4月6日②
俺たちは電車に乗り市街地へと繰り出す。俺たちの住んでいる月影市は東京近郊の中核市だ、北関東三県行きの電車と東京行きの電車の合流地点として電車交通網が強く、都心ほどではないが短いスパンで電車が来ることが強みだ。月影市街地はそれなりに栄えていて俺は必要なものはぜんぶそろった住みやすい街だと自負している。
そんな頼もしい電車に揺られながら俺と竜造寺は他愛もない会話を続けていた。
俺は電車の中を見渡す、着て今日も仕事に向かうのであろうサラリーマン、こんな朝早くに起きて、どこかに遠出でもするのかと思われる春休み中の中学生。そんな人たちが大半のなか、俺は見たくないものを見てしまった。
「おい竜造寺、あれって…」
「む、なんだ、うぐぅぅぅ!」
俺は耐えたが竜造寺は駄目であったか、そう、俺らが見たものとは…
今日入学式を迎えるのだろう、新品のスーツを着た青年であった。
見た感じ、俺たちと同じくらいの年齢であるその青年から感じるまぶしいものを。新生活への期待、不安それらを感じつつも前へ進むことが許された尊い光の使途の姿を見ただけでも、地獄順番待ちの我々の心はえぐられ、もだえ苦しむしかないのである。
俺もやばかった、ツイッターで合格しましたツイートをみて耐性を付けていなければ、いま光属性の攻撃により浄化された竜造寺のようにここで命を落としていたであろう。竜造寺よ、俺は君の屍を、超えていく。
「むう、どうせ我が受かりつつも蹴ったレベルの低い大学の生徒であろう。そんな下郎よりも我のほうが魂レベルが高いのは必定」
こいつ、生きていたのか、この精神ダメージに耐えつつさらに毒を吐く余力があるなんて相当しぶといな。魂レベル(また新しい設定だよ)高いって自分でも言ってるし大丈夫なのかな。でもこいつにダメージが入ったのは確かのようだ、日本語に不備が見える。正しくは大学の「生徒」ではなく「学生」だ。
なんて話しているうちに俺らの降りる駅、月影駅に到着したので、俺らは電車を降りた。ちなみに学生君は東京方面に向かっていったので、もしかしたら魂レベルでも負けているかもしれない。
駅からは徒歩五分ほどで俺らの通う予備校、月影予備校に到着した。
もうすでに説明会等で何回か訪れているが、今日から通うことになる月影予備校だ、まぁ正式名称は大手進学塾の名前を持つが、まぁうちの市には高卒コースのある予備校は一つしかないからこう呼ばれている。
これまでは学校という横長で校庭があって下駄箱で靴脱いで…みたいな生活をしていた分違和感もある。まぁこれが日常になっていくのだろう。
中に入ると普通のビルの受付のようなものがあり、受付のお姉さんが「こんにちは」とあいさつをしてくれた。俺は軽く会釈を返すと説明会の会場に向かう。俺は5階で竜造寺は4階だ。
「では佐野よ、ここで」
「おう、じゃ帰り会おう」
四階まで階段で登ったところで竜造寺とわかれた、竜造寺は文系、俺は理系だ。クラスが違うのも当然だろう。
竜造寺と別れた後。俺は自分の教室へ向かった。
「5-Cは…ここか」
自分の教室へ入るともうすでに多数の浪人生が席についていた。
教室に入ったとき、俺は教室の空気に気圧されていた。俺は普通の学校とそれと並行して通う塾に通ったことがあるが。そのどちらともに似て似つかぬ雰囲気であった。死にそうな顔で今の時間も必死に勉強している女子。机に早々に突っ伏して寝ている男。なんの恥ずかしげもなくアニメキャラがプリントされた服で来ているやつ。ただそいつら全員に言えることは、顔が笑っていないことだけであった。
早々に友達を数人作ったのか、友達と同じコースだったのかわからないが楽しそうに会話をしている数人の陽キャを除き、全員が暗い顔をしている。新生活の始まりとしてこんなにも負のオーラにまとわれたのは初めてであった。
俺は自分の席に着く、隣を見るとこれまた恐ろしい怪物が鎮座していた。
男でロン毛だがおそらく手入れはされてなくボサボサで汚い、ひげもそられてなく。両目で形の違う眼鏡を付けている。またこの現代日本で栄養失調を疑うほど体は細く、スマホを見ながら時々「フヒヒッ」と笑っている。やばい奴だ、近寄らないでおこう。
俺とこいつは無関係だと周りに見せつけるように、単語帳を開いて十数分、時間になり担当講師が入ってくる。
「うっす、俺は今日から個々のクラスになる奥谷だ、よろしく」
気さくな挨拶とともに入ってきた若めの男に対する第一印象は接しやすそうな人で良かったといった感じだ。予備校のサービスはなにも授業と自習室だけではなく、面談も多々行う。話しやすそうな人だと、そこにおいてだいぶ好都合だ。
「担当科目は数学、まぁぶっちゃけ物理も化学も生物も地学も理系教科は全部俺が教えてやりたいくらいだが、複数教科を一人で担当すると、まぁなんだ、やすっぽいからだめらしい」
こういったところで隣の化け物と複数人が「フフッ」と(隣の奴は「ケヒッ」と)わらう、その反応に対し奥谷は
「ここ笑うとこよ、まぁあんま笑いどこないよな、おれがつまらなかった、すまん」
と謝った。しかし俺はやり取りを見てこの先生は本当に気さくで話しやすいんだと思いさらに安心した。そう思ったやつも多かったのか、暗かった表情を少し明るくして奥谷を見る生徒が多くいた。奥谷は少し落ち込んだ表情を見せていたが、アイスブレイクに成功したとみると持ち直し、説明を始めた。
説明はいたってシンプルだった。やれテキストは、やれ時間割は、やれ帰宅時間、定期に至っては本当に割り引かれるらしく、そこは少し驚いたが、まぁ竜造寺から聞いてたし、まぁその程度だ。
ガイダンスが終わると、隣の化け物が鳴き声を発した。
「フフフッ、まさか虎食二龍のうちの一人が今回の担任とは、俺はついいてる、フフッ、ツイートものだ」
なんか必殺技みたいなのを吠えていて、俺は怖いもの見たさに少し化け物のほうを向いて話を聞いていた。
するとなんと、化け物と目が合ってしまったのだ、俺は即座に目をそらすが化け物は少しにやけて俺のほうによって来て俺に吠えかかってきた。
「新入りか、ヒヒッ、俺は不見部友則だ何か用があったか、ヒヒッ」
「え、えっと、こし、何とかって何なのかなぁってきになりましてございまして」
きょどって日本語が変になるが化け物改め不見部が話を続ける
「虎食二龍か、あれはうちの名物教師の愛称だ。二人の若手だが授業や懇談が非常にためになるって浪人界隈の一部では有名だ、ちなみに名づけはこの俺だ。虎食らう二匹の龍って意味だ。ヒヒッ」
絶対お前以外使っていないだろというツッコミを全力で抑え話を聞き続ける
「三国志の計略、二虎競食がモデルだ。だいぶ変形してるがな、だから二龍の名前も三国志の名軍師の愛称、伏竜と鳳雛と名付けた、あの奥谷講師が鳳雛だ。」
なるほど、つまり妄想の話だったと、マジでどうでもいい話でしたありがとうございました二度と話しかけんな化け物が、まぁでも多分その二人の教師は浪人生に人気ってことはわかったよそこだけ感謝、じゃあね
おれは立ち去ろうとする
「ところで新人、ツイッターはやっているか?」
しかしまわりこまれてしまった。
「や、やってますけど…」
「浪人生でツイッターをやっているなら、俺を知ってるかもしれないな、これが俺だ」
いやいやいや、ツイッターで少し有名だからって、そんな気持ちでやつのスマホをみる
「いくとこまでいっ多浪……っっ!!」
「やはり知っていたか」
確かにこいつは大物だ受験や浪人関係のツイートをよく見る俺はよくこいつのポストを目にする
アカウント名「いくとこまでいっ多浪」、フォロワー数12000人を抱え、浪人、受験関係でよくネタツイをしては時々1万を大きく超えるいいねを獲得する重度のツイ廃だ
こいつについてはある程度知っている。確か今年で
「5浪…つまり22歳」
「そうだ、お前が中学生をしているころから浪人をしている大ベテランだ。」
化け物化け物とさんざん言ってきたがこいつはそんなレベルでない、神だ、邪神だ。
「ヒヒッ、俺のアカウントを知ったやつは、気絶するか逃げ出すかだったが、お前は耐えている。しかも俺の思想の強いツイートをそれなりに見ているとは、お前も只者ではないな」
「まぁ…俺も…多くのやばい人と接したわけで…」
「ケヒッ、いいなお前、気に入った。これから一年、よろしくな、カヒッ」
とんでもない奴とかかわってしまった、俺はこれから、いったいどうなってしまうんだ浪。
※月影市は架空の都市です。モデルはありません。
※この世界ではツイッターはツイッターです。Xではありません。