第2話 化け物シルビア
この作品に登場する峠、人物は架空のものであり、
実在するものではありません。
実際の道路では交通ルールを守り、安全運転を心掛けて下さい。
※峠の名前は適当です。
蝉も鳴くある夏の日の昼下がり。
電話がなっている。
2,3回音がなり、付近のドアから渋々出てきたのはユウの先輩であるヤス。
長い欠伸をした後、面倒臭そうに受話器を取った。
「あい、モシモシ?」
「先輩ですか?俺ですけど、S15ウチに来ましたよ!」
受話器の向こうからは聞き慣れた声が聞こえてきた。
納車したばかりとあってかいつもより元気な声だった。
「おお、やっと納車されたのか」
「後でで良いんで、見に来てください!…それじゃ!」
「あっ!?おい、ちょっと待て!」
ユウには既に聞こえていないようで、
受話器を置く音が聞こえた後、ブツッと電話は切れた。
ヤスはやれやれと受話器を元の場所に置く。
「(無理矢理だなチクショー、まだこんな時―)」
時計は既に1時を回っている。
一瞬呆然としたヤスは時計を手に取り、
「あぁあーーっ!?もうこんな時間だと!?この時計壊れてんじゃねえのかああああーー!?」
特に用事もないのにヤスは隣に人がいれば鼓膜が破れる程の声で叫んだ。
たとえ隣の家だろうと人がいれば十中八九は
「「うるせええええ!」」
と言うはずである。
―午後4時 瀬名峠―
見通しの悪い第1コーナーを抜けて赤いロードスターが猛スピードで上って来る。
近くまで来るとサイドブレーキを引いてドリフトしながら旋回し、停まった。
「(先輩か…来たな…)」
頂上で待っていたユウの後ろには妖しいオーラを放つシルビアが停まっている。
ロードスターからヤスが降りると同時にシルビアのボンネットに乗っていたユウが立ち上がった。
「峠道に停まってるのを見ると結構迫力あるな、お前のS15」
ヤスがそう言うとため息をつき、ユウが言った。
「速く先輩みたく乗りこなしたいですよ…コツとかってありますか?」
「そうだな…」
言いづらそうに顎に手を当て、考える素振りを見せる。
少ししてヤスが口を開いた。
「コツは口じゃあ説明しづらいな…兎に角、最初は遅く走って慣れろ…くらいしか言えん」
ユウが黙って頷くとシルビアの運転席に乗り込み、ベルトを着用した。
「隣に乗ってくれませんか?アドバイスが欲しいんで…」
「いいだろ」
そう言うとヤスがロードスターに鍵をかけた。
そして助手席に乗ると煙草を取り出して口に加え、火をつける。
煙を窓の外に吐き出し、ユウに言った。
「とりあえず落ち着いて行けよ。焦るのが一番マズい事だから…」
「はい…」
エンジンがかかり、シルビアは心が安らぐようなエンジン音を響かせる。
ユウは深呼吸をし、気持ちを落ち着かせた。
やがて足がクラッチを踏み、ニュートラルから1速へ――
突如エンジンは間抜けな音を立てて止まった。
「…おい」
「す、すみません…」
そう、エンストである。
ヤスはため息をついて心の中でユウに言った。
「(勘弁してくれよ…先が思いやられるぜ…)」
「とりあえずもっかいだ。今度はしくじるなよ」
「分かりました…」
再度ギアを1速に入れ、アクセルを少し踏んだ。
するとシルビアはエンジンをかけた時の音からは想像できない程『強い』音を立てて前に進んだ。
ヤスはまたエンストするんじゃないかと思っていたのかホッとした様子である。
だが、すぐにまた顎に手を当てて考えた。
「(ドノーマルのS15がこんな音するのか…?
どこも改造されてないって言ってたが…どうもあの店員、何か怪しいな…)」
ヤスが考え事をしているとシルビアは既に第1コーナーに差し掛かっていた。
「おい、初めてなんだからもうちょっと速度を落とせば…」
ヤスはそうユウに注意したが生返事をした。
勿論足はアクセルを踏んだまま。その上全開である。
「ブレーキ踏めえぇぇぇぇ!」
「えっ?あっ、うわっ!」
速度は120キロを超えていた。完全にオーバースピードである。
ユウは焦っているようだが体は以外と落ち着いているようで、
ブレーキを踏んでギアを3速に下げ、ハンドルを切った。
やがてリアが滑り出し、車体は内側に向いた。
「ユウ!カウンター…」
ヤスはそう言ったが、ユウは言う前からハンドルを逆に切り、カウンターを当てていた。
そのハンドル捌きは初めて乗ったとは思えないものだった。
「(何だ…?こいつ、ホントにクルマに乗るの初めてなのか…?
しかも馬力が250もあるこのクルマを…自由自在に…)」
シルビアの滑りが止まった時、既に第1コーナーを抜けていた。
ユウはほぼ完璧なドリフトでコーナーを攻略したのである。
「あ…危なかった…」
「(危なかった…って…曲がってる途中は恐ろしい程落ち着いてるように見えたが…?)」
「……お前…正直に答えろよ?クルマを自分で操るの…ホントに初めてなのか?」
「初めてですよ」
ユウが当然のように言う。
ヤスは頭を抱え込んだ。
「(あの狭い第1コーナーでシロウトがドリフトするなんて無理だ…
どうなってやがる…?)」
ヤスが考え込んでいると超が付くほどの低速セクションが連続するポイントへ入っていく。
猛スピードで突っ込んでいく様を見ているとオーバースピードのように見えるが、
素早いシフトチェンジと減速をし、右に左にシルビアのリアを振る。
低速セクションを抜けると少し長いストレートへ。
先にはほぼ90度の非常に難度の高いコーナーがある。
「次、かなりキツいから速めにブレー…うわっ!」
ヤスが話し終わる前にユウは既にサイドブレーキを引いていた。
しかし全く減速はしておらず、車体はほぼ真横を向いて90度のコーナーに突っ込んでいった。
「おい!お前…俺を巻き添えにして死ぬ気じゃねーだろうな!」
「勿論そんな気はありませんよ」
「!…(いつもより声が低い…?喋り方も違う…まるで別人だ…)…って、おわあああああ!!」
ガードレールを破る程の勢いで崖が迫り、ヤスが思わず絶叫する。
そして崖とガードレールはヤスの目の前に迫ったと同時に止まり、景色が横に動き始めた。
「(た…助かった…もう死ぬかと思った…)」
「やっぱりクルマって面白いですね…」
「オメー誰だよ!いつもと全然話し方違うし…
大体なんでこんなドラテク持っててエンストなんて凡ミスすんだよ!?」
「えー…この運転って上手いんですか?すげー遅く走ってるつもりなんですけど…」
「は…?何だと…?(…こいつ…神経オカシイんじゃねえか…?これで遅いって…)」
「次、ヘアピンですね」
ユウはそう言ったが、考え事をしていたヤスの耳には届かなかった。
我に返った頃には目の前にガードレール。
「うぎゃあああああああ!」
やがて瀬名峠を下り終えると、ユウは自分の腕時計を見て驚愕した。
下り始めてからまだ8分半程度しか経っていなかった。
瀬名峠の最新レコードタイムは9分を切るか切っていないかくらいである。
2人とも呆然とし、シルビアから降りる。
「どういう事…ですかね…」
「どういう事もクソもねー。あんな走りしてこれくらいタイムが出ない方が不思議だよ…」
「え?俺…40キロで走ってませんでした…っけ…あれ?」
「あぁん?」
2人が顔を見合わせた後、シルビアの方を見た。
ユウの目には、不思議とシルビアが笑っているように見えた。
…何この文章力の無さ
ああ…評価して下さった方、申し訳ありません…
もうちょっと頑張ります…