買い物と吸血鬼 〜想い〜
~前回まで~
僕こと十字架十太は同じ家庭科部の斎藤由梨に近くのショッピングモールでの買い物に誘われて行くことになり、僕の彼女でその部活の部員でもある彼女の立花春子も誘い一緒に行くことになった。
当日、僕は春子を迎えに家に行きそこで、彼女の妹でもある夏海と葵に会ったりしたが何とか春子と一緒にショッピングモールまでたどり着く事が出来た。
~本文~
入り口で僕たちを見つけた由梨は「おーーい」と大きな声を出して手を振っていた。
その姿を、周りの人がチラチラ見ていて、その隣の夏樹が恥ずかしそうにしていた。
これは、早く二人の所に行かないと大変なことになると感じたのか春子と顔を合わせ頷いてから小走りで向かった。
僕たちが着くと「二人とも遅いよぉ。私なんか30分前に着いてたんだからね」と拗ねたように頬を膨らませて由梨は言った。
「ごめんごめん。でも集合時間には間に合ってるから大丈夫でしょ」と僕は時計を見て待ち合わせ時間の5分前の10時55分であることを確認してから言ったが
「そういう事じゃないんだよね。それに夏樹と全く同じこと言ってるじゃんよ」と横目で夏樹を睨みながら由梨は言った。
「ちなみに、夏樹は何時にここに着いたの」と今度は夏樹に顔を向けて聞いた。
「十太達が来る10分前には来てたかな。」と夏樹は言ってその後、由梨と春子には聞こえないぐらいの小声で、「昨日、バスケ部の方で練習試合があって今日は休みだったから家に居たくて、由梨が送ったメッセージにも僕だけ返信しなかったら電話が直接来てほぼ強制的に参加になっちゃったよ」と参ったような顔をして夏樹は言った。
「確かに、それは大変だね。由梨には逆らえないからね」と僕は言って夏樹も頷いてくれた。
僕は、改めて夏樹が家庭科部にバスケ部とは兼部の形だけど入ってくれて助かったと心の中で思った。
すると、「あの二人ともさっきから何コソコソ話してるんですか」と背後から声がして僕たちは振り返ると、由梨が腰に手を当てて僕たちを見上げるような感じで見ていた。
「なんでもないよ。今日、楽しみだなと話してただけどよ」と言って夏樹もそれに同調するようにうなずいていた。
「本当に?」と疑いの顔で見てきたが「本当だよ」と言って何とか誤魔化すことができた。
僕は夏樹の方を見ると、小さく手を合わせていた。
ちょっとした僕たちの騒動が落ち着いたところで由梨がツインテールをなびかせ春子に顔を向けて
「まあそんな事はどうでもいいけど、実は今日、すごい楽しみにしてたんだよね。まさか春子ちゃんも来てくれると思わなかったよ。ありがとうね」と満面の笑みを浮かべ春子の右手を両手で覆った。
「こちらこそありがとうね。でも、来て本当に大丈夫だった?」と春子は少し不安な顔をして聞いた。
「全然、大丈夫だよ。むしろ春子ちゃんが居てくれないとこの二人の面倒が見れないから。特に十太は」と由梨は言って僕の方を見た。
僕たちはあなたの子供かよと心の中で突っ込んだ。
「それならよかった。」と春子は安堵の表情を浮かべていた。
「春子ちゃんは十太の彼女なんだからしっかり見といてね」と由梨は言って
「うん。分かった。十太の事は私に任せて」と春子も元気よく言いお互いに固い握手をした。
初めて会った時といい二人は握手することが好きだなと思い、それと同時になぜか嫌な予感がした。
「そしたら、入り口で話すのも時間がもったいないし中に入ろっか。」と由梨は言った。
「そうだな」と僕は答えて足を前に進めようとすると、右腕が引っ張られ振り返ると春子が僕の手を握っていた。
僕は驚き「どうしたの?」と聞いてみると、「さっき由梨ちゃんに十太の事を任されたから、こうやって手を握ればどこにも行けないでしょ」と春子は少し照れながら言った。
その姿を見て、「なんか、今日はいつもと違って積極的だね」と僕はからかってみた。
それを聞いた春子が顔を赤くして「そ、そんな事ないから。仕方なく手を握ってるだけだからね。十太が嫌なら握らないけど」と言いながら手を離そうとしたので、僕はすぐに握り返した。
「別に嫌じゃないよ。それより、由梨たちが先に行っちゃってるから追いかけないと」と僕は言って
春子の手を引いた。
その言葉を聞いて、「うん」と嬉しそうな返事がした。
僕は、どうやら間違った選択をしなかったことに心の中で安堵した。
もし、嫌と言っていたら今日1日が最悪な日になってしまう所だったと思いゾッとした。
由梨たちは僕たちがいないことに気づいたのか入ってすぐの所で休憩スペースで座って待ってくれてた。
「ちょっと、二人とも入り口からイチャイチャしないでくれるかな。」と座りながら見上げるように立っている僕と春子に顔を向けながら言った。
「そんなにイチャイチャしてないと思うけどな。」と僕は言い「ふーん、ならいいけど」と何とか許してもらえた。
「それより、今日は何を買いに来たの?」と夏樹が聞いた。
「別に何を買いたいとかは決めてないんだけど、せっかく春子ちゃんが入部してくれたから親睦を深めたくて今日は1年生メンバーに集まってもらった感じかな」と由梨は当たり前のように言った。
「まじかよ。別に俺と十太は春子ちゃんと同じクラスでよく話したりしてるし、十太に関しては親睦を深める以上の関係だと思うんだけど」と夏樹は呆れながら言った。
それに反論するように由梨が「十太は彼氏で夏樹は同じクラスだからいいけど、私は別のクラスであんまり話したことがなかったから仲良くなりたいの。」と言った。
「なら、二人でどこか行けばいいじゃんよ。」と夏樹も続けて反論した。
「そうなんだけど・・・」と由梨は俯きながら何かを言おうとしていたので僕は
「僕たちが今日、いないといけない理由が別にあるの?」と聞いてみた。
その言葉を聞いて、由梨は俯いていた顔を上げて、「実は、春子ちゃんとはずっと仲良くなりたいと思ってたの。でも人気だから中々話しかける勇気が湧いてこなくてあきらめてたら、家庭科部に入部してくれて仲良くなる機会を逃したくなかったの。でも二人きりだと緊張しちゃうから、それで彼氏の十太と夏樹には申し訳ないけど私と春子ちゃんが仲良くなるのを手伝ってほしくて、二人には来てもらったの。」とすごく申し訳なさそうな感じで由梨は言った。
「じゃあ、僕を家庭科部に無理やり入部させたのって、もしかしたら春子が入部してくれて仲良くなれるかもしれないって思ったから?」と僕は続けて聞き、
「ま、まあそんなところかな。」と由梨は言った。
「でも、十太と由梨は中学が違うじゃん。それにクラスも違うのにどうやって十太と春子ちゃんが付き合ってる事を知ったの?」と今度は夏樹が聞いた。
「それはね。そう風の噂というかなんというか・・・」と由梨は誤魔化そうとしていたが、夏樹が問い詰めると「分かったよ。全部、本当の事を言うよ。」と言って由梨は話し始めた。
「本当はね、入学して少し経ってから春子ちゃんに彼氏がいるって事を聞いてどんな男子なのか気になったから、いろんな人に聞いたの。それで、十太の事を知ったの。春子ちゃんとはすごく仲良くなりたかったから、十太と仲良くなれば春子ちゃんとも仲良くなれると思って話しかけたくても、タイミングが悪いのかいつもどこかに行ってていなかったり、帰りは春子ちゃんと一緒に帰ってるから中々話すことが出来なくて困ってたの。だけど、部活見学の時に私はもともと家庭科部に入部したかったから家庭科室に居たら、十太が突然一人で入ってきて、ここを逃したら一生、春子ちゃんと仲良くなれないと思ってあの時に無理やり入部させたの」
と由梨は顔を赤くして一気に言った。
そして、僕と春子の方をみて「引いたでしょ?」と自分を嘲笑うように言った。
その顔はどこが寂しげな顔をしていて、きっと彼女の中ではもう僕と春子とは友達にはなれないと思っているに違いなかった。
僕は、何か言わなければと考えていると、僕の横から「そんなことないよ。」と声がしたので見ると春子が頬を赤くして言っていた。
「別に、そんなことぐらいで私と十太は引いたりなんかしないよ。それに、私だって由梨ちゃんがいたから今日、ここに来れてるんだよ。」と春子は言った。
その言葉を聞いた由梨が「えっ。どういうこと?」と聞いた。
「実はね。中学の頃に私と十太が付き合い始めて少し経った頃、二人でこのショッピングモールに来た事があって、その時に当時の私のクラスメイトに十太と付き合ってる事がバレて、その人がクラスに広めたことで学年全体まで広まって十太はどうだったかは知らないけど、私はすごい嫌な思いをして、このショッピングモールに行くのが嫌になっちゃったの。でも、由梨ちゃんが一緒にいてくれるなら大丈夫だと思って今日は来れたの。だから、由梨ちゃんはそんな私に勇気をくれた大事な友達だよ。そんな友達の事を私は絶対に嫌いになんてならないから」と午前中から泣きそうな顔をして春子は言っていた。
「それ本当?」と由梨も目を潤ませながら聞き
「本当だよ」とすかさず春子は言って由梨の手を握った。
僕は黙って、二人の姿を見ていると「なんだよ。そんな事なら誘う段階から言えよな。」と座っていたはずの夏樹がいつの間にか僕の横に来て、陽気な声で言って
僕もそれに答えるように「そうだよ。言ってもらわないと僕もさすがに分からないよ。それに無理やり入部させられた時なんかすごい怖かったんだからね」と当時の事を思い出しながら言った。
春子が「ちょっと十太と夏樹君、今それ言う必要ある?」と睨みながら注意してきたが
その注意を聞かず夏樹が「それに、春子ちゃんの事を入部前から知ってたなら先週の月曜日の入部の時にやった初めてあなたの事を知りました的な感じのあいさつはなんだよな。まじで萎えるわ」と夏樹は続けて言った。
その言い方に春子が注意をしようしたが、僕は春子の右肩に手を置き振り返った春子に睨まれたが静観するよう目で合図をした。
その合図を理解したのか春子は頷き落ち着いてくれた。
そういえば、夏樹はもう少し静かな印象だったのでこんなにしゃべる姿を見て僕は驚いていた。
「ちょっと、斎藤由梨さん。何か言ってくださいよ。」と夏樹は俯いている由梨に向かって畳み掛けていた。
すると、「もぉ。さっきからうるさいな」と由梨が勢いよく顔を上げて夏樹を睨んだ。
その目には微かに潤んでいたため、夏樹がすかさず「あれれ。もしかして、午前中から泣いてたの?」と聞いた。
その言葉を聞いて、由梨は持ってきたハンカチで目を拭いてから「泣いてないし。さっきのあくびのせいだし」とさっきまでの元気が戻ってきた。
その元気が戻ってきたのを確認して、夏樹が「よし。じゃあ、今日の昼は由梨の奢りで」と言って
由梨は目を見開き「はぁ。なんでよ。十太と春子ちゃんには奢るけどあんたになんか絶対に奢らないから」とさっきまでの感じが嘘かのように一気に元気になった。
僕はその様子を見ていると、「ねぇ。ねぇってば」と声がしてみると春子が顔を歪ませてこっちを見ていた。
その姿を見て「どうしたの?どこかいたいの?」と聞くと、「痛いわよ。十太が掴んでる右肩が」と言ってみると僕の左手が春子の右肩をおもいっきり掴んでいた。
どうやら、二人の姿を見て無意識に力が入っていたため僕は謝りすぐに右肩から手を離した。
手を離すと、「ほんとありえない。すごい痛かったんだから、後で覚えててね」と脅迫され睨まれた。
すると、「また二人ともイチャイチャしてる。私たちの事、忘れないでよ。」と声がしたので見るといつの間にか立っていた由梨が僕たちを見ながら腰に手を当てて言っていた。
「い、いや。これは決してイチャイチャしてたわけじゃないんだけど・・・」と抵抗しようとしたが
「ごめんね。由梨ちゃん。十太がどうしても私の右肩を掴みたいって言ってきたから掴ませてあげてたの」と春子は意地悪な顔を僕に向けて言い、僕は「えっ、いや。そんなつもりじゃ・・・」と言うしかなかった。
もしかして、これがさっきのやり返しなのか。と目で訴えたが、春子に逸らされてしまった。
「そんなにイチャイチャしたいなら二人の時だけにしてよね」と由梨は言った。
どうやら由梨は、春子の方を信じてしまったらしい。
そんな事を考えていると、「よし、それじゃ。これから由梨の奢りでフードコートで昼飯食べに行こうぜ。」と夏樹が声を張り上げて言った。
「だ・か・ら。さっきも言ったけど、夏樹には奢らないからね」と由梨は夏樹の顔を見て言っていた。
僕は横顔しか見ることができなかったが、その顔は今までの由梨の表情よりも一段と明るくなっているように感じた。