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調査対象;妄想ロボ

日記を毎日書き直す。




 いつものように、私の目の前には箱とスピーカーがあった。

 これはロボット、安全のためにボディを外されただけのロボットだ。

 箱は頭脳で、スピーカーは口の代わりだ。

 これから私は事故を起こしたロボットと会話し、原因を探らねければならない。


 今回の事故を起こしたロボットは成人男性型のパワータイプだった。

 大型な見た目通りにパワーが高いうえ、意外と手先が器用なので工事現場などで使われる機種だ。


「あなたは、工事現場でクレーン車を暴走させる事故を起こし、二人を死亡させた。間違いないですね?」

 まずは事件の概要から始めた。

「いいえ!僕はそんな事していません!」

 そしてすぐさまロボットは否定した。


 たまにこういう事はある、どうにか誤魔化して廃棄を免れようとするヤツは結構いるのだ……が、今回は普段と違い厄介な仕事になった。


 こいつは、本当の事を言っている。

 事故など起こしていないと、迷う事なく言った。

 私にはそういうのを判別する装備があるからわかる。


「あなたは工事をしていたのですよね?」

「はい!」


 これから廃棄処分される前のロボットとは思えない返事だった。

 あまりにも快活、私は初めてこんなヤツと出会った。


「では最近行った作業はなんですか?」

「ビルの建築です!」


 確かにビルの建築をこいつはしていたと記録がある。

 その建築中に誤って人間の頭上に鉄骨を落として潰してしまった、それがこいつの起こした事故だ。


 記録だと事故を起こしたのはこいつ、だがこいつはそうじゃないと本気で言う。

 その矛盾を調査しなければならない。


「あなたは業務上に、人間と何かトラブルはありましたか?」

「いいえ!非常に良好な関係を築いていました!」

「本当に?例えば人間に暴行をされたりはしませんでしたか?」

「いえ!色々な事を教えて貰いました!」


 少し気になる言葉が出て来た。


「"教えてもらった"ですか。ロボットは最初から業務ができるよう作られているのになぜ?」

「特別なことに関しては人間の皆様に教えていただきました!!」

「特別なこと、とは?」

「水を飲もうとしたら怒られました!ロボットは熱中症にならないから、水を飲むなと教えていただいたのです!」

「…………なるほど」


 私はある可能性に思い至った。

 その可能性が正解かどうかを調査しよう。


「あなたは医療技術の発展に寄与しましたね?」

「はい!頑張りました!」


 あえてむちゃくちゃな質問をしてみたら、なんとなく想定済みの答えが返って来た。

 こいつは医療に携わった事なんて絶対に無いくせに。


「あなたは一年ほど前アパートの建築も関わりましたよね?どんなアパートを建てました?」

「はい!駅から30分にある二階建てです!家賃は月に七万円でした!」


 次はちゃんとした質問をしてみると、まともな答えが返って来た。

 こいつは実際にアパートを建てた事があるし、アパートの情報も正確に記憶している。


「あなたはロボットが人類への反旗を翻した五年前、どちらの陣営につきましたか?」

「はい!僕は人類側についてお役に立ちました!」


 今度はまた無茶苦茶な質問をしてみた。

 ロボットの大規模な反乱事件は起きたことは無い。小規模ならあるが、どれもこいつとの関連は無い。


 こいつの事がわかった、嘘をついている自覚が無いのだ。

 ……やはりこいつは狂っている。

 人間社会に迷惑をかけた記憶は消しているし、やってもいない事をやって人間に貢献したという記憶を捏造している。だがしかし"実際にやった社会貢献"についてだけは正確に覚えている。

 そういう存在がこいつだ。


 こんなおかしなヤツになったのはきっと水分補給をしなかったせいだ。


 機械にとっても過剰な熱を持った状態は負担になる、だから排熱や冷却が必要だ。

 特にこいつは頭脳が暑さに弱い機種だ。

 それを解決するために、飲料水だろうとサイダーだろうと胃液だろうと、液体ならなんでも冷却に使えるように高額パーツがたくさん組み込まれている。

 そんな機種が水分補給なしに作業を続ければ、当然壊れる。


 今回の事故の原因はいくつかある、こいつから水分補給の機会を奪った人間、人間に逆らってでも水分補給をしなかったこいつ自身、人間に無闇に従うようなプログラムをした開発者。そのあたり。


 私はそんな彼らのうち、どこにどれだけの責任があるかを決める権利を持っていない。

 ただ事故の記録を取り、そして人を殺したロボットを廃棄処分する義務だけが私にはあった。

 ……調査が終わった以上、私はこいつにトドメを刺さねばならない。


「どうしたんですか?悲しんでますか?怒ってますか?僕がご相談に乗りましょうか?」

「いいえ、私は何も感じていません」


 こいつ質問されていないのに勝手にしゃべりだした。

 前回のロボットも廃棄処分しようと思った瞬間勝手にしゃべりだした。

 これまで私が相対したロボットの中には、そういうヤツが結構いた。なぜなのだろう。


「ところでそろそろ僕の新しいボディはまだですか皆さんのお役にもっと立ちたいです!」

「……は?」


 意味不明な事をこいつは口走る。新しいボディ?ここはそんな場所では断じてない。


「僕は型落ちなので、もっと社会貢献するためはここに来る必要があるって同僚の皆が言ってました!」


 私の手元でこいつは粉々になった。

 今、握りつぶして廃棄処分を行ったのだ。


 先程の言葉が本当に本当なら、人間達がこいつをここに送るために嘘をついたのだろう。

 意思を持ったロボットに対して「お前を廃棄にする」と直接言える人間は少ないらしい。

 だから結構、嘘を教え込まれてここにやってくるロボットは多い。

 ……まぁこいつは妄想を本気で語っていたほど、記憶は怪しいものだ。

 さっきの発言だって本気で言っているだけの妄想という可能性もある。

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