐらいなら出せるけど?」
「あぁそうですか……すみませんね…お水なら大丈夫ですかね?」
「それぐらいなら、お安い御用だ」
そう言って、女将さんは、愛想の良いを笑顔見せると、厨房へと入っていった。
待っている間に、食堂を観察してみる
やはりテーブルの上には、マヨネーズやソースといった調味料は見当たらない……好みに応じて味をつけると言う習慣がないのである。
「はいよ…お待たせ…」
「ありがとうございます…」
「坊や達は……ええとハルト君だったかな?……こっちにはやってきたばかりなのかい?」
「ええ…」
女将さんは、片付けをしながらも気を遣ってか色々と話しかけてくれた。
コレ幸いと無知を装って色々と話しかけているうちに互いにどんどんと打ち解けて来た。
「…なので、食べ物売ってみようと思うのですが」
「なるほど…なら商業ギルドに登録するんだね」
「商業ギルドですか?…」
「物の売り買いや権利といった部分は全てあそこが管轄だからね…融資やいろんな相談にも乗ってくれるし…戦闘職をメインにする冒険者になる気がないのならオススメだね」
女将さんの名前はメリッサと言い、旦那さんと結婚して一緒にこの宿を始めて20年ほどになるとの事。
「いろいろと教えて下さってありがとうございますメリッサさんの様に詳しい方がいて助かりました…接客も丁寧だし…笑顔も素晴らしくて旦那さんは幸せ者ですね」
「な、何言ってるんだいこんな子持ちの人妻を揶揄うんじゃないよ……」
急にメリッサさんが赤面して照れたようなもの言いを始めた……何か俺変なこと言っただろうか。
「いえいえ、メリッサさんはとても親切で仕事も丁寧です…お客さん達もみんな笑顔でしたし…尊敬しちゃいますよ…きっとご主人もお子さんも幸せなんだろうなあ……」
「もう!この坊やったら……こんなおばさん褒めても何も出て来やしないよぅ……」
坊や……しまった!そういえばこちらの世界に来たことで、自分が若返っていたことを失念していた。
ついつい、いつものパートのお姉様方と会話をするノリで話してしまった上に管理職的な評価まで……セクハラかと勘違いされただろうか?
「あの…そんなつもりは…」
「おい…坊主」
「ひゃいっ!!」
後ろから肩を越しに振り返ると、そこには見事なスキンヘッドの坊主の男がいた…えっ?これって…美人局的な?!
「おや、あんた…」
メリッサさんの旦那さんのようだ…端から見れば、若造がおばさんを口説いているように見えたのだろうか。
顔を真っ赤にしてご立腹の様子だ。
「すいませんそんなつもりでは……」
「……俺は幸せだ」
「あら、やだ…あんたそんなに照れて…」
照れていただけだった。
「……ハルトさんは相変わらずの天然コマシ野郎ですねっ!」
「?!リカ……さん…」
階段からの声に何故か腹の底が冷えるのを感じた。
そこには部屋で湯浴みを終えたリカが氷点下のジト目でこちらを見ていた。
思わず敬語になってしまうのは何故だろうか?
「別にやましい気持ちがあったとかそんなんじゃなくて…」
「…はぁ…はいはい…いつものことだもんね…わかってますよーだ」
リカの顔を見ると何か諦めた様な顔をしている…本気で怒っている様な感じでは無かった……ただ、呆れているだけである。
安堵のため息と同時にすれ違いざまに感じたリカの濡れた髪から微かに香る石鹸と彼女の香りにドキッとさせられた。
「ハルトさんもサッパリしたら良いよ……あ、女将さん私にもお水くださいーねぇねぇハルトさん……」
「な、何かな?」
「リカの残り湯…堪能してね」
「!!!!〜リカちゃん!!」
そんなことを耳元で囁きながら、部屋の鍵を手渡された。
……一体どうしろと?
「………」
部屋の中に戻ってきたハルトは無心で湯浴みを行なった。
桶の中に漂うお湯は先程のリカの言葉もありものすごく魅力的に思えたが………これはもう聖水と呼んで良いのでは?
とにかく、無事に乗り切った……
使用後はメリーさんに言われた通りに『吸水』の魔石を樽の中に入れると瞬時にお湯が消え失せた……入浴に使用した召喚した道具一式は収納へと入れておく。
湯浴みの道具を部屋の前に置くとリカを迎えに食堂へとに向かった。
「そうなんですよー」
「ふふ……リカも大変ね……」
見ればリカとメリッサはすっかり打ち解けており旦那さんも交えて一緒に何か食べていた……食事は終わりとか言ってなかっただろうか?彼女の方がよっぽど人タラシではなかろうか?
「あ、ハルトさん…女将さん達から提案なんですが……」
聞けば、リカも食べ物を販売したい事を相談しリカ自身が調理が出来る事を告げたらしい。
すると、この食堂で働かないかとの話が出てきた。
ここは本来、メリッサの両親が経営していた宿でそのままメリッサ夫婦が後を継いだのだが、最近、調理人の一人が田舎に帰る事になり退職したので人手が足りなかったらしい。
「娘にも帰って来いって言ってるんだけどね……全くあの娘と来たら『冒険者になる〜』とか言って幼馴染と王都に出たきり帰ってきやしない……」
「…それは心配ですね……」
「まぁ人手が欲しい事に変わりはないから……夜の間だけでも構わないんだけどね?暫くはこの街にいるんだろ?それに、自分たちが売りたいものをここで売って反応を見るのもアリじゃないかい?」
「なるほど…少し相談させてもらっても良いですか?」
「もちろん構わないよ…」
リカと手頃なテーブルに座り相談を始める。
「リカはどう思う?」
「うーん…女将さん達は良い人だし手伝ってあげたいとは思うけど…ハルトさんに従うよ」
「…俺は…この話に乗っても良いかなと思ったんだ」
ハルトはその理由をリカに説明する。
まずは現地の食生活の実態を知れる事…おそらく今、突然ここで現代社会の食文化を持ち込んでも問題が発生する可能性の方が高いと感じた。
「お粥しか食べられない病人にご馳走を食えと言っている様なものだよ」
「…成程…まずは調味料…味付けからですね?」
「正解…まずは色々な調味料を使って味のバリエーションを増やしていこうと思うんだ…同時に、市場にも塩や胡椒などを流通させようと思っている」
そうすることで、他のお店にも調味料を使った料理が出回るはずだ。
「ある程度味に慣れてもらったら、いろいろと再現してもいいかなと思ってるんだ」
「飯テロですね?」
いろいろな味付けに慣れたところで、さらにクオリティーの高い商品を販売する事でプレミアム感やレアリティ感を演出するのだ。
「メリッサさん…先程のお話お受けします」
「本当かい助かるよ!お礼にウチの娘を嫁にあげるからこの宿も継いでおくれよ」
「……メリッサ…笑えない冗談だわ…」
「…リカちゃん…やぁねぇ……」
何か見えない火花が散っている様に見えた。
当面の間は、夜の時間の手伝いをする方向になった。
報酬については、明日より宿泊代と食事代で相殺する事とした。
「それと…ゴンザレスさん、明日の朝食からこれを使ってもらいたいんです…何か入れ物がありますかね?」
ハルトはカバンの中に受け取った金属のボウルを入れるとその中に召喚した塩を移し替えた。
そして、彼らの目の前に塩を取り出した。
「?!お前これ塩じゃないか!しかもこんな上等なものを!!」
メリッサさんの話によれば、この地域では塩はかなりの高級品で、この地域は海からも遠く流通の数が乏しいらしい…近くの山で取れる岩塩も、そこまでの量がないため、かなりの高額品になるらしい
恐縮されたがこれも自分達の今後に繋がるからと押し切った。
明日の朝ごはんが楽しみである。
二人はそのまま部屋に戻るとハルトは召喚の準備を始める。
「何をするんですか?」
「やはりこの入れ物は特殊すぎて目立つと思うんだ…だからね……『惣菜コーナー調理場で使用している調味料入れを召喚』」
『『惣菜コーナー調理場で使用している調味料入れ』を召喚します』
テーブルの上には、惣菜部門のおばさま方がいつも使っている。
赤いキャップのプラスチック容器の調味料入れが数点現れた。
「なるほど、売り場の商品だけじゃなくてダイコクに関わるものならば備品も召喚できるんですね!」
「じゃぁ、中身を入れ替えて…これでリカちゃんの美味しい料理が食べられるね」
「……」
「リカちゃん?」
「ハルトさんは……いつまで私をちゃん付けで呼ぶんですか?そんなに私子供っぽいですか?……私……ハルトさんのか、彼女ですよ?」
頬を赤めながらもリカが強い眼差しで一歩前に出た。
思わず反射的に半歩下がってしまった。
「いや…俺の方が年上だし…」
「今は同い年です!」
「は、はい.えーとリカ……さん?」
「なんで逆にかしこまっちゃってるんですか?!呼び捨てにしたらいいんですよ!」
「はいっ!リカっ」
「はい!ハルトさんのリカです!」
リカはそこで大輪の花が咲くような笑顔見せた。
「……ところで…ハルトさん」
「……ん…?近くない?」
「やっと二人きりですね」
リカの目が怪しく光った様に見えた。
「やっと思いが通じたのだから……次は身体も通じるべきですよね?」
「?!えっ!あの…その……」
「うふふ…可愛い」
そのまま優しくベッドの上に押し倒された。
リカはそのまま着ている服を脱ぎ去った。
「きゃ!!」
「…ハルトさん…なんて可愛い声を出すの?」
リカの手がハルトの体を弄る……リカちゃんがこんなに肉食系だったなんて。
「その…俺…経験がなくて……」
「ええ知ってますよ?前に部屋飲みで潰れた時に言ってましたから『賢者なんだよ〜』って」
「ええ〜!恥ずかしい……」
「大丈夫ですよ…私も初めてですから」
そうは見えないくらいに手際よくハルトの衣服が取り払われた……
「あの……もっとお互いのことを知って……」
「…?お互いのこと結構知ってますよね?私ハルトさんの味付けの好みから好きな下着の色まで知ってますけど?」
「あわわわ……」
……言われてみればリカの好みを結構知っている事に気がついた。
同じ社宅で生活している二人は一緒に夕食を取ることが多々あった……
確かにリカが作ってくれる料理は美味しかったし好きな味付けが多かった……
一緒に飲んでそのまま泊まっていく事もあった……なので彼女の私物が徐々に増えていった……あれ?これって……
「……今考えたら…『同棲みたいだったでしょ?』…!?」
「ハルトさん働きすぎでアルコールが入るとすぐ寝ちゃってたから……でも今夜は寝かせませんよ?」
「〜リカが男前すぎる!」
「大丈夫ですよ……天井のシミでも数えていてください♡」
「ああーーっ!!」
ハルトの視界がリカで一杯になった。
『はわわわわ〜』
ハルトとリカの様子を伺っていた女神………『アリステリア』は画面の中で繰り広げられる痴態に両手で顔を覆っていた………しっかり指の隙間から見ていたが。
『しゅごい!これが…愛の営み……はわわ〜』
彼女は二人をサポートする為に定期的に観察をする事にしていたのだが……
もうあれからずっと二人を見ていた……
『いけない!せっかくの情報を早く反映させないと……しかしハルトさんが『賢者』だったなんて……あの崇高な態度も納得です!早く賢者のスキルも付与しないと……うわあ…リカさんあんな事まで♡』
ハルトとアリステリアの思う『賢者』の意味が違うのだが…
こうして晴人の知らぬところで『賢者』のスキルが付与されたのだった……
それに晴人が気が付くのはもう少し先のことだった。