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部活と吸血鬼

ショッピングモールでの1件から2日経った6月下旬の月曜日の朝。


僕こと十字架十太じゅうじかじゅうたは、太陽の光で目を覚ましそして溜息をつき

「さあ、春子はるこにどんな顔で会おうか。」

と一人でつぶやき、布団から出た。

いつもより10分早く起きてしまったが、朝食をゆっくり食べれると思い部屋を出ることにした。

部屋を出て、僕がリビングに到着すると、朝食を食べていた我が家自慢の妹の十字架梅じゅうじかうめと母親の智子ともこが驚いた表情を見せていた。

「お兄ちゃんが、いつもより10分早く起きてくるなんて珍しいね。いや初めてじゃない?」

と妹が朝からバカにされているような言い方をしてきた。

それに同調をするかのように、母親も

「あら、そうね。十太が10分も早く起きてくるなんて珍しいわね。なんか不吉なことが起こりそうだわ」

と冗談めかして言ってきた。

どうやら、僕が10分早く起きるという事は、この十字架家において多大な影響を及ぼすらしい。

とは直接言えず、心の中で突っ込みを入れた。

「僕だって、一応人間だから早く起きることもあるよ。それに10分早く起きたのはこれで2回目だから初めてじゃないけど・・・」と兄の威厳を見せるために妹にちょっとした反論をした。

それを聞いた妹は「そうだっけ?まあ、どうでもいいけど」と興味なさげに言った。

’’梅から話を振っておいてどうでもいいのかよ’’と心の中で突っ込みを入れた。

「そういえば、お父さんは?」と我が家の大黒柱であるさとしについて聞いた。

「お父さんなら、今日は会議があるからっていつもより20分早く出たよ。」と母親が言った。

「そうなんだ。いつもはお父さんの見送り事が出来ないから今日はできると思ったけど」

と言ったら、それを聞いた妹が

「お兄ちゃんでもそんな事を考える事が出来たんだね。いつもはお父さんが出てすぐに起きてくるのにね。避けてると思ったけど」

と相変わらずの口調で言ってきた。

「いやタイミングが絶妙なだけで、避けてないからね」と僕は言い返した。

その僕たちの会話を聞いていた母親が

「なら、明日も早く起きればいいじゃない。梅はいつもお見送りをしているから、梅が起きる時間に一緒に起きればお見送りできるわよ。」と当然のように言ってきた。

それを聞き僕は「そうだね。そしたら、今日梅と一緒に寝てもいいなら起きれるかな」

と冗談で言った。

しかし、妹はそれを冗談と受け止めず、変態を見るような目つきで見てきたので

僕は顔をそらした。

そして母親が用意をしてくれた朝食を食べている間にテレビの中で朝の占いが始まった。

ちなみに僕は7月10日生まれのかに座である。

1位から順番に紹介されているが、一向に出てこない。

案の定、最下位であり僕がテレビを見つめていると、右肩に手を置かれ振り返ると妹が憐みの目で見てきた。


僕は、朝食を食べて部屋に戻ると、吸血鬼のキングが椅子に座っていた。

僕が部屋に戻ってきたことにキングが気づき

「おーー。部屋に入ったら、お前の姿がなかったからもう学校に行ったのかと思ったぜ。」

とキングに言われ僕は時計を見る時刻はとまだ7時30分であった。

「朝のホームルームが8時15分からで学校までは15分で着くからまだ家を出るには早いかな。でもあと10分したら出るんだけど・・・」

と僕は言って、制服に着替え始めた。

僕が着替えているところ見ていたキングが

「そういえば、あの春子っていう弁当娘の事は大丈夫なのか」と聞いてきた。

僕は今日で2度目の溜息をついて振り返り

「どうかな。ちなみに僕が悪いみたいになってるけどその件は全部、キングが悪いんだからね。」

と僕はキングに言った。

その言葉を聞いたキングが

「本当にあれは、悪かったと思ってるよ。まさか怒るとは思わなかったから。」

と言った。

「僕が言うのもあれだけど、自分と付き合っている人が目の前にいる場面でその人のどこが好きか聞かれたら聞かれた方は誰でも怒るよ。」

「どうしてなんだ?普通に言えばいいだろ。」

「恥ずかしくて、すぐに言えない人がほとんどなんだよ。きっと」

と僕は言ったが

内心では、あの時に僕のどこが好きなのかを春子に言ってほしかったと思っている。

僕の言葉を聞いて納得したのかキングが

「ふーん。そういうものなのか。人間ってなかなか複雑な生物なんだな」

と頷きながら言った。

「そうだぞ。人間はこの世界で一番複雑な生物なんだぞ。」

と言ってから時計を見ると、7時40分になるところであり、僕は急いで制服に着替えて

部屋を出て玄関に向かった。

僕と一緒についてきたキングが

「どうして、そんなに急いでいるんだ。学校まで15分で着くんだったらもう少しゆっくりできるだろ。」と言った。

僕は玄関で靴ひもを結びながら

「そうなんだけど、いつも春子の家には45分に行くようにしてるから急がないといけないんだよ。」

と少し早口で言った。

「そうか。それなら急がないといけないな。じゃあまた学校で会おう」

と当然のように言ってきた。

「別に、会うのはいいだけど、春子の前では姿を出さないようにしてね」

と言ってキングが親指を立てるのを見てから家を出た。


春子の家には45分ちょうどに着き、インターホンを押して少し待ってから玄関の扉が開き

春子が出てきた。

「おはよう。」

と言ってから僕の様子をみて「今日もギリギリに家を出たでしょ。いくら十太と私の家が近いからってギリギリに家を出たら危ないよ。」

と言われ注意をされた。

「今日は早く起きたし余裕をもって出ようとしたんだけど、きんっ!!!」と失言に気づきこれ以上先を言うのをやめた。

もうすぐでキングの名前を出すところだったと焦ってしまった。

しかし、その違和感に気づいたのか春子が

「きん?どうしたの?」と聞いてきた。

僕は仕方ないと思い「金君から電話がかかってきて結構長電話になっちゃったんだよね。」

と嘘をついてしまった。

それを聞いて「そうなんだね。金君から電話あったんだね」と言ったが、その表情は少しだけ

曇っているように感じた。

そんな重い空気を払拭するように

「そういえば、今日の占い見た?僕たちのかに座は最下位だったんだけど」

と声のトーンを少し上げてから言った。

「見たよ。私が7月8日で十太が10日で同じかに座だからしっかり見たよ。ついてなさすぎるよね私達って」と僕に合わせてくれたのか春子もトーンを上げて言ってくれたような気がした。

何かに気づいたのか春子が、

「今日、何もなければ帰りに寄りたいところ一緒に行ってくれないかな」と優しい口調で言われたが

「ごめん。今日、部長に呼び出しを受けてて部活に顔を出さないといけないんだよね」

と僕は言った。

それを聞いた春子が、「そうなの?十太が部活に出るなんて珍しいね。いつ部長さんから呼び出しを受けたの?」と聞いてきた。

「先週の金曜日に言われたんだけど、金曜日は予定があったから今日にしてもらったんだよね」

「ふーん。それじゃ仕方ないね。じゃあ今度一緒に行こうね」と春子に言われ

「もし、よかったら春子も一緒に部活来る?」と試しに誘ってみた。

誘われるとは思っていなかったのか、春子が少し顔を赤くして

「えっ。私も一緒に行っていいの?」と聞かれ

「別に問題ないと思うよ。先輩たちも優しいし」と僕は言った。

「ちなみに、十太って何部に入ってるんだっけ?」

「一応、家庭科部だけどね。まあ、幽霊部員だけど」と自嘲気味に言った。


《放課後》

僕と春子は帰りのホームルームが終わったと同時に教室を出て家庭科室に向かった。

家庭科室に到着してドアを横にスライドしようしたが、鍵がかかっているおかげで開かなかった。

すると、「おやおや、一番とはさすが十太くんじゃないか」と背後から声を掛けられ振り返ると

そこに家庭科室のカギを持ったショートヘアの女子がいた。

「吉田先輩じゃないですか。実は、今日部長の荒木先輩から呼び出しを受けちゃってて」


※吉田先輩こと吉田雛先輩は家庭科部の2年生であり、かなり可愛いと有名な先輩である。

 片手で数えるほどしか部活で会っていないが、廊下とかですれ違うたびになぜかちょっかいを出さ れ、隼人と夏樹からうらやまし目で見られる。

また、弓道部との兼任をしている。


「そうか。荒木先輩から呼び出しを受けたんだね。まあ、中に入って待ってようね」と鼻と鼻がぶつかるんじゃないかと思う距離で言われ、顔を離してから両肩に手を置かれた。

そして、吉田先輩の視線が僕から隣の春子に移り、「さっきから待たせちゃってごめんね。もしかして入部希望の方ですか?」と春子に向けて言った。

僕は内心で、急に敬語になるなよと突っ込みを入れた。

「すいません。吉田先輩、入部希望とかではなくて、見学希望の僕と同じクラスの立花春子さんです」

と言ってから、春子が「よろしくお願いします」と言って頭を下げた。

吉田先輩は春子に近づいて、「君が噂の立花さんかぁ。入学当初からめちゃくちゃかわいい子がいるって噂になってたから一度会ってみたかったんだよね。」と言った。

吉田先輩の勢いに押されているのか春子は困惑顔を浮かべていた。

「すみません。吉田先輩、春子が困ってますって」と僕は助け舟を出したが、

「春子?今、十太君は春子”さん”ではなくて春子と呼び捨てで言ったよね。気のせいかな」

なぜ、こういうときだけは鋭いのかといつも疑問に思う。

「実は、春子とは幼馴染で家も近所なんですよ」と僕は言った。

「いいねえ。こんなかわいい子が幼馴染ってうらやましい限りです。ちなみに、二人ってどんな関係なの?」と吉田先輩は聞いてきた。

僕は、春子を横目で見たが顔を少し赤くしてうつむいていたので

僕が代わりに「実は、僕たち、付き合ってるんですよ」とそのまま言った。

僕の言葉を聞いた吉田先輩は一瞬、困惑した顔を浮かべたがすぐに状況が読み込めたらしく僕たちに背を向けて、

「そうか、そうか。二人は付き合っているのか。十太君がこんなかわいい子を彼女にしているとは思わなかったよ。」

と言いながら家庭科室の扉をカギを開け始めたがどんな表情をしているのかを見る事が出来なかった。

僕と春子は家庭科室に入り、吉田先輩が用意してくれた椅子に座った。

「ちなみに春子ちゃんは、十太君のどんなところが好きなの?私と十太君は出会ってからまだ数か月しか会ってないけど、女の子に好かれるような魅力がないような気がするんだけど。」

と吉田先輩は手に持っていた鞄を椅子の上に置きながら聞いてきた。

「ちょっと、先輩。それだとさすがの僕も傷つきますよ。先輩には分からないような魅力が僕にはありますから。なぁ、春子。」

と言って僕の向かい側に座っている春子に聞いた。

しかし、春子に「十太に、男らしい魅力があるとはあまり思わないかな」と言われ泣きたくなってきた。

「でも、十太は優しいから。それだけでいいと思うよ。」と顔を少し赤くしながら言ってくれた。

春子の言葉を聞いた、吉田先輩が

「アツいねぇ。君たちはすごいお似合いだと思うよ」とニヤニヤしながら言った。

でも、僕からしたらその表情はなんだか無理をしているように思えた。


すると、扉が開きほかの部員が次々と入ってきた。

すると、入ってきた部員はみんな春子に目が行きそのたびに吉田先輩が「十太の彼女」ってあたかも自分の彼氏を紹介するようなテンションで自慢気に紹介していた。

その紹介を受けるたびに、「へぇ。十太君って彼女いるんだ。意外すぎる。」と僕を少し馬鹿にしたような口調で言ってくる。

この家庭科部では僕は一体どんな存在なのだろうと気になった。

すると、突然肩を叩かれ振り返ると、夏樹の姿があった。

僕は驚き、「あれ、なんで夏樹がいるの?ここ家庭科部だぞ。お前ってたしかバスケ部じゃなかったけ?」と聞いた。

「バスケ部だけど、帰ってもやることがないから部活が休みの日は家庭科部に出るようにしてるんだよ。ちょうど、兼部してもいいって顧問の先生も言ってくれたし。」

「へぇー。そうなんだ。それにしても意外だな。」と僕は言った。

「まあ、こう見えても手先は器用だからね。それはそうとして、何で十太が家庭科部にいるの?」

と首をかしげて聞いたきた。

「まあ、僕は一応家庭科部の部員だからね。それに今日は、荒木先輩に呼び出しを受けたからしょうがなく来てるって感じかな。」

それを聞いた夏樹が「十太って家庭科部だったの?まじで意外過ぎる。これは明日隼人に言わなくては」と驚きながら言った。

「まあ、隼人は僕は家庭科部って事を知ってるから、言ってもあんまり驚かないと思うよ。」

「そうかあ。それは残念だ。」と夏樹が少し落ち込んで視線が僕から春子に移り、目を見開いた。

「えっ!どうして春子ちゃんも家庭科部にいるの?もしかして入部希望?」

と今度は春子に話題が移った。

相変わらずせわしない奴だなと僕は心の中で思った。

「違うよ。今日は、十太が部活に久しぶりに出るっていうから見学させてもらおうと思って来たの。」

と春子は言った。

「そっかぁ。入部希望じゃないんだ。春子ちゃんが入ってくれたら十太もちゃんと来てくれるし1年生も4人になるから嬉しかったんだけど。」

と夏樹は残念がりながら言った。

それを聞いた春子が、「ごめんね。でも、もし迷惑じゃなかったら入部も考えようかなと思ってるよ」

と言って、その言葉を聞いた夏樹の顔が明るくなった。

続けて、春子が「そういえば、さっき夏樹君が1年生は私も入れて4人って言ってたけど、あと1人足りないんだけど」と夏樹に聞いた。

「そうだったね。でももうすぐ来ると思うよ。」と夏樹が言った直後、家庭科室の扉が開きツインテールの女子生徒が入ってきた。どうやら走ってきたらしく、息を切らしていた。

「遅れました。あれ、部長は?」と周りを見ながら聞いていた。

それに吉田先輩が「まだ、来てないからそんなに慌てなくてもよかったのに」と言っていた。

僕は、本能的にやばいと感じ目を合わせないようにしたが、時すでに遅しであった。

僕の姿に気づいた女子生徒が近づいてきた。

「あれぇ、十太がいるじゃん。急にどうしたの?やっぱり部活に出たくなっちゃたの。」

と僕の顔を覗くように聞いてきた。

「別にそんなことないよ。今日は荒木先輩に呼ばれたから来ただけだよ。」と言った。

「部長に?何やらかしたの。」と声のトーンを少し上げて聞いてきた。

どうやら、人の不幸に関しては大好物なようだ。

「別に何もやらかしてないと思うけど」と自信なさそうに言ってしまった。

「まあ、部長はそこまで怖くないから大丈夫だよ思うよ。」とその女子生徒は言った。

そして、「あれぇ、十太の彼女がいるじゃん。」と言って夏樹と同様にすぐに春子に話題が移った。

「立花春子って言います。よろしくおねがいします」と礼儀正しく春子は言った。

「春子ちゃんって言うんだね。よろしく。私は斎藤さいとう 由梨ゆり。由梨ちゃんって呼んでね。」と右手を出して、春子もその右手を掴んで握手をした。

僕は心の中で、何の会議だよと突っ込んでいた。


※斎藤由梨は僕たちとは違うクラスであるが、人見知りはせず活気に満ちた女子生徒。

よく男子から告白されている姿を見る。そして、兼部はしていないらしい。

僕が部活見学に仕方なく行った時に会って無理やり入部させられた。

ちなみに、春子はその時クラスの女子友達と行っていていなかった。


「それにしても春子ちゃんってすごいよね。十太と一緒にいても平気なんでしょ?」

「おいおい、人を病原菌のように言うなよ」と僕は由梨に向かって言った。

「ごめん、ごめん。」と舌を出して謝った。

本気で反省しているのか気になったが言わないことにした。

すると春子が「十太とは幼馴染だから、もう慣れたよ。でもたまにイライラすることはあるけど」

と言って、お互いに笑いあった。

笑い終わった由梨が「やっぱり、十太の彼女だけあるね。これからも十太をよろしくね」

と春子に向かって手を合わせてお願いしていた。

お前は俺のなんなんだよと心の中で突っ込んだ。

とそんな会話をしていたら、部長の荒木唯先輩が短い髪をなびかせながら入ってきた。

「ごめんね。遅くなって、ちょっと迷子になっちゃって。」と言った。

迷子?3年もいて迷子になるかぁ。さすが荒木先輩だと心の中で拍手が起こった。

そして、僕の事に気づいた荒木先輩が「良かった。十太君が今日はいてくれて」ともうすぐで泣きそうな顔をして安堵していた。

「すみません。全然、部活に顔を出さなくて」と僕は謝った。

「いいのいいの。でも少し寂しかったかな。だって、由梨ちゃんの同学年って夏樹君と十太君しかいないでしょ。それに夏樹君はバスケ部であんまり出れないし。」と言った。

「それって、単に僕は由梨の相手になれってことですか?ちなみに今日、僕を呼び出したのってそれを伝えるためですか。」

と僕は立ち上がり聞いた。

それを聞き、荒木先輩は何も悪びれることもなく「そうだけど、駄目だったかな」と言った。

僕は全身の力が抜け椅子にへたり込んだ。

そして、周りから笑いが起きて、由梨と夏樹からも『ドンマイ』と慰められた。

やっぱり、天然だなと改めて思った。


※家庭科部の荒木先輩は、勉強に関してはすごい出来る優秀な先輩であり部長でもある。

その分、天然なところがありよく校内で迷子になることがある。


「ところで、十太君と夏樹君と由梨ちゃんともう一人の女の子はどなたですか?」

と荒木先輩は聞いてきた。

僕は、「すみません。本日、家庭科部の見学希望の立花春子さんです。」と紹介した。

それに続いて、春子も立ち上がり「よろしくお願いします」と頭を下げた。

すると、横から吉田先輩が「実は、十太君の彼女らしいですよ。」と続けて紹介した。

それを聞いた荒木先輩が「おや。十太君の彼女さんでしたか、よろしくおねがいしますね。」と

頭を下げた。

なんとも物腰の柔らかい人だなと改めて思い、僕にももう少し優しくしてくれてもいいのになと同時に思った。

「そうしたら、本日は見学希望が2人という事ですね」と言って、荒木先輩が入ってきてと手招きをした。

入ってきたのは男子生徒で顔を見た途端、僕は目を見開いた。

なんと、その男子生徒とはキングであった。

「皆さんに紹介しますね。本日、見学希望の金田かねた君です。」と紹介した。

続けてキングも「よろしくお願いします」と頭を下げた。

「そしたら、案内は十太君にお願いしますね」と当然のように言った。

「ちょっと待ってくださいよ。まだやるとは言ってませんよ」と僕は言ったが

「えっ。ダメなの?どうしてダメなのかな?」と優しい口調で言ったがなぜかすごい圧を感じるので

断る事が出来ず、そのまま受けることにした。

「良かった。十太君なら引き受けてくれると思ったよ。」と言ってくれた。


そして、僕は春子と金田キングを連れて家庭科部の案内をした。

「なんか、先輩たちも優しそうでよかった。」と春子は安堵している。

「そうなんだよ。吉田先輩と荒木先輩は少し癖があるけどね。」と僕は言った。

「確かにね。特に吉田先輩、少し十太に気があるみたいだしね。」

「えっ。そうなの?全然、そんな感じしなかったけどね。」

「全く、十太は鈍感なんだから、私たちが付き合ってるって言ったら少し残念そうな顔をしてたからね。」

「そうだったんだね。じゃあ、家庭科部に入部するのは難しいね。」と僕は言った。

しかし、「それとこれとは別だよ。私は入部するつもりでいるよ。」と春子は言った。

「本当に?よかったよ。」と僕は言った。

すると後ろから、「ねぇ、君たち。盛り上げってるところ申し訳ないんだけど、僕の事忘れてないかな」と金田は言った。

「ごめんごめん。じゃあ案内を続けようか。」


と一通り案内を終えたところで、僕は「金田君、ちょっといいかな?」と呼び出した。

やってきた金田キングに「ちょっとどういうことだよ。学校には来てもいいって言ったけど部活に来られるのは困るよ。」と僕は言った。

「ごめんごめん。でも、校内をまわってたらあの荒木先輩って人に声かけられて、無理やり連れてこられちゃったんだよ。そしたら、まさかお前があの部活にいるとは思わなかったから」

とキングは困惑顔で言った。

「まぁ、仕方ないか。今日だけだからな」と僕は何とか許すことにした。

案内を終えた、僕と春子と金田キングは家庭科室に戻る事にした。

家庭科室に入ったら、みんなが黙々と作業をしていた。

戻ってきた、僕たちに気づいた荒木先輩が近づいてきて

「十太君。ありがとうね。」と笑顔で言った。

「いえ。全然大丈夫です。それより、今皆さんは何をやってるんですか?」

と聞き、「そうかぁ。十太君は全然出てなかったもんね。実はみんなでトートバックを作って

それを各自、発表していこうって事になってるの。今週はデザインを決めて終わった人から

作っていく感じにしようかと考えてるんだよね。」と荒木先輩は僕たちを見ながら説明した。

「そうなんですね。じゃあ、僕は参加しないといけない感じですよね。」

「別に自由だけど、私は十太君がどういう感じのデザインにするのかが気になってたから参加してほしいなあ」と本当か嘘か分からないような口調で荒木先輩は言った。

「分かりましたよ。しっかり作りますよ。」と僕は言い、それを聞いた荒木先輩が

「そうこなくっちゃ」と背中を思いっきり叩いてきた。

予想以上の強さになんでこの人は思いっきり叩くかなと心の中で突っ込んだ。

すると、「あのぉ。それって私達も参加した方がいいですか。」と春子が聞いてきた。

その言葉を聞いた荒木先輩が「えっ。参加したいの?そしたら入部って事になるけど」と目を輝かせながら聞いてきた。

「先輩、その言い方だと断れませんよ。」と僕は言った。

「何言ってるの。断らせないに決まってるじゃない」と当然のように言ってきた。

なんだこの人。めちゃくちゃだなと心の中で思った。

「はい。ぜひ入部したいです。」と春子は元気よく言った。

「ありがとうね。そしたら今入部届持ってくるから、ちなみに金田君はどうする?」

「えっ、いや。僕は大丈夫です。」と普通に断ったが、「本当にそれでいいんだね。後悔しても遅いからね。」と半分脅しのような言い方で言ってきたが、キングはそれでも断り逃げて行った。

「あーあ。残念だわ。でも春子ちゃんが入ってきて嬉しいよ。」と荒木先輩は言った。

「すみません。一ついいですか。家庭科部って調理実習みたいなことはするんですか。」

と春子は聞いた。

「一応するんだけど、その時は顧問の先生がいないといけないから滅多にやらないけどね。

ちなみに、裁縫するときも針を使うから顧問の先生が必要なんだよね。今日みたいな日は別に部員だけでできるけど・・・」

「そうなんですね。分かりました。」

「今週末か来週には顔を出すって言ってたからまた紹介するね。」と荒木先輩は言った。

僕の脳裏には一人の先生の顔が浮かんだが、そんな訳ないだろうと思った。

先輩が入部届を取りに行っている間、春子が「ねぇ、十太って顧問の先生を見たことないの?」

と春子が聞いてきた。

「ちょうど、僕は部活に顔を出す時がいつもいない時で、会った事ないんだよね。」と言った。

「そうなんだ。誰だろうね。」と興味津々に聞いてきた。

「まぁ、誰でもいいけどね。」と僕は言った。

荒木先輩からもらった入部届を手にして夏樹と由梨がいる席に戻った。

「春子ちゃん、入部してくれるの?」と由梨が嬉しそうに早速聞いてきた。

「一応、楽しそうだから入ってみようかと思って。」と春子は言った。

「やったー。これで1年生は4人になったね。夏樹君」

「そうだね。よろしくね。春子ちゃん」と夏樹も言った。

すると、それを聞いた吉田先輩が近づいてきて「よし、彼女さんが入部したから十太君は幽霊部員じゃなくなるね。」よくやったと言わんばかりに春子に向けて親指を立てた。

「はい。そうなるといいんですけど」と春子は困惑気味に言った。

それから、入部届を荒木先輩に提出をした。

「春子ちゃん。短い間になるけどよろしくね」と荒木先輩は目を輝かせながら言った。

「はい。こちらこそよろしくお願いします」と春子も答えた。


《部活後》

それから、僕と春子は一緒にデザインを考え部活が終わった。

家庭科室から出たら荒木先輩が下駄箱とは反対側の所に行こうとしていたので僕は

「荒木先輩、そっちに下駄箱はありませんよ」と言って呼び止めた。

それに気づいた荒木先輩は「そうだった。この学校は大きいから迷子になっちゃうね。」

と笑いながら言った。

「まあ、大きいのは分かりますけど、3年間も通ってるのに迷子になるってある意味すごいですね。」

と僕はここぞとばかりにいじってみた。

すると、「十太君は相変わらずひどいことを言うね。そんな事言うんだったら、十太君だけ課題増やしちゃおうかな」と嘘か本当か分からないような口調で言ってきた。

「それだけは、勘弁してくださいよ。謝りますから」と僕は謝り、「それでこそ我が部員」と言って背中を叩かれ何とか許しをもらえた。

僕たちの光景を見ていた吉田先輩が後ろから

「ちょっと、そこのお二人さんイチャイチャしないでもらえますか。まだ学校内なんですけど。

 それに、浮気は良くないよ。十太君」

と言われ僕は春子と目が合ってしまった。

「いや、そんなことないですよ。そうですよね先輩」と助けを求めたが

「それはどうかな?」と言われてしまい、ややこしくなってしまった。

下駄箱で靴を履き替え僕たちは先輩と夏樹や由梨たちと別れた。


《帰り際》

春子が「ねぇ。さっきのどういうつもり?」と聞いてきた。

「さっきのって?」と知らない振りをしたがすぐに見透かされてしまった。

「知らない振りしても無駄だからね。」と少し語気を強めて言ってきた。

「もしかして、春子ちゃんは嫉妬してるのかな?」と僕は少しいじってみた。

すると、「そ、そ、そんな訳ないじゃん。なんで、あんな事ぐらいで私が嫉妬なんかするのよ」

と明らかに動揺していた。

「そうなんだね。少しぐらい嫉妬してくれてもよかったのに」と普段はできないような返しをしてみた。

それを聞いた春子が「なんでそんな事言うかな。そうですよ。嫉妬してましたよ。なんか悪い。」

となんか別のスイッチが入ってしまったらしい。

「なんだ。それなら最初っから言ってくれればよかったのに」と僕は言った。

「うるさい」と言ってそっぽを向いてしまったが、

その横顔は夕日に照らされているせいか恥ずかしいのか赤くなっていた。

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