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4月6日

「よし、行くか…」

今日は少し早く起きた。ここ最近は9時くらいまで寝ていたが、今日は7時には起き、準備を始める。今日は予備校の開校式だ。


浪人にも三つのやり方がある。宅浪、仮面浪人、予備校浪人だ。


宅浪は自宅浪人の略で、文字通り自宅でひたすら参考書などで勉強するという手法だ。お金があまりかからないというメリットはあるが、心理的にも勉強面でも支えてくれる人がいないため、一番きついと言われている。


仮面浪人は大学に通いながら浪人するという手法だ。浪人生という無職同然の存在にならないため、世間体が良いことや、浪人に失敗してもその大学に通えるといったメリットがある。一方で、大学生活を送りながら勉強をしなければならない点や、やめる予定の大学に学費を払う必要がある点など、デメリットも多い。珍しい選択肢だ。


そして三つ目が王道ともいえる予備校浪人だ。詳細は今日の生活でわかるだろう。簡単に言えば、予備校という、一般的には塾と呼ばれることが多いところに通って浪人生活を送る方法だ。


今日の俺の装備としてはスマホ、財布などの必需品に加え、数学の参考書などの参考書を持っていく。空き時間ができたときに便利だからだ。


「がんばってきなさい。事故にだけ気を付けてね。」


俺の出発に対し、母が声をかける。このような形とはいえ、新生活の始まりだ。彼女は玄関まで来て見送ってくれた。


浪人という選択肢は親に多くの負担をかけるものだ。予備校代も少ない額ではないし、俺の場合、毎日弁当も作ってもらうことになっている。母には感謝しかない。


「ありがと。頑張る。行ってきます。」


母親への感謝の気持ちを込めて行ってきますと伝える。この感謝の気持ちがどれだけ伝わったかはわからないが、伝えようとすることが大事だと俺は思っている。


まずは最寄り駅まで自転車で行く。予備校は市内にあるとはいえ、北の外れにあるこの家から、南寄りの中心街までは自転車だけで行けなくもないが、今日はルートの確認も兼ねて電車を使う。慣れてきたらどちらを使うか選ぶようになるだろう。


自転車をこいで五分ほどで最寄り駅に着いた。


「佐野よ、久方ぶりであるな。」


駅のホームに着くと、急に話しかけられた。声の方に振り向くと、背が低く、小太りで眼鏡をかけた、いかにもオタク風の人間がいた。


「なぜおぬしが我と会わなかったのか、わかっておるぞ。落ちたショックで枕を濡らしていたのだろう。軟弱者め。そんな弱腰で此度の戦を生き残れると思っているのか。」


こんなことを言う男は竜造寺孝也、俺の高校時代の親友だ。


「おっす、竜造寺。久しぶりだな。」


これまでの言葉を完全に無視して挨拶を返す。竜造寺は拍子抜けしたのか、「うむ」とだけ言い、駅のホームのベンチに腰掛けたので、俺も隣に座った。


「それにしても竜造寺がいてくれてよかったよ。俺、高校でも友達多いほうじゃなかったし、この予備校にもお前以外に知り合いがいないんだよな。そこだけは感謝してる。」


「む、それはつまり、落ちてくれてありがとうということか。」


「まぁ、そうとも取れるな。」


竜造寺は俺の軽口に対して「ふっ」と鼻を鳴らし、


「ふざけたことを言うでないぞ。フェニックスは一度火山に落ち、死んでこそ、また力を取り戻すのだ。我の復活した姿に平伏する一年後のおぬしにラーメンでもおごってもらうとしよう。」


「それでいいのかよ。」


彼は「竜造寺」という戦国武将と同じ格好いい苗字に生まれたため、少し理想にとらわれているかのような話し方をする。ちなみに彼のフェニックス設定は今日初めて出てきた。


「ところでおぬし、通学はこの一年間電車を使うのか?」


竜造寺が思い出したように聞いてきた。


「いや、天気とか気分とかで電車と自転車を使い分けようとしてる。」


「ふむ、長距離の強行軍は士気を低めるゆえ、我は一年中電車を使おうと思っていたのだが。」


運動不足で体力がないだけだろう、と突っ込みたくなるのを我慢して彼の言葉に答える。


「いや、交通費とか節約したいだろ。学割とかもなくなったんだし。」


俺たちはもう高校生ではない。暗にそう伝えると、竜造寺がニタァと笑いながら言った。


「おぬしは知らぬようだな。予備校に通う者は学割を発行することができる。」


「マジで!?」


そうなんだ。じゃあ電車でもいいかな。冬はあったかくて夏は涼しいし、何より楽だし。


そんな会話を続けていると電車が駅に到着したので、俺と竜造寺は電車に乗り込んだ。

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