お弁当と吸血鬼
「きゅう・・・けつき?」
十字架十太は、目の前にいる黒い影のような生物を前にして固まった。
固まってから数秒後にようやく「吸血鬼」と漢字に直すことができた。
いや待てよ。
吸血鬼は漫画やアニメの世界に登場するキャラじゃないのか。
「どうして、僕の部屋に吸血鬼なんかいるんですか」
「どうしてって?それは俺にも分からない。」
吸血鬼は当たり前のように言いながら、黒い影から 僕と同い年ぐらいの青年へと姿を変えた。
その言葉を聞き、僕の中では一つの仮説が生まれた。
そうか、我が家自慢の妹の十字架梅がどっかから連れてきたんだなと。
これは注意しないといけないと思い、僕は一度部屋から出て妹の部屋に向かいノックをした。
ノックをして数秒経ってから、「なに?」と気だるそうな声を出しながらドアを開けた。
「何ってなんだよ。お兄ちゃんに向かって。」
「はいはい。ごめんなさい。なんですかお兄様」
お兄様とバカにされているような言い方をされ、本当に反省しているのか気になったが、
今はそれを気にしているような時ではないと思い、吸血鬼と名乗るような生物を連れ込んだ事について注意をした。
「梅、駄目じゃないか。勝手に家に吸血鬼と名乗る生物を連れてきちゃ。」
それを聞いた目の前の妹が眉間にしわを寄せながら「なに言ってるの?お兄ちゃん大丈夫?」
と言ってきた。
さっきの春子の件で問い詰められた時にも気になったが眉間にしわを寄せているとせっかくの可愛い顔が台無しになると思ったが、おそらく無意識なのだろうと思い注意はしないことにした。
(注意をすると、さらにしわが深くなりそうな気がしたため。)
そして、学校ではその顔をしていないことを心の中で手を胸の前で組み祈った。
僕はふと我に返ると妹が「なんで、お兄ちゃんから話しかけておいてアホ面でこっちを見てるの?気持ち悪いんだけど」と顔を引きつらせながらきつめの言葉を言われたので若干傷ついてしまった。
「自分のアホ顔とよく分からない話をするために妹の部屋に来たってわけ。折角の私の大事な時間を奪わないでよ。」と言いながら妹がドアを閉めようとしたので、反射的にドアを抑えた。
「勝手に閉めようとするなんてひどいじゃないか。まだ話は終わってないんだから。」
「お兄ちゃんの言っていることがよく分からないんだけど、私はどうしたらいいの」
「一緒に部屋に来てほしい」
と僕は言いながらドアを開け妹を引っ張りだそうとしたが、粘られたため余計な出費になるが我が家の平穏のためと思い「それじゃあ、一緒に部屋まで来てくれたらお兄ちゃんが好きなドーナツを5個買ってやるよ。」と言った。
その言葉を聞いた妹が「それ本当?」と疑わしげな目で見てきたが「本当だとも、もし嘘なら1週間勉強を見てやろうじゃないか」とその言葉を聞き、妹はなんとか納得してくれた。
そして、妹と一緒に部屋の前まで行き中に入った。
案の定、先ほどの吸血鬼と名乗る生物は青年の姿で椅子に座っていた。
「やあ、遅いじゃないか。この吸血鬼を一人にしてひどいじゃないか」
と言いながら、その目線を僕から横にいる妹にずらした。
「君が妹さんかね。これはこれは初めまして我が名は吸血鬼のキングと申します。
以後、お見知りおきを」
自己紹介があってから少しの沈黙が訪れた。
少しの沈黙があって僕は横にいる妹に顔を向けると、妹も顔を向けてきた。
「お兄ちゃん。どういう事なの?誰この人知らないんだけど。」
と困りながら言ってきた。
「知らないってどういうことだよ。お前が連れてきたんだろ」
「だから、知らないってば何度言わせるの」
このまま言い合っては一生、終わらないと思い僕の部屋話に入り事の経緯について話すことにした。
部屋に入り少しの沈黙があってから僕から声をかけた。
「じゃあ、本当に吸血鬼だとするならどうして僕の部屋にきたんですか」
吸血鬼と名乗る生物に困ったような顔をされた。
「実は、俺もどうして人間界に来たのかが分からないんだよ」
その言葉を聞き、今まで僕の横で黙っていた妹の梅が「ねえ、お兄ちゃん。この人、本当に吸血鬼なの」
と聞いてきた。
「確かに、それは僕も気になってた。」
「じゃあ、試してみようよ。私は冷蔵庫からニンニクをとってくるね」
妹は元気よく立ち上がるとスキップしながら部屋から出てキッチンに向かっていった。
僕と妹の姿を見ていた吸血鬼と名乗るキングが
「今、お前の妹は何を取りに行ったのだ?ニンニクって言ってたけどなんだそれは」
と聞いてきた。
吸血鬼なのにニンニクの事は知らないんだと驚いていると、部屋の扉が開きニンニクのチューブとスプーン持ってきた妹が中に入ってきた。
「ごめん。お兄ちゃんニンニクチューブしかなかった。」
「まあ大丈夫でしょ。とりあえず試してみよう。それよりお母さんによく怪しまれなかったな」
「そんなことないよ。普通に怪しまれたけど何とか誤魔化しといたから心配ないよ」
どんな、誤魔化し方をしたのか気になったが聞かないことにした。
それより早速、有名な吸血鬼撃退法を試してみることにした。
僕は、スプーンにニンニクチューブを乗せて「毒とか入ってないから一回これを嗅いでみて。」
と言いながら吸血鬼と名乗るキングの前に差し出した。
「分かった。嗅げばいいんだな。」
恐る恐る嗅ぎ出した。
嗅ぎ始めてから何も異変が起きずあきらめていると、突然体が光り苦しみ始めた。
そして、苦しみながら「頼む、早く俺の前から離してくれ。」
と言ってきたので、僕はすぐ話した。
そして、すぐに体の光が消え苦しみも収まったようだ。
その後も十字架を見せたりしてもニンニクチューブの時と同じ現象が起きた。
そこで僕と妹は目の前の生物が本当に吸血鬼であることを認識することができた。
「ねえ。お兄ちゃん。私達は夢を見てるのかな。」
「いや、そんなことないよ。夢だったらとっくに覚めてると思うよ。」
「怖いんだけど。ちょっとお母さんを呼んでくるね」
その言葉を聞き、止めようとしたが勢いよく立ち上がり母親を呼びに行ってしまった。
少したってから妹と母親の智子が入ってきた。
「おや、本当にいるよ。まあ吸血鬼がなんだか知らないが十太の友達なら私達の家は大歓迎だよ。
いつまでいてもいいからね。」
受け入れるの早すぎだろと心の中で突っ込んだ。
それから「そうだ。もうすぐ、お父さんが帰ってくるから一緒に食べよう。名前はなんて言うのかね」
「これはこれは失礼。我が名は吸血鬼のキングと申します。」
「キング君ね。うちはこんな二人しかいないけどよろしくね」
こんなで悪かったなと恨みを含めた視線を送ったが、その視線を気にすることなく智子は部屋から
出て行ってしまった。
それから、父親の聡が帰ってきて吸血鬼のキングについて紹介したが
母親と同様にすぐ受け入れてしまった。
なんだこの家族はと妹と顔を見合わせてしまった。
僕は吸血鬼のキングを部屋に入れ、そのまま1夜を過ごした。
≪翌日≫
朝の眩しい日の光で僕は目を覚ました。
昨日の色んな出来事が起きすぎたせいかまるで何か月も前かのような感覚に陥っていた。
ふと、自分の部屋を見たらキングの姿はなかった。
※ここからは吸血鬼のキング→キングに直させてもらう
やはり、キングの件は夢だったかと安堵していると、妹の梅の部屋から叫び声が聞こえた。
僕は驚き、すぐに妹の部屋に向かった。
部屋に入ると、そこにキングがいて、心なしか右側の頬が腫れているように見える。
そして、妹が目を潤ませで僕の方を見ていた。
キングを僕の部屋に戻してから、妹に事の経緯について話してもらった。
どうやら、昨日の夜遅くか今日の早朝にキングが妹の部屋に忍び込んだらしい。
起きて、キングがいることに気づいた妹は起きていない振りをしていたが、キングが布団に入ろうとしたため、急いで起きて無意識にビンタをしてしまったとの事だ。
その経緯を聞いた後、なぜか僕が妹と母親に怒られてしまった。
僕は、キングを注意したが本当に反省しているのかは分からなかったので明日までとりあえず様子を見ることにした。
そして、そのまま朝の支度を終え、玄関で靴を履いていると肩を叩かれ振り返ると妹の梅の姿があった。
「昨日の事、ちゃんと春子ちゃんに謝りなよ。後で後悔することになっても知らないから。」
「分かったよ。アドバイスありがとう」
さすが、我が家の中学3年生の恋愛マスターはすごい。
※梅は現在の彼氏とは中学生1年生の時から付き合っているらしい。
そのため、春子の事ではかなり相談に乗ってくれている。
妹にお礼を言ってから、学校に向かった。
家から学校までは徒歩で20分の距離にある。
登校中、前を見ると春子の姿があった。
いつもは、春子の家に寄ってから登校するようにしているが、昨日の事もあり今日は別々での登校であった。
昨日の事について話そうと歩くスピードを速めようとした時、突然後ろから肩を組まれた。
振り返るとそこには、中学からの友達である隼人と高校に入ってから友達になった夏樹がニヤニヤしていた。
「十太が一人で登校なんて珍しいな。いつもは春子と一緒だろ。それに今目の前にいるじゃんよ」
隼人が言った言葉に僕は何も言えず黙っていると、それを察した夏樹が
「もしかして、二人とも喧嘩してるの?」
「そうなんだよ。昨日、めっちゃ怒られたよ。なんで起こしてくれなかったんだよ」
「まじか、そろそろ限界が来てるかなと思ったんだよ。やっぱり怒られたんだね。
でも、全部お前が悪いと思うぜ。」
隼人は相変わらずニヤニヤしながら言ってきた。
「いや、全然笑い事じゃないんだけど」
すると横で聞いていた夏樹が
「いや、俺達も6時間目が終わって起こそうとしたんだけど、春子ちゃんが起こさなくていいよと言うから起こせなかったんだよ。今考えると、あの行動は十太のためを思って言ったんだと思うよ。」
それを聞き、僕のためとは言え少しぐらい声をかけてくれもいいじゃないかと思った。
それに昨日は頑張って起きてたんだけど6時間目の途中で力尽きてしまった。
続いて、隼人が「まあ、とりあえずお前はしっかり謝った方がいいよ。骨はちゃんと拾ってやるから。それに、もしお前が振られたら俺が春子と付き合うから心配するな」
どんな励まし方だよと心の中で突っ込んだがさっきまでとは違い元気が出てきた。
「それにしても春子とお前が喧嘩するなんて初めてだよね。今まではお前が一方的に怒られている感じだったのに。」
「いや、昨日もいつも通りの感じで怒られたんだけど、何も言えなくてそれを見てさらに怒らせちゃってこんな状態だよ。それに昨日は帰ってから梅にも怒られたし」
「そういう事か。まあなんにしろお前が全部悪い。梅ちゃんに怒られたのも仕方ない。」
そこまでの話を横で聞いていた夏樹が「梅ちゃんって誰?」と聞いてきたため、僕は妹と答え
少し安心していた。(どうやら、僕が浮気をしていると思っていたらしい(笑))
それからは昨日のテレビの事やプロ野球の事について話しながら、僕たちは学校に着いた。
3人で教室に入り、机に座って鞄から筆記用具を取り出していた春子と目が合ったがすぐに逸らされてしまった。
それを横で見ていた隼人が耳元で「かなり深刻だな」と言って憐みの目で見てきた。
周りの女子達も近づいてきて色んなことを言われた。それから朝のホームルームと1~4時間目まで授業が進んだ
(ちなみにこの間は1度も寝ていないというか全く眠くならなかった。)
そして昼休みになり、いつも通り僕は屋上で昼ご飯を食べることにした。
屋上に着き真ん中にベンチがあったのでそこに座り一人で弁当を広げていると、いつもは春子と二人で食べていたせいかすごい違和感を感じていた。
そんな哀愁に浸っていると、後ろから「おや、智子さんはいい弁当を作ってくれるじゃんか」
聞き覚えのある声がして、振り返るとそこにキングがいた。
僕は驚きながら、「なんでお前がいるんだよ。それに人の母親の名前を勝手に呼ぶなよ」
「なんでって、俺とお前は一緒に暮らしているじゃないか。それにちゃんと許可はとってある。」
その言葉を聞き、何の許可でいつ取ったんだよと疑問に思ったが聞かないことにした。
それに一つの疑問があった。
「そういえば、吸血鬼って日の光に弱いはずだけど大丈夫なのか。ここは屋上で結構日が差しているけど」
「確かに、お前の言う通り俺達吸血鬼は日の光に弱い。だからこそこのように日傘を使っているのである。それにしてもお前の学校はかなり広いな。今度案内してくれよ。」
「分かったよ。近いうちにこの街の事も含めて案内するよ。」
そういって、僕はさしている黒の日傘を見た。
洋服が黒いせいで、一見したらどこかの執事に見えなくもない。
そんなくだらないことを考えていると校内入るための扉が開いた。
そこから、春子がお弁当を持って出てきた。
僕に気づいて、引き返そうとしたが知らない振りをして屋上のもう片方のベンチに座った。
いつもは話しながら食べているが、今日はお互いに一度も口をきいておらずなんとも言えない重い空気になっていた。
なんとも言えない空気の中、うまく僕の横に隠れていたキングが
「なあなあ、せっかく智子さんが作ってくれた弁当なのにもったいないな。俺が代わりに食べてやろうか。」
「いや、いいって。僕の弁当だからお前が食べるなよ。」
「えーケチだな。それだから、彼女さんと妹さんに怒られるんだよ」
「今それの事にかんしては関係ないだろ。ちょっと静かにしてくれよ」
少し、声が大きくなってしまった。
キングの声がしないので横を見ると視線が僕じゃなく遠くの方を見ていた。
僕はその視線の方に目を向けると春子がこっちを見ていて目があった。
目があったのに気づいたのかすぐに逸らされてしまった。
僕も目を伏せてもう一度見ようとした時、春子の横にキングがいた。
どうやらいつの間に移動したらしい。
それに気づいた春子が「なんですか。あなたはさっきから私の方をみて」
「いやいやこれは失礼。お腹が空いていて先ほどあなたの横にいる俺の友達からお弁当をもらおうとしたがケチであったからもらえなかったんだよ。だから少し分け与えてくれないか。」
それを聞き、一瞬春子がこちらを見た。
そしてもう一度、キングの方を見た。
「分かりましたよ。私はケチじゃないから好きなの取っていいですよ。」
そう言って、お弁当を差し出した。
ふつうは一つしかとらないのだが
お弁当を差し出されたキングは受け取り丸ごと口の中に放りこんだ。
その光景を見てお弁当を返された春子の背中は固まっていた。
僕は堪えようとしたが堪えきれず笑ってしまった。
その笑い声が聞こえたのか、春子がすごい形相でこちらをにらんできた。
そして、僕の方に向かってきた。
「ねえ、あんたの友達どうなってんの。折角の私のお弁当を返してよ。」
泣きそうな顔をしていた。
「ごめん、ごめん。僕から叱っとくよ。」
「もし、春子が大丈夫だったら僕のを食べるか。」
目を腫らしていた春子が、「いいの?まだ結構残っているけど。」
「いいんだよ。僕は、もうお腹いっぱいだから気にしないで食べてよ。」
「ありがとう。」
そう言って春子は僕の隣に座りお弁当を食べ始めた。
僕は決心を決めて、「昨日はごめんね。」と謝った。
「僕は、あれから家に帰ってから考えてそれに今日登校すると時と屋上に来て昼ご飯を食べている時も春子がいなくてすごい寂しかった。僕がいつもだらしなくて春子を困らせていたことを知ってすごい反省しているし、これからも一緒にいてほしい。だから別れたくない。」
その言葉を聞き、春子が笑った。
「どうして笑うんだよ。僕は真剣に言ってるんだよ。」
「ごめんごめん。私が困っているって話を隼人と夏樹君と梅ちゃんとかから聞いたんでしょ?」
図星を突かれ黙っていると、
「やっぱりそうなんだね、十太は変わらないね。しっかり反省してくれていたなんてちょっと嬉しい」
「やっぱり怒ったかいがあったよ。これからも定期的に怒ろうかな。」
「いやいや、もう昨日ので懲り懲りだよ」
「私も、昨日言いすぎちゃったなあって思ったから梅ちゃんに電話して話してたら泣けてきちゃったよ。」
「本当にやめてほしいよ。昨日めっちゃ怒られたんだから」
「本当にごめんね。じゃあこれで仲直り」
「それより、さっきの十太の友達って言ってた人何者なの?」
それを聞き、僕は周りを見たがキングの姿はなかった。
突然、現れたり消えたりどうやってやっているのか気になった。
「ねえ。聞いてるの?」
「ごめんごめん。春子には話してなかったけど中学の頃に出会った金君って言うんだよ。」
「中学の時にそんな名字の人いたっけな?」
「まあ春子は、いろんな人と仲良かったからね。仕方ないよ」
「そうだね。じゃあ今度会ったらしっかりお弁当の事を謝ってもらわなきゃ。
でも、金君がいなかったら私達は仲直りできなかったかもね。」
「確かに、それもそうだね。感謝しなきゃ」
それを思っていると、昼休みの終了を告げる予鈴が鳴った。
それを聞き、立ち上がると「今日は聞こえたんだね」と、皮肉っぽく言われた。
そして、僕と春子は一緒に校内に入った。
教室に入ると、そこには誰もいなかった。
おかしいなと思い、黒板の横に貼ってある時間割表を見ると『科学』と書いてあり
移動教室であった。
僕と春子はお互いに顔を合わせ、急いで準備をして科学室に向かった。
科学室に着いて入ったらすでに授業が始まっていた。
授業後、先生に「十字架君が遅れるのはいつも通りとして、立花さんが遅れるなんて珍しいですね。
しっかりしてくださいよ」
と僕以上に春子が怒られていた。
科学室を出て、クラスの教室に向かっている時に「なんで、私ばっかいつも怒られるかな」
と半分イライラをぶつけられているような感じがした。
「仕方ないよ。春子は学級院長で信頼されているんだから」
と僕が言った後、逆鱗に触れたのか
「何言っているの?全然仕方なくないよ。十太は頑張っているのにどうして平等な扱いをしないのかに怒ってるんだよ」
春子は気づいていないかもしれないが、僕も今までも相当怒られてる。
それが、今回は春子に全部向かってしまったのだ。
これを言ってしまうとまた喧嘩が始まってしまいそうな気がしたので心の中でとどめておいた。
「ごめんよ。僕が悪かったよ。だからそんな怒らないでくれよ。」
春子が泣きそうな顔をしながら怒っていたので鎮めるのに時間がかかってしまった。
教室に戻ったら、隼人と夏樹が近づいてきた。
そして、隣にいる春子に聞こえない声量で
「おい、十太。昼休みに何があったんだよ。昼休み前まではあんなに仲が悪そうだったのによ。」
「そうだよ。なにがあったんだよ。」
僕は二人に事の経緯を話した。
「そういう事か。まあ解決したならよかったよ。一件落着だな。」
そう言いながら隼人と夏樹は笑った。
すると横にいた春子が、「なに3人でこそこそ話してるのよ。私も混ぜてよ。」
それを聞いた隼人が「いや、お前には話せないことだから気にするなよ。なあ夏樹」
突然話を振られた夏樹が「確かにそうだな」と意見を合わせた。
すると、春子が隼人のすねを蹴った。
蹴られた隼人が苦悶の表情を浮かべながら「何すんだよ。」と言った。
「仕方ないでしょ。あんたが話してくれないからいけないんだよ。それに夏樹君も隼人に同情しちゃだめだからね」
と夏樹の事もにらんだ。
それに夏樹も「ごめんごめん」と誤っていた。
他人事のようにその光景を見ていたら、春子がこちらを見て睨んできた。
その視線だけで怒っていることが理解できた。
そんなことをしていると予鈴が鳴り、6時間目が始まった。
6時間目が終わり、ホームルームも終わり放課後になった。
僕は春子の席を見たが、すでにいなかった。
もしかして、さっきの事で怒らせちゃったかなと心配になって下駄箱に向かうと春子が下駄箱の所に座って待っていた。
僕に気づいて「遅いよ。何やってたの。早く帰ろうよ」
「僕はいつも通りだよ。春子が早いだけじゃないの。」
「そっか。私が早かっただけかごめんね」
そんなことを話していると、僕のお腹が鳴った。
それを聞いたが春子が大きな声で笑った。
「なんだ。十太。やっぱりお腹空いてるんじゃんよ。お昼の時我慢しなくてよかったんだよ。」
「仕方ないだろ。僕はその時は全然空いてなかったんだから」
「十太はやっぱり優しいね。ありがとう。そしたら帰りにあるお肉屋さんでコロッケでも買って帰ろうか。」
「確かにそれはいい案だね。買って帰ろう。ちなみに春子のおごりでしょ」
「どうして?」春子は首をかしげてきた。
「それは、僕のお弁当を食べたからに決まってるでしょ。それに朝、僕の事気づいていたのに無視したから。」
「あれは、十太がくれたから食べただけだよ。それに朝の事は悪いと思ってるよ。」
それを見て、なんか悪い事を言ったかなと思っていると
春子が勢いよく立ち上がり「分かったよ。奢ればいいんでしょ。その代わり今日の事はこれでなしだよ。」
そして、勢いよく外に出て僕も続いて外に出た。
空を見上げると昨日と同じ夕焼けだったがなんか違うように見えた。
そして前を見ると春子が僕の方に手を大きく振っていた。