4月15日③
「そこの子」
「はい、なんすかお兄さん」
俺は見た感じ一番大きい男の子に話しかけ、そして
「俺をおろすことってできる?」
と情けなく尋ねた。
「いや、無理っすよ、そもそもそこの枝まで手が届かなそうだし」
そうよねー、大きいといっても小学生、俺よりいくらも背が低いし。
どうしようかしら、昼休みもまだ余裕あるけどずっとここにいたら遅刻してしまう。
「お兄さん、そんなに高くないよ、下も平らだし、多分ケガしないよ」
別の小学生が俺に向かって叫ぶ、そう、対して高くないのだ、たかだか1メートルと少し、ケガしないだろう。
ただ、とても怖いのである。
高所恐怖症ではない、高いところにいるだけであったり、下を見下ろしたりする分には怖くないのだが、いざ飛び降りろと言われると、途端に怖くなるのだ。同じ理由でジェットコースターも苦手だし、将来バンジージャンプをすることもないだろう。
ん?高いところから落ちるのは怖いのに大学は落ちれるんだねだって?やかましいわ。
「こうなったら、最終手段に出るしか…」
俺が木の上でこう言うと、数人の小学生が何をするのかと、興味の目を向けてきた。
「スゥゥゥゥゥ」
俺は大きく呼吸し、大気を自らの内部に取り込む。
そして…
「だれかたすけてーーーーーーーー!!」
と、大きな声で叫ぶ、
ここは公園で、他に大人はいる。こういえば誰か来てくれるだろう、笑いたきゃ笑え、俺は助かる道を選ぶ。
しかしもういい年した人間が、木に登ってあろうことか助けを求めるなどという珍事に首を突っ込もうという勇者はなかなか現れなかった。見える範囲にいた昼休み中のリーマンは少しこちらを見た後、静かに目線を自分のスマホに戻した。他の人もあらかたそういう感じで無視だ。
ただ、小学生には大うけで、急に情けなく助けを呼び出した俺を指さして笑っていた。やはりクソガキどもだ、ボールを拾ってあげた恩を忘れよって…
冷たくなったものだこの日本も、助け合いの精神は一体どこ行ってしまったのだ。
なんて考えていると、こっち側へ向かってくる人影が見えた。この日本も、まだ捨てたもんじゃないな。
ところでいったいどういう人なんだろう、俺はその人の全身像をとらえられるような位置に移動する。
「…!!」
とらえたと同時、そこでびっくら仰天して危うく木から落ちかける、俺を助けに来たのはなんと。
「ちょ、ちょっと、大丈夫…ですか?」
困惑した表情の、あの謎美少女だったのだ。
「えっと、ちょっと降りるの大変で…」
上から見下ろす感じになったがやはりかわいい、こんなかわいい子に怖いなんてとても言えないので、俺は助けてくださいという言葉を飲み込む。
「えっとそうだ、手、手貸します。何できるかわかりませんけど…」
しどろもどろといった感じで女の子が言うと、小学生が
「お姉ちゃん、お兄ちゃんを支えるのは無理だよ…」
といった。それはそうだ、背が低めの女の子がひとり来たところで、状況は何も変わらない。
いや、そんなんでいいのか?
ここで飛び降りないで、助けてもらう恥ずかしいところを、あの子に魅せられるのか?
ふと、そう考えると、俺の中で深く眠っていた男気があふれ出てきた。
「すみません、ちょっと気の周りからどいてもらっていいですか?」
「え、でも、それじゃ何にも…」
「ここから飛び降ります。危ないんで少し離れてください。」
男気を見せるところはここしかない。俺の覚悟を感じ取ったのか、小学生たちが女の子を誘導する。
「お姉さん、ここから離れてって言ってるし離れましょう」
「…」
そんなこんなで、みんなが少し離れた。
俺は降りようと下を見る。
「うぅ」
やっぱり怖い、ケガでもしたら痛いだろうなぁ、でもここまで来たら引き返せもしないし…
「がんばれ!!」
「お兄さん覚悟決めて!!」
小学生たちの声援が耳に届く、よし、いける、あと一押しだ、あと一押し、俺の勇気があれば…
そのとき
「が、頑張ってください!」
あの女の子の応援が、、俺に飛んできた。
その瞬間、俺の覚悟は決まり次の刹那…
俺はこの体を、外に放り出した。